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カウチポテトを夢見て |
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2007年5月6日 |
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 | 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]
福岡県生まれ、横浜市に住む。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在は気ままな主婦生活を楽しんでいる。著書に『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社、共著)『韓国の近代文学』(柏書房、翻訳)などがある。現在、文化交流を目的とした十長生の会を友人たちと運営、活動している。 |
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▲ アクリルビーズのネックレスとイヤリング。ところどころタイシルバーのスペーサーでビーズを挟んでいる。珊瑚風ビーズもアクリル製。 |
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そのカウチを買ったのは、2年前、旅行で訪れたタイ・バンコクのある家具屋でのことだった。イメージどおりのカウチソファを見つけたとき、それに寝そべりくつろぐ自分の優雅な姿?(もとい、優雅なのはカウチである)を想像し、我ながらうっとりとした。
藤づるの皮で編んだ背もたれが、チーク材の台の3方をぐるりと囲んでおり、見るからにすわり心地がよさそうだった。そのどっしりとした安定感、夏向きの涼しげな素材、羽を広げたような優雅な形…買わないでいられようか…そんなリゾート風カウチを持つのが、長年の私の夢だったのだから…。
さっそく、日本で留守番をしてくれている姪に国際電話をした。2階への外階段(我が家のリビングは2階にある)と、ドアサイズを測ってもらうためである。海外から家具を持ち帰る際の注意点はなんといってもサイズで、海外の家具は日本製より一回り大きく存在感がありすぎるし、ヘタをすると家に入らない恐れがある。店頭で、サイズダウンしてくれることと重さを確認したし、輸送料も聞けば大したことはなかった。カウチの値段は、輸送料込みで約15万円。国内で輸入家具を買うことを思えば、そう高くはない。
人が誰しも予想するのは最良の結果、または最悪の結果だといわれる。だが、なぜか最良の結果しか予想しない(できない)のが私の悪い癖である。そして、一度決めたらなかなか軌道修正できないところも…。
カウチがやってきた。注文して約3か月後、船会社から船荷到着の連絡が入ったのだ。輸入書類の作成、倉庫から税関までの搬送、通関手続き、そして税関から家までの搬送…面倒な作業はすべて輸入業者に任せた。どう考えても、これらの作業を私一人でこなせるわけがなかったからだが、作業料金とトラック代を合算すると、カウチの値段はなんと倍になった。(もともと下調べを充分にせず買い物したのが間違いだった。)
問題は料金だけではなかった。ドアからカウチが入らなかったのである。あれほど何度もドアサイズに合わせて、店員からデザイナーにサイズダウンを確認してもらったはずだったが、サイズは元のまま(高さ95cm、奥行き80cm、長さ220cm)だった。60Kgといわれたカウチの重さも…そんなものではなかった。
あ〜あ、やっぱり…。注文したとき、一抹の不安がなかったといえば嘘になる。デザイナーが新たに作る手間を省き、店頭にあったのがそのまま送られてきたのだろうか。“マイペンライ(大丈夫)”のひとことで、なにごとも切り抜けようとするタイ人の融通性を思い出すと、怒り心頭に発した。かといって、送り返す訳にもいかなかった。
搬入作業はいうまでもなく大変だった。2階玄関とリビング入り口のドアははずした。大の男が4人がかりでなんとかカウチをコンテナから出し、斜めにしたり、縦にしたり…。玄関の石のたたきと鉄製の階段の上をゴリゴリ引きずり、壁にぶつけ…真新しい夢のカウチはその日、目の前ですっかり傷物となり、そして永遠に我が物となった。(盗もうという人間がいるかどうかは甚だ疑問だが、もしいたとしても運び出せないからだ。)
カウチポテトということばが流行ったのは、バブル時代であった。NYのような大都会のハードワーカーたちが、たまの休日に家にこもり、カウチに横たわり、ポテトチップスをほおばりながらひたすらテレビに見入る。これが、正統的カウチポテトの図である。
毎日が休・祭日の私がカウチポテトをしたらどうなるか。カウチの上のただのポテトになるのは目に見えている。だが、進むべき道はこれしかない。なにしろカウチポテトは、長年の私の夢だったのだから…。
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