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葉山日記
81 写真家
2006年10月17日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
▲ 2歳半の孫にデジタルカメラを持たせ、自由にシャッターを押させたらこんな作品ができました。
「カメラマンはいいですねえ、頭を使わなくていいから」

と、同僚記者に言われてムカッとしたのは、報道カメラマンになりたての頃、つまりもう37、8年も前のことだ。いまなら「いやごもっとも、シャッター押すだけのラクな商売でっせ」と切り返すところだが、当時は本気で腹を立てていたものだ。若かったんですねえ。

しかし「カメラマン」という職業に対する世間の見方には、短気、オッチョコチョイ、軽薄―というイメージがつきまとうようで、映画「ローマの恋人」にもこのタイプのカメラマンが登場するし、日本のTVドラマに出てくるカメラマンもおおむねこのステレオタイプだ。上記の特徴に加えて、単純でお人良し、というところもたいがい共通する。

こういったカメラマンの一般職業イメージから脱却したいという思いが、カメラマン自身にあるのかどうか、最近では報道カメラマンのことを「フォトジャーナリスト」とか「写真記者」という呼称がよく使われるようになったが、僕はどうもこれらの職業名が好きになれない。なぜか、と言われても説明に困るのだが、少なくとも自分自身のかつての職業を、こういった新呼称で呼ぶのには抵抗があるのだ。

それはなぜか。そのことを考えているときに、冒頭の記者の言葉がよみがえってきたのだ。たしかに「頭を使わないで出来てしまう」という要素が写真にはある。他の「芸術」は、道具は筆であったり、ペンであったりするが、「頭に浮かんだこと、思い描いたこと」をキャンバスや譜線、原稿用紙に書き起こす、という「精神」作業がまずある。写真はカメラという精密機械のシャッターを押し、すでにある現実世界を写し取る、だけだ。たしかに、いわゆる脳内でじっくり思考をめぐらす、という過程はない。

「写真は芸術か、否か」という議論も昔からある。絵画や音楽も同じだが、芸術としての絵画や音楽があれば、芸術とはいえない絵画や音楽もある。つまりそれは作品次第で、芸術的な写真もあれば、芸術とはいえない写真もある。作品しだい、という意味では写真も絵画も音楽もなんら違いはない。なぜ写真に限って「芸術か否か」論争が繰り返されるのだろう。

以上はつまり、「写真」という「作品」を作り上げる過程に、筆やペンとはくらべものにならない複雑な機械が介在する、というところから発していたのではないか。ペンや筆は幼児でも使える。しかしカメラは幼児には扱えない。カメラを使いこなせるのが、カメラマンの腕であり、そこに職業的障壁があったのだ。そしてこの障壁が、芸術家とはいえない「カメラマン」たちに奇妙な優越心を与えていたのではないか。昔は田舎の写真館店主は「先生」と呼ばれ、地方の名士でもあった。

しかし、三脚を構え、シャッターの押し方を教えれば、幼児でも写真は撮れる、いや、撮れてしまう。「頭を使わないでもいい」という冒頭の記者の言葉は、落ち着いて考えれば写真の本質を鋭く突いた言葉なのかも知れないのだ。いま業績拡大中のこども専門写真館の「カメラマン」は、素人主婦の「促成栽培」だそうだ。被写体はいすに座った子供だからピントあわせの必要もなし。着せ替え衣装をいかに大量に保有しているか、こどもをあやす技術が必要とされるだけなんだそうだ。


多くのプロ写真家や写真館の仕事が激減している、という。それはなぜか。デジタルカメラの登場で、素人でもそれなりの写真が撮れてしまうようになったことが、おおきな要因だろう。デジタルカメラの開発史を調べると面白いことがわかった。NHKの「プロジェクトX」によれば、カシオの開発陣は当初、フィルムをCCDに置き換えることしか念頭になかったようだ。つまり、画像をフィルムではなくCCDでキャッチし、画像情報を1と0の信号に置き換え、ファイル化する。そのことがデジタルカメラ開発の動機だった。

ところが開発の過程で、現場にいた女性スタッフの一人が「撮った写真がすぐ見られるのが面白―い」と言い出したのだそうだ。その女性は開発を直接担当したわけではなく、いわば総務担当のようなひとだったらしいのだが、その女性のひとことがヒントとなり、カメラの後ろの液晶画面にいま撮った写真を写しだせるような機能を付加したのだという。デジタルカメラのもっとも特徴的な機能、「撮った写真がすぐ見られる」という、いまではごく当たり前の機能が、実は開発担当者以外のいわば素人によって見出されたというのは特筆に価する。

露出を合わせる。ピントを調節する。シャッターを押す。果たして露出は正しかったか、ピントはあっていたか、そしてシャッターチャンスは的確だったか。フィルム時代のカメラマンは、現像が上がり、フィルムをその目で見るまで気が気でなかった。その「気が気ではない時間」はこの若い女性がふと気づいたデジタルカメラの「画像瞬時再現性」という機能のおかげでなくなった。これがなくなると写真家の役割はかなり軽くなってしまう。プロの領域を素人が侵し始めたのは、デジタルカメラのこの機能ゆえではないか、という気がしてならない。撮影の依頼主は「気が気ではない時間」を気にせずにいられるからこそ、プロにお金を払ったのだ。

さいきん会ったファッションカメラマンが嘆いていた。スタジオのモデル撮影。カメラマンがシャッターを切った写真は、ただちにそばに置かれたモニターに映し出される。モニターの前ではプロデューサー、デザイナー、クライアントが一団になって画面を注視し、撮影された映像に次々と「目線もう少し下げて」とか「目の下のシャドー消して」とかそれこそ細かな注文が発せられ、その取り巻きたちの「指示」に従ってカメラマンはシャッターを押し続けるのだという。「現代のカメラマンはシャッター押し屋」ですよ、というのはあながち大げさな言葉ともおもえない。

こうなってくると、「写真は芸術か、否か」という議論は無意味だろう。ちゃんと映っているだけの写真が撮れるだけではプロといえず、そこに「何か」を写し取れるカメラマンだけがプロとして生き残る。ようやくカメラマン淘汰の時代が始まったのである。この競争に生き残ったカメラマンだけが自らを堂々と「写真家です」と名乗ればよい。
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