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僕の偏見紀行
188 カンボジア紀行(2)アンコールトム
2015年6月12日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ アンコールトム、寺院の壁面に描かれた精緻なレリーフ。当時の暮らし、戦争、狩猟、あらゆる場面がある。かつては彩色されていたというから、どんなに美しかったことだろう。
▲ 日本人に人気のクッキー屋。どこかで見たような名所旧跡定番の看板が置いてある。カンボジアバージョンである。早速カミサンと義姉が顔を突っ込む。左奥が店の入り口。
▲ ホテル前の大通りにあった地元コンビニ?の看板。 1時間早い営業開始?。
翌朝早めに目覚めたのでホテルの中庭を散策する。昼間の日差しは強烈だが、1月の今は乾期、朝晩は涼しくて心地いい。未だ人気の無いプールサイドで太極拳を練習する。不器用な僕の唯一のスポーツ、新鮮な大気の中で身体を動かし、大自然の気を取り込む。

今日はアンコールトムを中心に周辺の遺跡巡りと買い物の下見をする。2度目なので僕は気が進まないが、同行の二人は初めてなので定番コースははずせない。日中の日差しの強さは半端じゃないので無理をしないつもりだ。タクシーにも遅めの出発を告げている。

もともと僕は名所旧跡の類はあまり好まない。それより市場で豊かな食材を見たり、茶店に座り行きかう人々を眺めるのが楽しい。

アンコールトム周辺は観光客とバスやタクシーで大混雑していた。まず見学用のパスポートを購入、3日間で1人40ドル、現地物価からするとかなり高額だ。世界中から押し寄せる観光客の数とこの料金をかけると相当な金額だろうが、一体この金はどこへ回るのだろうか。

風化しつつある遺跡の修復は遅々として進まず、人々の暮らしが豊かになったようには見えない観光客が落とす膨大な金と目の前の光景との落差、この国のあちこちでそれを感じた。

アンコールトムの入り口前の道路の両側には、迫力ある巨大な石像が門を守るかのように立ち並んでいる。門をくぐると広大な敷地が広がり、朽ちかけた寺院や宮殿が点在する。

あちこちに崩壊した建物の石材が雑然と積み上げられ、作業場では数人の男達が石材の補修作業を続けている。日本も支援しているというその修復作業は、あまりに巨大な遺跡で進む風化の前で、まさに蟷螂の斧だ。

寺院入り口脇の物陰で、ペーパーバックを読みふける白人の老女が一人、石に腰掛けている。崩壊した石材が雑然と積まれた中で一体何を読んでいるのだろう。人々の流れから離れ、日陰の涼しいところで本を読む、これも悪くない。

団体客に押されながら寺院の階段を上がると、塔の壁面に刻まれた巨大な仏の顔が迎えてくれたる。観音菩薩を思わせる穏やかなお顔は親しみやすく人気が高い。撮影ポイントは順番待ちで、次々と人々が記念写真を撮りあっている。最近流行の自撮りカメラを振り回す若者もいる。

あたりを取り巻くのは東洋系や欧米系のグループなど様々、元気のいい韓国語や中国語が飛び交う。この喧騒を御仏はどんな思いで見ているのだろう。もしかしたら先ほどの、物陰で読書していた老女が一番この遺跡を楽しんでいるのではないだろうか。

ガイドブックでお馴染みの、大木の根っこに巻きつかれ、崩壊寸前の寺院も団体客で溢れていた。遺跡前の駐車場は混雑し、3年前とは様変わりの人の多さだ。観光客は飛躍的に増加したように見えるのに、人々の暮らし向きはそうでもないようだ。稼いだ外貨はどこへ消えるのか、再び思う。

見学を終えて広場へ戻ったがタクシーがいない。待つこと暫し、あわてた様子でやって来たドライバーに文句をいう。いい加減なヤツだ。待機時間中に一体どこへ行ったのだろう。多分よそでひと稼ぎしていたのだろう。

午後は買い物の下見に出かけた。カミサンは既にガイドブックで調査を終え、チェックすべき店のリストは出来あがっていた。

まずオールドマーケット付近のコットン専門店へ行った。簡素なコットン製の服やショールが並んでいる。店員の女によると、地元産の生地にカンボジアの伝統模様をアレンジしているという。生地の素朴な風合いと落ち着いたデザインがいい。

早速カミサンと義姉は熱心にチェックを始めた。この店は日本人の経営で、もう一軒近所に同じような店があるという。ついでにそこもチェックしたが、実際の買い物は改めてくることにしてそこを後にした。

次はクッキーのお店。これもこの地の土産として有名で、特に日本人客の定番土産になっている。ここも日本女性の創業によるもので、それも若い時期に始めたらしい。かつて彼女がアンコールワットを訪れた時、それらしい適当な土産が無くて困ったのが創業の動機となった。

いろいろ考えた末、始めたのが地元産品を使った、地元従業員によるクッキーだった。地元産業育成と雇用の創出を狙ったビジネスは様々な苦労の末見事成功、クッキーは定番土産となった。この日本女性のサクセスストーリーは店頭のパンフレットに詳しい。

ここでも一応試食だけして後日を期してホテルへ戻った。クッキーの味はどうだったか、勿論まずくは無い、いや美味しかった。現地産のココナツ入りというそれは、手頃な価格とかわいいパッケージ、というお土産の必要条件を充分備えている。

ただ、何故カンボジアでクッキーなのか、特段の意味は見当たらない。日本人に人気なのは、若い日本女性のサクセスストーリーという隠し味も利いているのだろう。

「クッキービジネスなんてボロ儲けよ」

後日ホーチミンへ移動して訪れた、洋服店の年配の女主人は、シェムリアップが話題になった時、クッキーの店についてこう言い放った。彼女もまた日本人で、ホーチミンはじめアジアのあちこちに店をもっている。偶然だが、我々が行ったシェムリアップのコットン専門店も彼女の経営だった。

この洋服店はホーチミンでよく見かける、外国人旅行者向けのアオザイやベトナムファッションの店で、客の好みに合わせ、滞在期間中に間に合うよう短時間で仕立ててくれる。

客の要望に従ってその都度服を仕立てる、という手のかかる仕事を長年やって来た彼女にしてみれば、クッキーなどレシピが決まり型を作ってしまえば後は楽勝だろう、と言いたかったらしい。多少のやっかみと隣りの芝生は青い、の類とは思うが苦労人らしい彼女の話は説得力があった。

かつてカンボジアはアンコール王朝時代、インドシナ半島全体に覇権をとなえた時期もあったが、その後隣国タイ・ベトナムとの争い、フランスの侵略、内戦下の同国人による大量虐殺、という不幸な歴史が続いてきた。

そして今もそれは、ビジネスにおける外国資本の存在の大きさ、そしてそれに頼らざるを得ない人々、という形で続いているように思える。ほんの短時間の旅でいったい何が理解できるのか、と言われれば僕には返す言葉がない。しかし後日訪れたトンレサップ湖で僕は再び辛い現実を見せられることになる。

夕食はホテル前のレストランへ行った。入り口の品のいい白人の老婦人が挨拶してくれたが、この人がオーナーだった。カンボジア料理を西洋風にアレンジしたものをメインにしていたが、なかなか美味しくて料金も手頃だった。店内はカンボジアの若者がキビキビと動き回り、行き届いたサービスをしてくれた。

厨房は隣りのインド料理の店とつながっており、そちらのオーナーは老婦人の配偶者であるインド人だという。面白いレストランだ。美味しくて雰囲気もいいので滞在中よく通うことになった。

夕食後、トゥクトゥクをつかまえてオールドマーケットへ向かう。市場周辺の雑踏をブラブラ歩き回り、散歩と買い物を楽しんだ。

特にパブストリートは昼間と違う顔を見せ、派手なネオンの下を行きかう様々な旅行者で溢れていた。金持ち風の年老いた白人カップル、賑やかな東洋人のグループ、バックパックに短パン・Tシャツ・サンダル履きの若者たち、金は無さそうだがとても楽しそう。賑やかなところが好きな僕は、歩いているだけで楽しくて、ウキウキしと心が弾む。(続く)
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72 小笠原の旅(2)BONIN ISLANDS
71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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