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寄り道まわり道
34 彼女のパール
2005年8月25日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
▲ ブラウン色の染めパールを使ったチョーカ。パールとパールの間にはインド製の筒型シルバービーズを使用。
上は、さまざまな色の淡水パールで編んだリング。
パールは見る角度によって玉虫色に変化する。
以前にエッセー「エスニック通り」で、浅草橋、御徒町界隈のビーズ街の賑わいぶりに象徴されるビーズブームについて触れた。今回は、それらの街を歩いて感じたビーズブームの陰りについて書いてみようと思う。

いまや街中ではビーズアクセサリー全盛の感がある。ビーズといっても一時のガラスビーズを細かく編みこむタイプではなく、天然石をビーズ手法で繋いだアクセサリーが目に付く。

たいていのブティックでは最近、そこで取り扱う服に似合うビーズアクセサリーをショーケースに並べているし、雑誌やTVでも、モデルさんや女優さんたちが手作りのビーズアクセサリーを身につけているシーンが日常となった。

それは、以前に比べ女性たちが、たとえ普段着でもおしゃれとはアクセサリーも含めたトータルなものといった捉え方をするようになったことと、ビーズがアクセサリーとしての地位を確立したことの表れのように思う。

だがその一方で、最近ビーズブームに陰り?と感じることが少なからずある。私の住む横浜でも、ときどき訪れる夫の赴任先の大阪でも、贔屓にしていた品揃えの良い、良心的な値段の材料店が、次々と店じまいをしている。ある日、久しぶりに出かけて見ると、店がない…そういった場面がしばしばある。

先日久しぶりに足を運んだ浅草橋、御徒町のビーズや天然石の専門店でも…。これまで見慣れた人だかりは姿を消し、店内は静まり返っている。「今日こそ人に押し返されないで欲しいビーズを手に入れるぞ!」 そう勇み足で行くとなんだか拍子抜けしてしまう。買い物がしやすくなってうれしいような、ちょっと寂しいような…複雑な気分である。

このブーム一段落の影響?なのか、貴重なパールを提供してくれていた小さなお店がひとつなくなった。30代後半ぐらいだろうか、女性一人で営むそのお店は、パールを中国に特注し販売していた。

彼女の扱うパールは、色合いと形に特徴があった。中国産の湖水、淡水のパールをコバルト照射することでさまざまな色に染め付けているとのことだったが、それらはこれまでの天然のパールの常識を覆す色合いといびつな形をしており、えもいえず美しく、味わいのあるパールばかりであった。

その店を見つけたのは2年ほど前、ビーズ仲間の友人と御徒町の材料店街を歩いていた時だった。8畳ほどの小さな店内の壁いっぱいにパールが掛けられ、展示台の上には彼女がそれらでつくったという豪華なパールのアクセサリーが並べられていた。

プロにしか売らないということだったが、彼女は“Beads Duo”という小さなブランドをつくって少しずつ販売をはじめた私たちにも分けてくれるという。私たちにはうれしいことであった。

彼女の話によると、まん丸くきれいに粒の揃った(白やグレーや黄色がかった)定番の真珠を扱う伝統の真珠業界では、彼女のパールは邪道扱いされているとのことだった。そういえば、これまでパールのアクセサリーは、どちらかといえばフォーマルな服のアクセサリーとして、きちんとしたイメージが強かった。

だが、そんな業界の反応どこ吹く風…、女性たちはこの新しいパールを、作り手は新たな材料として、身につける女性たちは日常の服に合うまったく新しいパールのアクセサリーとして喜んで受け入れたのだ。私自身も、きちんとしすぎていて面白みがないように感じていた従来のパールよりも、彼女のパールをとても新鮮に感じた。

たしかに赤や緑やグレーや薄紫といった色合いのパールは、真珠そのものの照りや輝きとあいまって金属のような美しさを放つことに気づく。私は、これらの大小のパールをパールとしてでなくメタルパーツの代わりに使うことが多い。

彼女がブームのかげりで店を閉めたのか、実は需要が増えてもっと広い場所へ移転したのか、私にはわからない。私は、あの美しく個性的なパールがもう手に入らないと思うととても寂しい。たしかに似たようなパールを取り扱う店は他にもあるが、あのように美しくバリエーションに富んだパールを探し出すのは難しいだろう。彼女の、今は他の貴金属店に変わった店の前で、しばらくの間私は呆然としたのだった。

材料の心配はパールだけではない。このまま本当にブームが去ってしまえば、今はまだ簡単に手に入る豊富な種類の基礎金具(ビーズ用の指輪台や櫛金具、ピン類)なども、この先手に入らなくなるのではないか…そんな心配が私を不安にする。

ブームとは不思議なものだ。「こんな指輪台があったら…、こんな留め具があったら…」と思っていると、しばらくして材料店の店頭に並ぶことがある。多数のビーズマニアたちの願望がビーズ関連産業を活気付けたのは間違いないだろう。

おかげで、ビーズそのものだけでなく天然石や皮や布のリボンなど、ビーズと組み合わせて使う材料の供給も増え、人と物の両面で裾野が広がった。

ブームが去っても、一部のマニアたちはこれからも作りつづけるだろう。本来は本当に好きな人たちだけが細々と続けていく世界なのかもしれない。

私自身も、やれる範囲内で、手に入る材料の範囲内で作り続ければいいのだ。ブームが去ったからといって、私のビーズへの関心が薄れるわけではない…と思いたい。

伝統の世界に縛られない自由な発想、新しいパールによるアクセサリーづくりの提案…真珠の世界に新風を吹き込んだだけでなく、限られた材料でもイマジネーションを豊かにすることで新たなものを生み出していく道があるということを、彼女のパールは改めて私に気づかせてくれた。
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