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僕の偏見紀行
185 メコンクルーズ(9)再会の時
2015年3月5日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 久しぶりの再会の時、話が弾む。
▲ 心地よい木陰のカフェでランチ。画面奥がメコン川、右手下方にナムコーン川が流れている。
▲ 乾期だけナムコーン川に架る竹の橋。このすぐ下流でメコンと合流している。カフェからの眺め。
お世話になったボウさんはどこにいるのか。小さな町とはいえ写真を頼りに人を探すのは容易ではなかった。到着早々ホテルのフロントで尋ねた後、ホテル専用車のドライバーにもきいてみた。結果はやはりノーだった。仕方が無いので町を散策しながら尋ねまわることにした。

ホテがル多く、観光客が集るルアンパバンの旧市街は、メコン川と市内を流れるナムカーン川に挟まれた半島の形をしている。その真ん中をメコンと平行に走るのがサッカリン通りだ。彼はトゥクトゥクのドライバーだから、観光客の多い旧市街このあたりから、とサッカリン通りを歩き始めた。

何度も客待ちのドライバーに写真を見せたが思わしい情報は得られなかった。顔を見たことがあるというドライバーも、現在どこで働いているかは知らないという。

警官の詰め所で尋ねようかと思ったが、様子の分からない外国で警官に接触するのはためらわれた。言葉や文化・習慣が異なる国々にはいろんな警官や役人がいる。警官がらみの予期せぬトラブルに巻き込まれたという体験記を読んだ記憶がある。

役所に行ってトゥクトゥクの組合が無いか、尋ねてみようかと思った。しかし役所がどこにあるか分からないし、炎天下を歩き回り疲れてしまった。乾期なので朝晩は涼しくて快適だが、日中は日本の真夏になる。

いつのまにか半島部の先端、メコンとナムカーンの合流点に近づいていた。どこかで一休み、と考えつつ歩いていたら、突端の合流点を見下ろす川岸に涼しげなオープンカフェを発見した。木陰のあちこちにテーブルが並び、木々の間を吹き抜ける風が心地いい。やれ嬉し、と早速そこへ入る。

はるか眼下にナムコーン川とメコン川の合流点が見える。薄緑のナムコーンが、ゆったりと流れるメコンの流れにぶつかり、やがて一つになっていく。乾期なので水面は低くなっているというが、メコンの圧倒的な水量は衰えを知らない。

そよ風に身を任せ、テーブルに頬杖をついてぼんやりとあたりを眺める。乾期だけ架けられるナムコーン川の竹橋を自転車で渡るグループがいる。白人の男女だ。対岸は登り坂が林の奥へ続いているが、いったいどこまで行くのだろう。このクソ暑い中、ご苦労なことだ。

一休みしてやっと人心地がついた。さて、これからどうしよう、どうやって探そうか思案する。カフェでは数人の若者がキビキビと働いていた。いずれも礼儀正しく気持ちのいい青年だ。

そうだ、彼らにもきいてみよう。そう考えて僕は若者の一人に写真を見せた。彼はボウさんを知らなかったが、まわりの同僚にも尋ねてくれた。写真を囲んでいた中の一人が突然、知っている、と言い出した。

あまり期待をしていなかった僕は、それをきいて我が耳を疑った。まさかこの場で、こんな簡単に情報を得られるとは、僕はすぐには信じられなかった。彼は、この人物はこの近くで見かけたことがある、このあたりで働いているはず、という。

この先には有名な寺院があるので、その前あたりにはいつもトゥクトゥクが数台待機している。ボウさんはそこにいるのだろう、僕はそう思った。カフェの若者は、ちょっと見に行ってくる、と駆け出していった。暫くして戻った彼によると、ボウさんは外出中だったらしい。

僕らは若者に礼をいい、とりあえずそこへ向かうことにした。急展開する事態に戸惑いながら、僕らは通りかかったトゥクトゥクに乗り込み先を急いだ。寺院前に着いたがボウさんらしき人はいないようだ。乗ってきたドライバーにも写真を見せて尋ねてみた。

すると彼は、この人はすぐ先のところにいるよ、という。そこで働いているらしい。この時、僕は勘違いをしたことに気付いた。カフェの若者の話を、僕はボウさんが今もドライバーとして働いている、と思い込んでいたが、どうもそうではないようだ。

結論からいうと、ボウさんはドライバーをやめ、この近くでカフェを開いていた。それを先ほどの青年は見かけたという訳だ。僕らはドライバーに教えられたボウさんの店に向かって急いだ。

すると向こうからバイクに乗ったボウさんがやってくるではないか。僕はあまりにあっさりと見つかった恩人の姿に、一瞬これは夢ではないか、と我が目を疑った。

店の前でバイクを降りたボウさんは、事情が飲み込めないのか、いぶかしげな面持ちだ。写真を見せ、僕が3年前のことを話すのを聞いて思い出してくれた。そして僕が差し出した手をしっかりと握ってくれた。3年前、空港で別れて以来の握手、やっと会うことが出来た。

彼の店はメコン川沿いの、レストランやカフェが軒を並べる一角にあった。眺めのいい木陰のテーブルでは、学校帰りの高校生のグループが、ヌードルスープやジュースを前におしゃべりに夢中だ。繁盛しているようでよかった。

カフェでボウさんが語る話を聞いた。1年前くらいに車を売り、それを資金にこの店を開いたという。家族経営で、小柄で可愛らしい奥さんや母親も店を手伝っているという。奥さんは外見よりもしっかり者のようで、英語もボウさんよりうまく話した。

調理やお客の応対などは奥さんが采配を振るっているようだ。ボウさんはバイクで走り回り、仕入れや食材運び等の力仕事が担当している。僕のカミサンを含め、4人で少々ぎごちないが楽しい会話がはずんだ。

その内二人の息子さんも小学校から戻ってきた。僕は用意してきた文具類のお土産を渡し、年長者らしく気のきいたことでもいって激励しようとしたが、互いに言葉がままならず、思うにまかせなかった。

ボウさんがしきりに僕らの予定を尋ねた。行きたいところがあれば案内したいようだったが、気ままに町歩きをするつもりだと答えた。彼はもうドライバーではないし、新しい商売の邪魔をしてもいけないので遠慮した。それでも帰国日に彼の友人のトゥクトゥクで空港までおくってもらう約束だけはした。

滞在中彼の店には何度も寄ることになった。お昼時にはヌードルスープを食べ、ヤシのジュースを飲んだ。そんな時いつも彼も奥さんも忙しそうに動き回っていた。これなら店は充分軌道に乗るだろう、と僕は安心した。

その夜、目的を達成した僕らは名物のナイトバザールへ行った。サッカリン通りから続く大通りは歩行者天国となり、夜店を冷やかす観光客であふれていた。道の両側、そして中央にも背中合わせに2軒、全部で4軒の夜店が道路一杯に並ぶ通りが遠くまで続いている。

店頭には伝統模様と色合いの衣服類・雑貨が積まれ、見て歩くだけで楽しい。店を出しているのは山岳民族村の人々が多いらという。モン族の店頭では鉈や山刀が鈍い輝きを見せ、迫力満点だった。

お祭り好きの僕はこの通りを歩くだけで心がウキウキし楽しかった。カミサンも嬉しそうに伝統模様のTシャツや買い物袋などを買い込んでいた。(続く)
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
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24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
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11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
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8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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5 雨の幕川温泉再訪記
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1 東北紅葉雪見風呂
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