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かくてありけり
16 遺体写真
2003年8月16日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
 7月22日、イラク駐留米軍は北部のモスルで、フセイン元大統領の長男ウダイと二男のクサイを急襲し射殺しました。それが本当に当人たちなのか、関心が高まるのに合わせ、米当局は24日、証拠として遺体の写真を公開しました。

 一見してウダイの方は顔がむくんだような印象で、生前の写真と比べても似ているとは言えない。クサイの方は苦悶の表情が残るが、生前の写真にそっくり。二人とも血糊が付着しているが、正視できないほどではない(個人差はあるかもしれませんが)。

 共同通信もAP、ロイターの配信写真を直ちに出稿しました。しかし、掲載社は、50余紙ある加盟一般紙の2割に満たず(ほかにスポーツ紙数紙が掲載)、在京紙では毎日新聞と産経新聞の2紙だけでした。
 相変わらず新聞は遺体写真に対する拒否反応が強いんだなと感じた次第です。新聞各社には、明文化しなくても、「死体は載せない」という原則があるようです。

 毎日、数百枚から入電する海外のニュース写真の中にはときどき遺体写真があります。素材を提供する通信社と、配信を受けて掲載する新聞社とでは扱い方に差がありますが、総じて日本の新聞社は遺体写真の掲載に慎重です。

 新聞が遺体写真を掲載しない理由は次の二つが思い当たります。
1、死者と遺族への配慮
 損傷の激しい遺体は死者の尊厳を傷つけます。無惨な姿をあからさまにされたら、遺族はさらに苦しむことでしょう。
2、読者への配慮
 むごい死に様であれば、読者に不快感を与えます。そうでなくても読者は朝っぱらから(あるいは夕飯時に)死人、死体など見たくはない。子供にはショックが強過ぎるかもしれません。

 でも、きれい事に終始すると、現実から逃避することになる。大事件や大事故などでは現実の悲惨さを伝えることは必要です。ニュースバリューが大きくなると時には不掲載の原則を吹き飛ばします。例外として掲載された例を思いつくまま挙げると、
1、権力者など著名人
 レーニン、スターリン、毛沢東、登正平、金日成、ポル・ポト、マザー・テレサ
 チェ・ゲバラ、三島由紀夫、ナジブラ、チャウシェスク。
2、大事件、大事故、大災害の犠牲者
 ジャカルタ暴動での焼死者、モスクワの劇場占拠事件の人質
 航空機事故、地震、水害などの犠牲者
3、戦争の犠牲者 
 第二次大戦、東京大空襲、広島・長崎の爆心地の惨状、ベトナム戦争、カンボジア内戦、ボスニア紛争、イラク戦争

 上の例を見ると、時代により基準が変わっているようです。それでも編集者が掲載に踏み切る判断材料は、ひとえに遺体の状態であり、写り具合が左右しています。鑑識写真のようなむき出しの写真では日の目を見ない。カメラマンは表現に細心の注意が必要です。

 ウダイ・クサイ兄弟の例に戻ると、米軍はその後、2人の遺体をバグダッド空港内のモルグ(死体安置所)で報道陣に公開し、代表撮影を許可しました。このときの遺体は専門家の手で整形処理されていました。口ひげを残し、頬ひげとあごひげはそり落とされ、化粧が施された顔は穏やかな表情で、皮膚の色は艶やかでした。この頭部の写真だったら、許容範囲内として掲載する新聞はもっと多かったと思われます。しかし、その後ニュースになることもなく埋もれ、日本の読者にはその存在すら知らない人が多いのではないでしょうか。
  
PS.
◎「死体」と「遺体」の使い分けについて
 ある辞書では、「死体」は死んだ人間や動物のからだ。「遺体」は死んだ人のからだ、なきがらを言う。「遺体」の方が「死体」に比べ人格性が込められている−と説明しています。

 私の仕事上の経験から言うと、身元不明や戦場での表現で「死体」を使い、身元が分かったものは「遺体」としているようです。ここで「身元」とは個人名でなくてもよく、大ざっぱな帰属先が了解されたらよい。例えば飛行機事故なら、誰であるか判明しなくても、その事故機の搭乗者ということで「遺体」を使います。人間以外の動物については通常「死がい」を使い、「遺体」は使いません。

◎ウダイらの写真の閲覧
 掲載の是非について写真を見なくては判断を下せない、まずは見たいと言う方には米国版Yahooのニュース写真のページをお勧めします。ここではAP、ロイター、AFPの三大通信社が提供する世界中のニュース写真が自由に閲覧できます。私の知る限り、世界最強のニュース写真サイトと言って良いでしょう。

 そのうちで新聞に掲載されるのはせいぜい3〜4%。掲載に至らない写真も閲覧する事でニュースを広く深く把握できます。また、日本の新聞と比較すると、編集の傾向も理解できるでしょう。

 アクセス手順は以下の通りです。
http://news.yahoo.com/を開き、左側のニュースのカテゴリー分類から、News Photosを選択。ジャンル別に写真が掲示されています。1カ月程度前の写真も検索できます。試しに検索窓に「Uday」と入れてクリックするとウダイの関連写真約220枚が表示されます。ページをめくっていくと、米軍が24日に公開した分と25日にメディアの撮影した分が生前の写真ととも出てきます。
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