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僕の偏見紀行
190 カンボジア紀行(4)ホーチミン
2015年6月30日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 大通りから入った裏通りの朝。忙しく行きかうバイク、道端の食堂や屋台に集る人々。
▲ 路地裏市場の屋台食堂で朝食をとる人々。
▲ 人々がトレーニングに励む朝の公園にて。81才の老師(前列中央)と弟子達。
5日間滞在したシェリムアップに別れを告げ、ホーチミンへ移動した。往きのホーチミンでは、空港で乗り継ぎのみ、市内に出る時間は無かった。しかしせっかく帰りもベトナムを通るのにホーチミンに立ち寄らない手は無い。

僕には4度目のホーチミン、すっかりおなじみの街となった。食い物は旨いし、手頃なお土産が多く、ノンビリするのにちょうどいい。義姉はホーチミンが初めてだし、カミサンはお土産リストを手に張り切っている。

ホテルは去年もカミサンと泊った「エデンスター サイゴン」、ロビーのシャンデリアと花飾りが懐かしい。四つ星の手頃なホテル、ベンタイン市場にも近い。豪華ではないが、簡素で清潔、朝飯が旨い。

フロントの雰囲気が少し変わっていた。いかにも仕事が出来そうな若い女が二人、にこやかに迎えてくれた。手早くチェックインの手続きを終え、最後に事務的にこう言いだした。

「50ドルのデポジットまたはにクレジット伝票にサインをお願いします、チェックアウト時には廃却します。」

前回はこんなことは無かった。僕は、既に予約サイトへはカードで支払い済み、と主張したが、最近変わった経営者の方針らしい。さすが成長著しいベトナム、変化が激しい。

「要するにあなた方は僕を信用しない、ということか、そうなら僕もあなたが信用できない。それなのにカード伝票にサインしろというのか」

僕は、下手な英語でお粗末な皮肉をボソボソと飛ばしたものの、女どもはそれを見事に無視してくれた。

なじみといえどもホーチミン、出だしからなかなか手強い洗礼だ。そういえば先ほどの空港でも、危うく白タクの運ちゃんに引っかかるところだった。もっともらしくIDカードをぶら下げ、真面目なそうな顔つきのオヤジだったのに、離れた場所の白タクまで連れて行こうとした。

去年も、出発当日の大雪によるトラブルで飛行機が大幅に遅れ深夜に到着したが、着いた途端ニセの案内人にだまれかけた。今回は注意していたつもりだったが、昼間だったのでつい油断してしまった。まさに沢木耕太郎がいうように、アジア旅ではこちらから仕掛けなくても何かが起こる、のだ。その時は大変だが、これがアジアの面白さともいえる。

ホーチミンでも5日滞在の予定、まずきままな街歩きと買い物、それと義姉が初めてなのでメコンデルタツアー、後は成り行きまかせ。できれば去年世話になった、ホテル近くの食堂の若者に会って、用意した彼の写真を渡したい。

初日の夕食はさっそくその食堂へ行ってみた。ホテルから歩いて5分と近いが、大通りはバイクで溢れ、信号をカットしようと、歩道に突っ込んでくるバイクもいるので油断できない。バイクの奔流とそれが巻き起こす騒音と混乱、またベトナムに来た、という実感がわいてくる。

食堂に着いて店内を探したが若者はいなかった。やめたのか、たまたま休みなのか、ちょっとがっかりだ。気を取り直してテーブルに着く。メニューを見てもサッパリ読めない。店頭のショーケースをのぞき、旨そうなお惣菜をいくつか指差して注文する。

その間も店頭のオープンキッチンでは、次々にお惣菜ができあがり、ショーケースに並べられる。惣菜は日替わりなので、たとえ毎日通っても飽き無い。滞在中何度も通ったがいつも珍しくて美味しい料理を発見できた。しかし残念ながら探していた若者には会えなかった。もうやめてしまったのだろう。

この日は3人で、お惣菜4品そしてスープ、洗面器に山盛りの白飯、椰子の実、ビールなど、おなか一杯食べて、25万ドン(1250円)文字通り安くて旨い。これで店のメニューが読めると店頭のお惣菜だけでなく、地元の人が食べている鍋料理なども頼めるのだが。

翌日の朝食後、一人で周辺探索をかねて散歩に出た。通りには他にもホテルがいくつも並び、コンビニ、雑貨屋などもあって便利な場所だ。あとはランドリーがあれば申し分ないのだが。

ホテルの通りから脇へ伸びる路地の一つに入った。小さな食堂が軒を連ね、その店先からは湯気が立ちのぼり、いい匂いがあたりに漂っている。

さらに歩いて次の通りへ出ると、給水塔のある水道局らしい建物が見えた。その脇の細い路地に入ると、驚いたことにそこは路地裏市場だった。背後の壁に張り付くように、道の両脇に小さな店が並んでいる。肉・魚・野菜等の食料品から、衣料品店まで生活物資の殆どがここで間に合いそう。

人がやっとすれ違えるような細いところに、バイクがこともなげに突っ込んでくる。すれ違う人々はそれが当たり前、という顔だ。片隅のちょっとしたスペースに座り込んで朝飯を食べる女達もいる。

市場を抜け、さらに歩いていたら念願のランドリーを発見した。ホテルからそう遠くないこところに見つかって助かった。中年夫婦がやっているそのランドリーは、1キロ1ドル、夕方までに出せば翌朝10時頃出来上がり、というアジア共通スタイルだった。奥さんはカタコトの英語を話すが、旦那は全くダメだった。

何故かこの店、店先で中古衣類の販売もやっていた。その理由は後日判明するのだが、それはまたその時に。

大通りに戻り地図を片手にベンタイン市場方面へ歩いた。市場へ近づくにつれ一段と車はバイクが多くなった。ホテルからちょっと離れた辺りにも手軽な食堂がいくつもあった。家族経営らしい小さなフォー屋さんでは地元の人が朝ごはんを食べていた。

歩くにつれ、日差しが強まり暑くなってきた。ちょうど公園があったのでベンチで一休みした。あちこちで沢山の人が思い思いに体操やウオーキングを楽しんでいる。備え付けの運動用具で筋トレに励むオバサン達もいる。

芝生で中年男達が、一人の老人をとり囲んでいる。近寄ると武術の組み手の練習のようだ。興味があったので一人に話しをきいた。僕が日本からの旅行者だと知ると、彼は親切にいろいろと話してくれた。

この老人は、見た目は小柄で華奢な老人だが、カンフーの達人、老師らしい。老師がひょいと一人の男に技をかけると、大の男が全く動けなくなる。映画やテレビでしか見たことのない光景に僕は驚いた。

僕が太極拳を練習しているのを知ると、これか、と老師は軽やかに動いた。流れるような美しい動き、これはホンモノだ。僕も太極拳を始めて5年、さっぱり上達しないが、見る目だけは出来てきた。

この81才になるという老師は、武術の達人として有名な人で、教えを受ける人が多い。男達は、毎朝ここで老師の指導を受けていたのだ。老師と男達に囲まれて記念撮影、思いがけない出会いが僕は嬉しかった。

この公園からベンタイン市場はすぐだった。さらに公園を抜けたすぐ先はバックパッカーの聖地デタム通りだった。いつもホテルタクシーで行くシンツーリストもそこにある。歩けば意外に近い。

ほんの軽い散歩のつもりがつい長くなった。しかし思いがけずいろいろ収穫が多く楽しかった。入手した情報を地図に書き込みホテルへ戻った。(続く)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
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68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
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42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
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37 知床の秋(1)、鮭遡上
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35 白神山地「ブナの学校」
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30 嗚呼!還暦大同窓会
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
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14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
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3 信州塩田平別所温泉
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1 東北紅葉雪見風呂
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