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ボーダーを越えて
149 豊かな粗食
2009年7月16日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 戸外で友人たちと楽しんだ日曜の昼食。
▲ イタリア式オムレツ。好評でした。
▲ テラスに置いた鉢植えのズッキーニ。
先日の日曜日、友人家族2組を我が家にお招きして、南側のテラス(こちらではパティオ[patio]といいますが)で昼食をしました。テラスは道路に面していますが、道路より1メートルほど高く、また中壁に囲われており、前には大きなカリフォルニア・ペッパーの大木がありますので、適当にプライバシーがあります。 頭上に張ったキャノピーと大木のおかげで直射日光は当たらず、絶え間なく吹き込む海風で、そのテラスは真夏でも快適。大人6人と子ども3人で賑やかにのんびりと思う存分昼食を楽しみました。

友人たちがお豆腐料理やキュウリの中華風サラダを持って来てくれました。ホステスの私が出したのは、ズッキーニのイタリア式オムレツ2種(1つはベーコン入り、1つはベーコンなし)と、チキンのトマト煮を詰めた巨大ズッキーニと、トマトとバジルのサラダ。卵とチーズとチキン以外は皆うちの庭から穫れたものばかりですから、新鮮であり、安上がりでもあります。いえ、白状するとですねぇ、毎日穫れ過ぎて困るほど穫れるズッキーニをなんとかいっぱい使った料理にしようという魂胆で考えたメニューなのです。自家産野菜がいっぱいの大してお金のかからない食事ですから、ご馳走ではなくて粗食です。

でも、新鮮な野菜を、大きな木の下で、涼しい海風を身に受けながら、親しい友人たちとたっぷり時間をかけて楽しく共有して、粗食であっても、私はこれほど豊か食事はないという気分に浸りました。友人たちも皆喜んでくれて、本当に素敵な日曜日でした。

日曜日だけでなく、私たちは自宅菜園の野菜を毎日どっさり食べています。ズッキーニやクルックネックスクォッシュ[crookneck squash] やトマトを毎日どっさり食べるのは当分続きそうです。お茄子やベルペッパー[bell pepper](巨大ピーマン)も穫れ始めて来ました。今年の春はほとんど毎日ほうれん草やスイスチャード[Swiss chard] をせっせと食べていました。去年連れ合いのトーマスが、2階の南向きのベランダ(これもパティオといいます)は屋根はなくても温室のようで冬に植物を育てるのに向いていることを発見。パティオを囲む1メートルぐらいの高さの壁が海から吹く風を妨げるので暖かいのです。俄然、トーマスはこれまで以上に野菜作りに情熱を燃やすようになったのです。鉢で育てた野菜が大きくなると、大きな鉢に移して北側のベランダに置くということを冬から始めました。裏庭の木も切って畑にし、野菜の種類もこれまで以上に広げました。

たとえば、一口にほうれん草といっても、葉が平らな三角形のものもあれば、大きな楕円形でぶくぶく腫れ上がっているような葉のものもあります。とにかくたくさん穫れるので、はて、どうやって食べようか、といろいろ考えました。母がいわゆる「おふくろの味」と呼ばれる昔風の日本の家庭料理を作らなかったからでしょうか、私はそういう料理を作るのが苦手で、特に食べたいとも思わないものですから、ほうれん草のおひたしは1度作っておしまい。見かけは悪いけれど、オリーブ油とニンニクとレモンで味付けしたギリシャ式ほうれん草は大好物で何度も作りました。でも一番よく作ったのは、ほうれん草をクリーム状にしてココナツミルクで味付けしたスープ。お客様にも前菜として出せます。

野菜がたくさん穫れ始めると、食事の準備の仕方も変わって来ました。これまではどんなものを食べたいかをまず考え、それから料理の本を見て作る食事を決め、材料を買って料理する、という順序で夕食作りをやってきましたけど、このごろはまず、我が家でできる野菜をどうやって食べるかで食事の内容が決まっていきます。自然現象に従う野菜の生長に私が従うのですから、自然のリズムにグンと近づいて生活していると感じます。とにかく毎日毎日採れる野菜を変化をつけて食べようとするには、工夫とちょっとした冒険が必要で、そんな挑戦も楽しいものです。

我が家はキッチンもダイニングルームも2階にありますから、ドアを開けて一歩踏み出せばそこに野菜があるというのは本当に便利です。春には南側のベランダでさやえんどうがよく穫れました。葉っぱの影に隠れていたのもいっぱいあって、さやえんどうを通り過ぎてグリーンピーズになってしまいました。それなら、と青豆ご飯を作ってみたら、まあ、なんとおいしいこと! 4年前の大事故で首の骨を折って以来、微妙な味がわからなくなったトーマスでさえ、「これはおいしい!」と言って喜んだくらいです。あんまりおいしかったので、お店でグリーンピーズを買ってまた作ろうかな、という気も起こりましたが、止めました。がっかりするだけだろうと思ったので。トマトもうちで穫れなくなったら食べるのを止めてしまいます。お店で売っているトマトはどんなに見かけが良くてもおいしくないので。

シンプルな素材を旬のときにおいしく食べていると言えば格好よく聞こえるでしょうが、既におわかりのように、何でも植えて育てることの好きなトーマスがせっせと野菜作りに励む結果、必然的にそうなっただけなのです。

もちろん、アメリカでも日本でも、味と新鮮さと安全を求めて庭野菜の栽培に励む人も大勢います。ファーストレディのオバマ夫人がホワイトハウスの庭の一部を有機菜園にして、自宅菜園を奨励しているのがそのいい例ですね。管理人さんも同様でしょう。私の友人の中にもにも規模はそれぞれですが、野菜作りを楽しんでいる人は少なくありません。現在アメリカ全国で3千万以上の世帯が野菜作りをしており、毎年急増しているそうです。

また、厳しい不況のいま、食料費節約しながら新鮮な野菜を食べようという理由でも、自宅菜園はもちろん、街の中の共同菜園も盛んになっています。メキシコ・シティーでは市長率先でどんどん共同菜園が生まれているとか。

レストランにも変化が出て来ました。遠くから特産品を空輸して仕入れたものをメニューに載せるのが一流レストランと考えられて来ましたが、それは人間にも地球にも優しくないという認識が生まれ、地元の新鮮な産物を料理しようという考え方を土台にしたレストランが増えて来たのです。ニンジンでも大事に育てられたものは特上の肉と同じだ、と断言したサンフランシスコのシェフがいるくらいです。

こういうレストランはカリフォルニアではいま始まったものではありません。アリス・ウォーターズ(Alice Waters)がシェ・パニース(Chez Panisse)というレストランをバークレーに開いて先頭を切ったのは、1971年のことです。アリス・ウォーターズは1965年にソルボンヌ大学に比較文学の勉強に留学したのですが、フランスで学んだのはフランス料理でした。といっても、パリの一流レストランに魅了されたのではなく、南仏やブリタニーの小さなレストランで地元の産物を最大限に使ったものだそうです。帰国後、地元の旬の材料をフランス料理の手法で料理して友人たちをもてなしたのが高じて、シェ・パニースへと発展していき、世界の料理と地元カリフォルニアの材料を組み合わせたいわゆる「カリフォルニア料理」[California cuisine] の元祖となりました。いまでは世界ベスト50のレストランの中に入っているそうです。

もちろん私の料理など、いくら新鮮な野菜を使ってもシェ・パニースの足元にも及ばず、あくまで粗食です。でも、その粗食がおいしいと思うのは、決して負け惜しみではありませんよ。

ベランダ菜園は、目下奨励されている節水にも役立っています。野菜や食器を洗ったお水はバケツにとってベランダに置いておき、翌朝トーマスがそのお水を野菜に撒く。粗食に質素、それが私たちの生活様式です。
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