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ボーダーを越えて
152 ラタトゥイユ(1)
2009年9月29日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 我が家の菜園から穫れたラタトゥイユの材料。これにタマネギを加えると、材料は全部そろいます。
▲ たちまち平らげられる 私のラタトゥイユ。
▲ 今年もお誕生日にラタトゥイユを食べて大満足のジョンソン氏。
8月から上映が続いている「ジュリー&ジュリア」(Julie & Julia)を、見て来ました。土曜の夜は映画と外食、と30年も続けて来たことなのに、今年はやたらと忙しくてそれも途切れがち。封切りになって以来、是非見たいと思っていたこの映画を、9月も末になってやっと見ることができたのです。

ジュリアとは『Mastering the Art of French Cooking』(『フランス料理をマスターするには』)というベストセラーと人気テレビ料理番組を通じてアメリカ人にフランス料理を教え、アメリカの家庭料理に革命をもたらしたといわれるジュリア・チャイルド(Julia Child)のこと。日本人にはあまり馴染みがないかもしれませんが、アメリカ人の間では有名な料理の大家で、大柄でおおらかで屈託のない親しみやすいおばさんです。(5年前に他界しましたら、過去形にすべきかもしれませんが。)彼女の料理の本は再版に再版を重ね続けて来ましたが、この映画のおかげで、再び大変なベストセラーになっています。ジュリーとはそのジュリアを崇拝し、ジュリア・チャイルドの本に載っているレシピ全部を1年間で料理し続け、その過程をブログを書いたジュリー・パォウェル(Julie Powell)のことです。

この映画は最初から最後まで、精魂こめておいしいものを作り出すジュリアとジュリーの情熱、そしてそれを支える夫たちの愛情に、あふれていて、見終えた後もニコニコしてしまいました。

「ジュリア・チャイルドの本、買ってあげようか?」
映画館から出るなり、我が夫がそう言いました。彼もこの映画が気に入ったようです。私の料理好きを応援したくなったのかもしれません。でも、う〜ん、どうもあまり欲しいという気がしない… ジュリア・チャイルドの料理に対する情熱には敬服しますが、正統派のフランス料理は少々重たすぎると感じるので、あまり興味がないのです。マスターするのだったら、スパイスをいろいろ使った東南アジアかインドの料理がいい。いいえ、本当は、何よりもディナーパーティーに出せるような日本料理が作れるようになりたいのです。

でも、1品だけ、どうしてもジュリア・チャイルドのレシピでなければだめだと思うものがあります。ラタトゥイユです。そのレシピをいつ手に入れたのか、全く覚えがありません。私の手元にあるのは自分でタイプしたもので、タイトルはRatatouille (Julia Child)とあります。多分、どこかの雑誌か新聞に掲載されたものを自分でタイプしたのでしょう。

初めて作ってみたのは、現在の住所に移って来てから初めて大きなパーティーをやったときでしたから、25年前になります。あまりに手間がかかるので、それ以来しばらく作ってみませんでした。が、ある年の夏、チャルマーズ・ジョンソン氏のお誕生日を親しい仲間と持ち寄りの食べ物でお祝いすることになって、私は久しぶりにラタトゥイユを作って持って行きました。そうしたら、ジョンソン氏は大喜びされたのです。ジュリア・チャイルドのレシピだと言ったら、「私の奥さんはものすごく手間がかかると言って、もう作ってくれないんだ」と、まるで私がジュリア・チャイルドでもあるかのように大感激でした。それなら、お誕生日のプレゼントとして、私が毎年作って差し上げましょう、ということになりました。そうして何年になりますか… 約束はちゃんと守って、毎年ジョンソン氏のお誕生日には手間をかけてラタトゥイユを作っています。いいえ、それだけではありません。トーマスがどんどんトマトやズッキーニを自家菜園で作るようになったので、一夏に何度も作るようになりました。何度も、と言っても、何しろ手間がかかるので、毎週というわけではありません。本当に時間と手間がかかるのです。

私のタイプしたレシピには、ジュリア・チャイルドそう言ったのかどうかわかりませんが、こう書いてあります:
「ラタトゥイユがただの野菜のごった煮になるか、それともすばらしい一品になるかの決め手は、詳細な注意を払うかどうかです。」
この言葉を信じて、私はジュリア・チャイルドのレシピ通りにラタトゥイユを作って来ました。

今年の夏の始め、ニューヨークタイムズ紙の食べ物欄に、マーク・ビットマン(Mark Bittman)によるラタトゥイユのレシピが載りました。マーク・ビットマンは毎週ニューヨークタイムズ紙に食事のコラムやレシピを書いていて、テレビ番組も持っているほど人気があります。自称ミニマリストの彼の料理法は、ジュリア・チャイルドとは反対で、手間と時間ができるだけかからないよう工夫されていて、忙しい現代人に向いています。私も彼の料理の本は3冊持っていて、そのうち『How to Cook Everything』は材料の扱い方の参考によく開いてみます。そのマーク・ビットマンのレシピですから、試してみよう、という気になったのです。

結果は… 

やはり駄目でした。ラタトゥイユは手間をかけなければおいしくない、としみじみ実感させられた次第です。ちなみに日本語のグーグルで「ラタトゥイユ」のレシピを検索し、いろいろ見てみましたが、レシピと写真から判断すると、どれもこれも野菜のごった煮以上のものではないようです。それでは本物のラタトゥイユが泣くだろうな…と、思ってしまいました。

ここにジュリア・チャイルドのレシピを和訳して載せたいところですが、あまりに長くなりそうなので、次回にレシピの和訳だけ載せることにしました。興味のある方は、是非ご覧になってください。

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