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36 マッサージの迷宮
2006年3月7日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
▲ 最近はなかなかアクセサリーをつくる時間がない。よいビーズに出会うと作りたくなるのだが…。
ベネチアンビーズのチョーカとピアス。
私はマッサージが大好きである。マッサージを頻繁に受けるようになったのはタイでの生活からだ。マッサージ・ミシュラン?という本があれば、真っ先に買うのだけれど…。

最近日本でもマッサージ店が増え、整体、カイロプラクティック、足つぼマッサージ、英国式リフレクソロジー、ハワイ風ロミロミなど含めると百花繚乱の感がある。そのため過当競争、価格破壊の危機さえ呟かれているが、利用者としては安くて気軽に行けるお店が増えることに異論はない。

台湾旅行でも、真っ先に全身マッサージの店に行った。台湾のマッサージがいかなるものか、私は不勉強だった。マッサージチェアのようなリクライニング式ベッドに仰向けになると、いきなり熱い蒸しタオルが首の下に差し込まれ、強い力でグイグイと首筋を揉まれた。その力といったら…。薄目を開けると、薄暗がりの部屋の中で、たくましい体つきの中年女性が鋭い眼光でこちらを見下ろしていた。ちょっと怖かった。

「う〜ん、思い描いていたものとちょっと違うぞ!」

マッサージを受けている間、「顔のエステはどうだ」「足裏の角質除りはどうだ」「この漢方薬は腰痛にいい」などと入れ替わり立ち替わり営業にやってくる。90分間の全身マッサージの間に効率よく稼ごうというわけだ。こちらは足裏マッサージまで受けているため金縛り状態、わずかに自由な手だけでなんとか「いらない」と意思表示する。リラックスしにきたのにどうも勝手がちがう。

隣のべッドをみると、母が全身マッサージのほかに、顔エステ、ハンドマッサージ、足裏の角質除り、ペディキュア塗りのフルコースを薦められるままに注文し、白衣の医師団に囲まれ手術を受ける患者よろしく横たわっているではないか。

「弱くね、わかった。弱く…」
そのまた隣には50代半ばの女性マッサージ師に羽交い絞めにされている姪の姿があった。「うん、弱く…弱くお願いします!」 消え入りそうな声で姪は答える。そしてその会話はマッサージがほぼ終わりに近づくまで繰り返されることになる。

後で姪に聞くと、この「弱く」という日本語を「強く」の意味に取り違えたらしい。(外国人観光客を相手にするマッサージ店でそれはないだろうと思うが本当の話だ。)「弱く!」とたのむ度にどんどん強くなって閉口したらしい。

クライマックスは最後に来た。がっちりした女性マッサージ師がうつぶせになった私の上にエイッとまたがった。両手で天井の段違いになった部分を持ち、私を踏みつけ始めた。

「うっ、重た〜い! 」
ベッドに仰向けになったとき、ずいぶん凝ったつくりだなぁ…と内心感心した天井は、ベルサイユ宮を模した飾りではなく、マッサージ師がぶら下がるためのものだった。約15分間、マッサージ師も私も汗にまみれたのだった。

ところ変わればマッサージも変わる。
改めて悟った旅であった。あれだけ強く揉まれると、私の場合、その翌日揉み返しがきてつらい思いをするのだが、不思議にそれはなかった。それなりに理にかなった方法なのであろう。

バンコクのホテルの近くにはマッサージ店が林立している。いや市内どこにでも…。タイや台湾ではマッサージは日常的な身体の治療と考えられている。2時間のマッサージが普通で、この古式マッサージに行くのが楽しみの一つである。マッサージ師との相性は圧すときの強弱の相性だと思うが、これがいつも“アタリ!”とは限らず、そこがまた面白い。

成田のホテルに前泊してタイにいったことがある。そのホテルの大浴場の前にコイン式のマッサージチェアと足裏マッサージ機が数台ずつ備え付けられていた。マッサージのメッカに行くのになにも機械のマッサージを受けることはないと思うが、目の前にあると試してみたくなるのが人情というもの。

そのホテルは、外国エアラインクルーの宿泊先のようで、彼らは入れ替わり立ち代りやってきては面白いおもちゃでも見つけたように日本式マッサージチェアをエンジョイしていた。珍しいのか中にはびっくりして笑い出す人もいる。

日本で気軽にマッサージが受けられるようになっても、旅先で経験するマッサージには別の楽しさ、心地よさがある。額に汗を滲ませながら、手抜きすることなく治療してくれる若いタイの女性をみると、結構感動する。

ときに日本語まじりでユーモアたっぷりに楽しませてくれるサービス精神には、「ああ、また来よう」素直にそう思わせる魅力がある。

バンコクにある台湾式足裏マッサージは、割り箸のような棒で足裏をグイグイ押すやり方だが、これが痛いのなんのって! 薦めてくれた友人には悪いが「なんでお金払ってこんなつらい思いを…」と割りに合わない気分になった。2度目のとき、私は友人たちとは別に奥の部屋で施される全身マッサージを選んだ。足裏にこりごりしていたからだ。

「足ツボマッサージの全身版」。これがその正体だった。にこやかな顔で待つ友人たちの前に出た私は、痛さに疲労困憊の体だった。

それでもやめられないマッサージ行脚。次の目標は、電動マッサージチェアを家に置くことである。あの心地よさは、私にはプロのマッサージ師が椅子の下にもぐりこんでやってくれているのではないかと思えてしかたない。
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