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残酷でも放送して! |
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2004年4月18日 |
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 | 沼田 清 [ぬまた きよし]
1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。 |
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4月8日に発生したイラクの日本人3人の人質事件は、15日に3人が無事解放され一応の解決を見ました。
事件判明は犯行グループが中東のテレビ局アルジャジーラなど報道機関に送ってきたCD入りの人質の映像で始まりました。 その複写写真がAP通信社から配信されましたが、人質の今井紀明さん(18)がのど元に刃物を突きつけられている場面が一部の新聞には掲載されたもののテレビでは放映されず、人質家族から、なぜ放映しないのかとクレームが付きました。 そのときの様子を4月14日付朝日新聞のメディア欄が伝えています。以下に引用します。
待機する北海道東京事務所。詰めかけた報道陣の前で10日、今井紀明さんの父隆志さんは問題の写真を掲載した新聞をかざして叫んだ。「この映像がテレビで放送されないのはなぜですか。息子が大変な状況にあることをぜひ放送してほしい」。 兄洋介さんは「この映像は正直見たくない。でも真実を伝えてほしい」。母直子さんも「切迫しています。報道操作しないでください」と訴えた。
切り抜き帳第16回「遺体写真」で書いたように、新聞はニュースの当事者の尊厳やその家族の心情を傷つけたり、見る人が不快の念を覚えるような写真は、たとえ事実であっても掲載しません。また、今回の写真は演出したもので、それを掲載することは犯人側を利することになるとの判断がマスコミ側にあったでしょう。 ですが夕刊フジ(1面)と日刊ゲンダイ(1面)はすぐ掲載し、毎日新聞は1日遅れで外信面で掲載しました。ちなみに共同通信はこの写真を即日に配信し、加盟の30紙が掲載しました。しかしテレビはアルジャジーラをはじめ、日本の各局はどこもこの場面を放映しなかったそうです。
藁をも掴む思いの人質家族たちは、残酷な写真でも表に出してもらった方が悲惨さを社会に訴えるのに効果的と考えたわけです。 この種の写真を出稿してクレームが来たことはあっても、出さないことでクレームが来るというのは初めてで、私も困惑しました。
人質の尊厳や家族の心情への配慮、読者・視聴者へ恐怖感や嫌悪感を与えない配慮が「報道操作」と受け取られてしまう。 残酷だからという理由で報道を自粛することが、結果として事実を十分には伝えていないことになる。国民の知る権利に答えていないという問いかけは報道側として耳を傾けるべき指摘です。 これより先の3月31日、イラク中部ファルージャで米国の民間人の乗った車が襲われ炎上、焼け焦げた遺体が橋の梁に宙づりにされる事件がありました。
AP通信はこの場面の写真を「EDITORS NOTE : GRAPHIC CONTENT」(編集者注意「どぎつい内容です」)の注を付けて8枚配信しました。4月13日付新聞協会報によると、米国の主要各紙はこの生々しい現場写真を一斉に掲載、一方、米テレビ局は、遺体にモザイクをかけるなど表現に配慮して放送したそうです。
注目すべきは、大規模な軍基地を抱えるジャクソンビルのフロリダ・タイムズ=ユニオンが「不安を与える写真だが、新聞として事件の全容を報じる必要がある」「子どもには見せないように」との説明を付けて黒焦げ遺体の宙づり写真を掲載したことです。 なおAPは日本向けには、比較的あからさまでない3枚を配信し、共同通信は遺体が遠景で小さく写っていて手前に歓声を挙げる住民が大きく写っているカットを加盟社に配信しました。
ニュースの内容が違いますが、それにしても米国と日本では報道の仕方に差があります。 前述の朝日の記事で評論家の大宅映子さんは次のように述べています。 「日本社会は個人をあまりに過保護に育ててきたから、こうした映像に免疫がない。いきなりではひっくり返る人が出てくるかも知れず、やむを得ない面がある。メディアはこれまで読者や視聴者をかよわきものと見なしてきた。今後は読者が冷徹な事実を直視できるように、報道の側も変わって行くべきだ」
いずれにしろ、「子どもには見せないように」という断り書きを置いて報道せざるを得ないとは、世界の現実はきびしいものです。
PS.17日夕には、同様に人質になっていた2人の日本人ジャーナリストも解放され、ホッとしました。
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