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122 京都名刹めぐり その26 山科の毘沙門堂
2011年10月1日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
京都名刹めぐり その26 山科の毘沙門堂


京都市街地(洛中)から東山を越えると、そこは山科(やましな)です。京都市の西側には「洛西(らくさい)ニュータウン」で知られる洛西(らくさい)地区がありますが、山科はその反対側ですので、洛東(らくとう)と呼ばれます。

しかし、山ひとつでこんなにも変わるのか、と思えるほど洛中と山科は雰囲気が違います。山科はやはり山科なのです。

この記事のタイトル、毘沙門堂(びしゃもんどう)は、その山科にあります。比叡山に総本山・延暦寺がある、天台宗の寺院です。

皇族や摂関家の貴族が出家して住んだことがある寺院のことを「門跡寺院(もんぜきじいん)」と言いますが、毘沙門堂は、天台宗が持つ、5つの門跡寺院のひとつです。

ついでですから、天台宗の5つの門跡寺院をご紹介させていただきます。さすがに5つとも全部、京都地区にあります。天台宗五門跡寺院とは、青蓮院、三千院、毘沙門堂、曼殊院、妙法院の5つのお寺です。青蓮院は東山粟田口、三千院は大原、曼殊院は一乗寺、妙法院は東大路の智積院のお隣ですので、山科にある毘沙門堂以外の4つは、すべて洛中の東側の左京区と東山区にあります。

もうひとつ、ついでに天台宗には「三門跡寺院」という呼び方もあるのだそうでして、上記の5寺院の内の、青蓮院、三千院、妙法院の3つがそれに該当します。ということは、もしかすると寺格の高い「五門跡寺院」の中でも、またさらに内部の序列があって、毘沙門堂と曼殊院は、「五」には入っていますが、「三」には入っていませんので、それなりの差があるのかなあ、と思ってしまいますが、いかがなものなのでしょうか?

まあ、そんな寺格などは訪れる私達にはどうでもよいことですが、この毘沙門堂は江戸時代初期の1665年に現在の山科に移ったのですが、元々は、洛中の出雲路(いずもじ)にあったお寺なのだそうです。

出雲路(いずもじ)と言われると、普通は島根県にある出雲地方を思い起こしますが、京都市内にも同じ文字で、同じ発音をする「出雲路」があります。今出川通りをはさんで京都御苑の北側に、相国寺(しょうこくじ)という臨済宗相国寺派の大本山で、たいへんな実力(経済力も含めて)をお持ちのお寺がありますが、その相国寺の東側の賀茂川までの一帯を「出雲路」と言います。現在でもなにやらたくさんの寺社があります。

またまた、ついでですが、相国寺は南側に隣接する同志社大学に土地を貸している大地主さんでもあり、金閣寺や銀閣寺は相国寺の末寺ですので、その実力のほどは想像がつきます。たしかにすごいお寺です。承天閣美術館という美術館も境内に持っており、いつ行っても広大な境内がすばらしく整然としていますから、行く度にこのお寺さんの並々ならぬ力量を感じます。

ところで、毘沙門堂は元々はその出雲路にあったのだそうです。記録によれば、現在の上御霊神社のあたりだったということです。そして、そもそもの創建はなんと、奈良が都になった平城京遷都(710年)より前の、703年だとのこと。僧行基が開山したのだそうですから、たいへん古い時代です。京都に都が移ってきたのはその後90年以上経ってからのことになります。しかしその後、何度も戦乱等で焼失するなど、寺の存続が危うい時期もありましたが、江戸時代になってようやく山科に再建されたのだそうです。

そもそも毘沙門堂の名前の由来は本尊の毘沙門天ですが、毘沙門天って、どんな神様なのでしょうか?

毘沙門天は、仏教における仏神のひとつでして、持国天、増長天、広目天と一緒になって「四天王」と呼ばれます。いかがですか、それで少し見当がつきましたか? 四天王は、ご本尊の四方を守って、よくお堂の東西南北に配置されている武神です。

ところが、少しややこしいことに、毘沙門天は多聞天(たもんてん)とも訳されているのです。つまりこの2つは同じ武神なのです。この種の仏教用語は、梵語(サンスクリット語)を語源としており、音から漢字に訳された名前と、意味から訳されたものがあるらしくて、この場合は音訳(音から)が毘沙門天で、意訳(意味から)が多聞天なのだそうです。

さらに複雑なことに、日本ではこの毘沙門天(=多聞天)は、独尊像として安置される場合は、毘沙門天と呼ばれ、四天王の一員として置かれる場合は、多聞天と呼ばれるとのことです。(多分、習慣的に)

ですから四天王として、仏の東西南北を守る場合は、
北側: 多聞天
南側: 増長天
東側: 持国天
西側: 広目天

となり、毘沙門堂のように、毘沙門天を本尊として単独で安置してある場合のみ、毘沙門天と呼ばれます。でも前述のように、本来は同じ神様だということですので、このあたり、ちょっと複雑ですが、知っておくと重宝だと思います。

上段の写真が、毘沙門堂の本尊、毘沙門天像です。天台宗の開祖、伝教大師が自ら作った秘仏なのだそうですが、同寺のホームページに公開されていますので、写真ではいつでも見ることが可能です。私も実物を見たわけではありませんが、高さが2寸2分だとのことですから(つまり、高さ7cm程度)、たいへん小さい像だということになります。

ところで、毘沙門堂境内の霊殿や宸殿という建物の中には、たくさんの天井画や襖絵があるのですが、これらの多くが、今風に言えば、トリック・アートなのです。観察者が画像を見たまま動いていくと、その画像が変形したり、移動したりするように見えるのです。逆遠近法とか、様々な手法を駆使しているらしいのですが、江戸時代の遊び心があふれていて、なかなか楽しめます。

そう言えば、JR東海のTVコマーシャル、「そうだ、京都行こう!」シリーズの中でも、何年か前、毘沙門堂の前庭にある枝垂桜が出てきたことがありました。樹齢百数十年になる巨木(老木)でして、その枝張りは30メートルにもなるのだそうです。下段の写真がそれです。残念ながら桜の時期ではありませんでしたが、そのすごさは容易に想像できました。

毘沙門堂は、JR山科駅から歩くと20分はかかると思います。途中からの道路は、道幅がかなり狭くなりますので、大型バスの通行は無理だと思います。私達は例によって、小型レンタカーで行きましたが、それでやっとでしたから、きっと桜や紅葉の最盛期はたいへんでしょうね。

前回出かけたのは師走の閑散期でしたので、1時間半ほどの滞在中、出会った他の拝観者はほんの数人でした。天井画や襖絵の遊び心を、ゆっくりと楽しむことができたのは、きっとそんな時期だったからだと思います。

この後、立ち寄った東山の清閑寺と共に、ここも穴場のお寺さんという感じでした。次の記事では、清閑寺をご案内させていただきます。山科の毘沙門堂、ちょっと京都に慣れ親しんだ方のための、通好みのお寺としてお奨めいたします。

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