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老舗の店頭から
120 BYO ワインクラブ
2011年3月1日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。




















BYO ワインクラブ


BYO とは、Bring Your Own の略です。Bring Your Own、つまり、「自分自身のものを持って来る」という意味です。

これは実は、ワインとレストランにかかわる用語でして、自分で既に持っているワインを一定の持ち込み料を払って(払わない場合もあります)、レストランに持参し、そのレストランの料理と共に楽しむ仕組みのことです。

これはそもそも、オーストラリアやニュージーランドで発達したもので、これらの国では、酒税法の関係で、レストランで酒類を提供するには、特別なライセンスが必要なのだそうです。

日本の場合は、レストランが酒類を仕入れる際には、その段階で酒類の価格には既に酒税が含まれていますので、レストランは料理飲食業のライセンスは必要でも、酒税上の免許は不要なはずです。ところが、オーストラリアやニュージーランドの場合は、高級レストランは別として、小規模経営のレストランの場合は、そのライセンスを持っていないケースが多いのだそうです。

BYO とは、その場合、「当店で料理と共にお酒を飲みたい方は、自分で持ち込んでください。当店はお酒を販売するライセンスを持っていませんので、料理のみを提供します。」というシステムです。これはそれらの国々では、お客の側、お店の側、双方にメリットがあり、合理的と言えば合理的ですね。ちなみにお店が酒類販売のライセンスを持っている場合は、「Full Licenced」と表示してあるのだそうです。

ですからこの場合は、比較的安価な、カジュアルタイプのレストランが対象ですし、持ち込まれるワインも、それに対応したカジュアルなワインが中心になります。ところが昨年6月に、ロンドンで「BYO Wine Club」という組織が設立されたのだそうですが、これは従来の BYO とは、いささか異なるもののようで、ちょっと取り上げてみようという気になりました。

そもそも、ライセンスの問題さえなければ、水準の如何を問わずレストランにとっては、お客が自前の酒を持ち込むことは歓迎すべきことではないはずです。お店側では、自店の料理に合った然るべきワインを厳選しているはずですし、その管理もきちんとやっています。また利益率の高い酒類の売上がなくなることは、経営的にも痛手なはずです。

ロンドンの 「BYO Wine Club」 の場合は、お客とお店の双方が入会して成立する仕組みです。年会費99ポンド(約1万3千円)を払った客側は、一流レストランを含む、登録してあるレストランで、自分で買い集めて来た思い入れのあるワインと、プロの料理の組み合わせを楽しめることになります。

ただ、お店側のメリットは、ということになりますと、やはり現在の景気後退がその基本にあるようです。どんな名店でも客足の低下には頭を痛めているようです。とりわけ平日の月曜日、火曜日の夜などは、客数が少なくなりますので、その日程で BYO Wine を受け入れるのは、それなりの集客効果があるようなのです。

ですから英国の場合は、レストラン側でも、無制限に BYO を受け入れるわけではなく、一定の条件下で実行するということになります。従来からあった BYO と大きく違うのは以下の諸点です。

1)年会費を払う会員になる必要があります。

2)一流レストランも多くありますので、メンバーにも相応のマナーが要求されます。会員規約を守らない人には退会勧告がなされるのだそうです。

3)持ち込むワインは常識的に見て、妥当な水準のものが要求されます。常識外の安ワインを持ち込むことはマナー違反です。

4)持ち込むワインは、BYO ワインクラブ指定のトートバッグ (Tote Bag) に入れて持参することが必要です。上の写真がそのバッグですが、これは他のお客様の目もありますし、レストラン側としては BYOワインを管理しやすい小道具だと思います。

5)ソムリエにテイスティングを許可することなど、レストラン側に敬意を払ったマナーが必要です。

6)加盟レストランごとに、持ち込み料、ひとり分の食事の最低限予算、1テーブルの人数制限、予約可能な日程や時間帯などが決められています。

と聞くと、なんだか拘束感の強さばかりが目につくようですが、実はワイン・コレクターにとっては、それでもとてもありがたいのです。

いささか偏見かもしれませんが、私見ではイギリスは一般的に言って、食事の水準のわりには、お酒を飲み分ける水準が極めて高いと思いますが、ワインの世界でも英国のワイン・コレクターは水準が高いと言われています。ですから、きっと英国の場合は、BYO Wine Club は、うまくいくかもしれません。

それに比べますと私自身などは、とてもコレクターなどと言える水準ではないのですが、それでも時折、妻から「あれだけのワインを、生きて元気でいる内に飲みきれるの?」と脅されるくらいの本数が貯まっていますので、たしかにこれはありがたい話です。

調べてみますと、日本にもそれらしき組織があるようですが、まあ当面は、顔なじみになっているお店で、持ち込み料を支払って飲むことにいたします。ちなみに、これまで持ち込んで成功したと実感したケースは、ホテル・オークラのオーキッド・ルームでした。

もうずいぶん前のことになりますが、たしかムートン・ロートシルトの1986年を持参しますと予約しましたら、とても歓迎してくれて、家族4人で料理と共に、あのグラン・ヴァンを満喫しました。たしか持ち込み料は3千円でした。夏の暑い時期でしたので、クーラーに入れて持参したことを覚えています。でもきっと、私以外の家族3人はもうそんなことは覚えていないと思いますが、ワインを買い集めた人間は、決して忘れないのです。だってワイン・コレクションは、そんな思い出作りのためにやっているようなものなのですから。

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