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125 京都名刹めぐり その29 大覚寺
2012年3月12日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
京都名刹めぐり その29 大覚寺


皇族や摂関家の貴族が出家して住んだことがある寺院のことを「門跡寺院(もんぜきじいん)」と言います。その門跡寺院は全国にいったい、いくつくらいあるのか、今のところ調べきれていないのですが、その中にはごく少数ですが、「○○御所」と呼ばれている特別な寺院があります。比丘尼御所(びくにごしょ)と呼ばれる尼門跡を別にしますと、門跡寺院の内、「○○御所」と呼ばれるお寺は、京都に次の3ヶ寺があるだけです。「御所」と呼ばれるようになった時期の古い順からご紹介してみます。

○ 旧嵯峨御所 = 大覚寺(真言宗大覚寺派大本山)
平安時代の初め頃に在位した嵯峨天皇(在位809年〜823年)が、離宮を営んでいた一帯を帝の死後、寺院にしたものです。場所は、まさに嵯峨野の入口です。龍安寺や立命館大学の近くを通る「きぬかけの路」を西に進み、仁和寺の前や宇多野病院の前を通り、一条山越通の信号を抜けると間もなくです。広沢池を通り過ぎてから、まもなく右手に曲がれば、そこが大覚寺です。大覚寺に隣接して、日本で初めての庭池と言われる、大沢池があります。(私は昔から、この大沢池と広沢池を混同しやすくて困っています。広沢池は嵯峨へ向かう街道沿いにあり、大沢池は大覚寺の庭池なのです) 嵯峨天皇の死後30年以上経ってから、嵯峨天皇の皇女がその離宮を寺にあらためたのが寺院としての起源です。時に876年。弘法大師と嵯峨天皇の関わりの深さから、真言宗の寺院となったようです。

○ 御室御所 = 仁和寺(真言宗御室派総本山)
同じく平安時代、宇多天皇が899年にここで出家して法皇になったのが起源です。そもそも、これが法皇という称号が最初に使われたケースなのだそうです。その後、室町時代、10年にもわたる応仁の乱(1467年〜1477年)で伽藍は全焼しましたが、徳川時代初期の寛永年間(1624年〜1644年)に、徳川幕府によって伽藍が整備されました。また、同時期に行われた京都御所の建て替えに伴い、旧御所の紫宸殿、清涼殿、常御殿などが仁和寺に移築されました。たとえば、現在の仁和寺・金堂は旧紫宸殿であった建物なのだそうです。

○ 粟田御所 = 青蓮院(天台宗門跡)
平安時代末期(12世紀)に、鳥羽上皇の后や皇子等が祈願所としたり、弟子入りしたことから高い格式の寺院としてスタートしました。代々、時代の流れにも積極的な理解と対応を示し、当時まだ新興宗教であった浄土宗の祖、法然上人や、浄土真宗の祖、親鸞聖人にも理解を示し、天台宗寺院でありながら、総本山・延暦寺の抑圧から彼らを庇護した歴史があります。そのため、現在でも、浄土宗や浄土真宗との関係は深いのだそうです。そう言えば、青蓮院は浄土宗総本山の知恩院のすぐ近くにあります。また、江戸時代の天明年間(1788年)に、大火により京都御所が炎上した際には、当時の後桜町上皇が青蓮院を仮御所として避難場所にしたのだそうです。以来、青蓮院は粟田御所と呼ばれており、「青蓮院旧仮御所」として国の史跡にも指定されています。

以上、ちょっとくどくなりましたが、真言宗2つと、天台宗1つのお寺が「○○御所」と呼ばれています。行ってみるとよくわかりますが、とにかく建物に使用されている木材が上質で、作った職人の技術が一流だということが実感できます。材料がよくて、それを加工する技術と、さらにデザインのセンスがよければ、何事もすばらしくなりますね。やっぱり、その時代の一流の材料と技術を駆使して作ったということなのでしょう。

今回ご紹介するのは、その3つの「○○御所」の中の、嵯峨御所・大覚寺です。このお寺は、生け花・嵯峨御流の家元というか(この場合は、総司所と言います)、生け花も主宰しておられるとのことで、なかなか多彩です。

そう言えば、室町時代初期に、大覚寺統、持明院統に分かれて皇位を争った南北朝の争乱(1336年〜1392年)は、ここ大覚寺で講和会議が開かれて、決着しました。室町幕府の足利尊氏の時代に始まった争いが、一応の決着をみたのは、1392年、3代将軍、足利義満の時代でした。ちなみに、大覚寺は、結果的に敗れた南朝側の御所となっていました。

上の写真は、上から宸殿外観、宸殿廊下、それに宸殿内部の狩野派による襖絵です。この建物は、江戸時代初期に活躍した、後水尾天皇(修学院離宮造成を命じた天皇。他にも様々な史跡を残すような活躍をしました。)が、 延宝年間(1673年〜1680年)に京都御所で使っていた寝殿造りの建物を、大覚寺に移築させたものだそうです。移築後だけでも、ざっと見て3百年以上経っていますが、いやいやどうして立派なものでした。

そう言えば近年、再建なった奈良の薬師寺の西塔の工事関係者の方が、創建当時からある東塔が、建築後1300年を経てなお健在(現在は解体修理工事中ですが)なので、今の世の技術を以て再建した西塔は、少なくともそれ以上の期間、美しさを保つことができるよう全力を尽くしました、と言っておられるのを聞いたことがあります。一流の技術者とは、そんな意識を持った人達なのでしょうね。

ところで、大覚寺には嵯峨天皇の離宮の庭池として作られた日本最古の庭池である大沢池があります。古来、嵯峨野一帯は現在の桂川の水が流れ込む沼地でしたが、優れた土木技術を持った渡来系豪族の秦氏一族によって、田園地帯に変わりました。

それがやがて、美しい自然に接することのできる場所として、王朝人が別荘を建てるようになり、そのうちのひとつが嵯峨院でした。それが後に大覚寺となったわけです。

よい材料を、よい技術で仕上げる。いつの時代でも良質なものの本質ですね。だから、こういう場所は、何回訪れてもどこか心地よさを感じます。大覚寺は京都市街地からは、ちょっと距離がありますが、嵐山近辺の混雑した嵯峨野銀座とは異質な快適さがあります。

門前に「しぐれ茶屋」というおそば屋さんがありました。嵐山界隈とは異なり、このあたりは他にお店はありません。師走の寒い時期でしたので、拝観後、あたたかいおそばを楽しんで、とってもハッピーな気分になりました。お奨め寺院のひとつです。




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