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2010年1月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 温暖な南カリフォルニアでもいまは冬の真っ盛り。野鳥たちは春の到来を待ち望んでいることでしょう。自由に空を飛べる鳥に、私もなりたい。
新年おめでとうございます。

昨年のお正月と比べると、どうも大きな希望が持てないような気分です。でも、自分の責任は果たして世の中が後ずさりしないよう、頑張らなくっちゃ、という気持は持っています。

そういう思いでいるのは、もちろん私だけではないでしょう。私とは全く逆の考え方や世界観を持っている人たちも、それぞれの考え方に順して、頑張ろうと気持を持っていると思います。私とは違う考えの人たちでも、なんとかこの世界をもっと良くしていこうと考えているのなら、ものの見方の違いを議論しながら相手から何かを学べるのですが、とにかく自分の考え方を強引に押し付けようとしたり、相手を引き下ろすことを目標とする人たちがあまりにも多いので、うんざりを通り越しておそろしくなるというのが、いまのアメリカの状況です。

その状況が言葉から伺えます。言葉は生き物ですから、社会の動きを反映して絶え間なく新語が生まれて来ますが、2009年にはティーバッガー(Teabagger)とかバーサー(Birther)という新語が生まれました。私にはそれがとっても恐ろしいのです。

ティーバッガーとはティーパーティー(Tea Party)に参加する人のこと。ティーパーティーといっても、楽しいお茶会のことではありません。イギリス帝国によるインド産お茶の課税に抗議して、ボストン港に荷揚げされたお茶を海に投げ入れ、アメリカ独立戦争のきっかけを作ったできごとになぞらせて、連邦政府の権限やオバマ大統領や国家予算を使って景気を刺激する政策などに反対する保守系の社会運動のことです。

社会運動といっても、草の根から広まった運動ではありません。右翼メディアやイデオローグが、一般庶民の中でも経済基盤の弱くて、現在のアメリカの不況に喘いでいたり不安を持っていたり、またオバマ大統領はアフリカ系アメリカ人を優遇するのではないかという不信を抱いている層を上から主導して、反税、反連邦政府、反オバマ、反景気回復対策、そして夏からは反医療制度改革へと、広げていったのです。

特に医療制度改革案が議会で論理され始めると、保険会社や製薬会社が6億ドルもの資金を投じて反改革ロビー作戦を繰り広げ、提案されている医療制度改革案は国家予算に多額の赤字をもたらすと主張して、各地で抗議集会を組織し、ティーバッガーたちが動員されました。

それがピークに達したのは9月12日のワシントンでの大集会です。うちにも来ましたよ、集会参加を呼びかける電話が。テープでしたから、私は途中で電話を切ってしまいましたけど。確定した参加者数は出されていませんが、数万人から7万5千人以上だろういうのが一般的な見方です。集会直後は右派メディアや右翼プロパガンダがだんだん数を増やしていって、100万、いや200万人とまで言い出したのですが、それは大誇張だったということがいまでははっきりしています。

ちょっと話は横道にそれますが、田中宇という人が国際ニュース解説をしていて、9月16日この集会のことを報告しています。
http://tanakanews.com/090916rage.htm
が、それは解説というより、右翼メディアの流す情報を鵜呑みにしたまま、9月12日集会は100万人の参加者があったとしているだけでなく、「リベラル・左派系の人々」や「反戦系の人々も参加し、超党派での反オバマ集会となった」などと根拠のない断言をした誤報です。ちょうどこのころ、左派はオバマが決断力を行使してどんどん社会福祉政策や軍事行動縮小を進めていかないことに対する不満も表面化して来ましたから、そう推測したのでしょう。でも、ティーパーティーが右翼主導のプロパガンダであることは見え見えでしたから、この集会が超党派の反オバマ集会となるなどということは絶対にあり得ませんし、事実、そんなことはありませんでした。また、そんなふうに報道したアメリカのメディアも全くありませんでした。随分いい加減なことを言うものだと、私はご本人に抗議したのですが…

そうやって上から組織されたティーバッガーたちですが、アメリカ社会がこれまで通りにはいかなくなって来たことに対する漠然とした、でも深い不安が、彼らが巨大な力を持つ支配層に操作されやすくしているのでしょう。彼らにとって、アメリカ史上初めて非白人の大統領になったオバマが、これまで通りにはいかないアメリカの象徴であるに違いありません。

それで、とにかくオバマを引きずり落そうとするのがバーサーたちなのです。オバマのハワイでの出生証明書(birth certificate)は偽造で、本当はケニア生まれだとか、アメリカ以外のパスポートでパキスタンへ行ったとか、主張するのです。オバマがきちんとハワイ州発行の出生証明書の公式コピーを提出しても、なのですから、悪意に満ちたものとしか思えません。このことは大統領選挙でオバマが候補になったころから盛んに流され、いまだにくすぶっています。数ヶ月前、私の前を走っている車に「Where’s the birth certificate?」(出生証明書はどこだ?)というバンパースティッカーが貼ってありました。その車を運転しているのはバーサーだったのです。バーサーがこんなに身近にいるんだ、と、私はぞうっとしてしまいました。

バーサーたちからのオバマ攻撃はまだまだ続くでしょう。その証拠に、政治的野心丸出しでアラスカ州知事を辞任したサラー・ペイリンは、ついこの間の12月3日に、選挙民がオバマの出生証明書を問題にするのは妥当だと思う、などとケロリと発言したくらいですから。このことからも、バーサーたちがどんなに上から操られているかおわかりでしょう。

ところで、このペイリンさん。大統領選挙運動中の経験を書いた本を秋に出版し、それが一躍ニューヨークタイムズ紙のベストセラーのリストに載りました。それほどアメリカ人は彼女に興味があるのかしら、と首をかしげたのですが、そうではなかったのです。ある右翼団体が彼女の本を出版前から何万部も注文しておいて、出版と同時にベストセラーになるよう仕掛けてあったのだそうです。もうなにもかも、財力のある人たちが人心操作をしているように思われます。

アメリカの保守派はいまや完全に右翼に主導権を握られ、知的影響力を失ってしまったように見えます。しかも、右翼は民主党の中にも浸透しつつあり、信頼できる政治的指導者はもういなくなってしまったと思う私は決して少数派ではないでしょう。

上からの人心操作に踊らされないためには、できるだけあちこちから情報を得て自分で判断しないといけないですね。無力な1個人の私にそれ以上何ができるか、今年はじっくり考えていこうと思います。

1年前と比べたら、なんと私の希望は小さく縮んでしまったこと… 
でも、ま、いいや。少しずつ、進んでいきましょう。
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