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僕の偏見紀行
234 麗しの島へ(3)古都台南
2018年2月22日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 「自助餐食堂」料理の一部、一枚の写真にはとても収まらないほどたくさんの料理が並んでいる。
▲ 僕の好きな花豆汁粉、薄甘くて優しい味わいが忘れられない。
▲ お世話になった食堂、麺類が美味しかった。
ホテル前の運河を渡り15分くらい歩くと安平老街とよばれる旧市街へ出る。この旧市街にはオランダ統治時代の城塞跡や中国式の霊廟や寺院が今も当時の面影を残している。ホテルから近いので滞在中何度か足を運んだ。

朽ちたレンガ造りの要塞跡を訪れると錆びた大砲が静かに並んでいた。傍らを観光客が行き交うなか、砲口は虚しく空を向いている。かつてこの緑豊かな島に我が国を含むいくつかの国々が土足で押し入り人々の平和な暮らしを脅かした。

そして今なお、この麗しい島は正式な国家として国際的には認められていない。はるか昔から島で独自の文化と歴史を持つ人々にとって、二つの中国など関係ない話で、そのあおりで国家としてみと認められないのは理不尽な話だ。ある日本のテレビ局の取材に対して、若者達は大半が国際的に認められる独立国家になりたい、と応えていた。

悲しいことに我が国は過去迷惑をかけたことがあるのに、しかも何かとお世話になりながら、他国の顔色をうかがうことに汲々とするのみだ。台湾にとって頼りない、なんとも不甲斐ない隣人である。

城塞跡を出て歩いていると小雨が降り出した。いつもと違ってなかなか降りやまない。雨宿りを兼ね通りすがりに見つけた小さな食堂へはいった。

店頭にいくつかテーブルとイスが置かれ、かたわらのガラスケースには野菜や肉類の食材が並んでいる。奥の大釜からあたたかな湯気が立ち昇り、中年の女性が忙しく調理中だ。

テーブルのメニューを眺めても見当がつかないので、身振り手振りでヌードルスープを頼んだ。ケースの中のおでんのような肉と野菜の煮込みが盛ってあったのでそれも追加した。

運ばれてきたのはベトナムのフォーにも似たやさしい味わいの麺とスープだった。雨で冷えた身体に暖かいスープが染みていく。煮込みは見た目通りの味で濃い目の味付けがスープとよく合った。

僕にはこの安平老街で楽しみにしているものがあった。台湾に着いてすぐ、台北駅地下のフードコートで小豆や豆腐それに餅などが入った甘いスープを食べたが、僕はその薄甘いやさしい味わいがとても気に入った。

ここ台南にも同じような名物があるという。観光地図を開くと「安平周氏豆花緑豆汁粉」という老舗が載っていた。古い歴史を誇る老舗という。

行き方がよく分からなかったので、食堂のオジサンに地図を見せて尋ねた。旨く話が通じなくて困っていたら、店の奥から老けた大学生風の人物が現れ、僕と同じレベルの英語、つまりあまり上手じゃない、で教えてくれた。

教わった通りにしばらく歩くと看板が見えて来た。観光地図通り「安平周氏・・・」と書いてある。店頭のショーケースにいくつもいろんな豆類の入った汁粉のサンプルが並んでいる。

サンプルを見てもメニューを見てもどれがいいかさっぱり分からない。店の女将さん風の女性に店一番を推薦してもらった。それは、暖かくて薄甘いスープに小豆や花豆などの豆類とおぼろ豆腐、そして餅が入っていた。

一口すすると、スープのやさしい甘みととろける豆腐の香り、そしていろんな種類もの豆の味が一体となって口いっぱいに溢れた。歩き疲れ、小雨に冷えた身体中にしみじみとした味わいのスープが沁みわたる。

ある日の夕暮れ時、今宵の晩飯はどこにするかなあ、などと考えつつ散歩していたら、大通りの向こうのガラス張りの建物にたくさんの人影が見えた。明るい照明の下、家族連れ、カップルなど台南の老若男女が思い思いにテーブルについて食事中のようだ。

建物の上にあるネオンサインには「自助餐」の文字、食堂らしいが随分繁盛している。と、いうことは安くて旨いのでは、僕にはピンときた。早速入ってみると果たしてそうだった。

そこにはホテルのビュッフェ会場さながらの光景が広がっていた。野菜・肉・魚等の料理が所狭しと並び、人々が群がってトレーに好みの料理を入れている。台湾の家庭料理だと思うが、野菜類は勿論、それぞれ数種類の肉や魚が煮たり焼いたり揚げたり、様々な料理が続いている。ご飯は最後にレジの脇にあった。

僕も人々の後に続いて料理を選んでいったが、あまりにいろいろありすぎて困った。また明日くればいいか、と料理選びを適当なところで切り上げ、レジへ向かった。そこには利口そうな若者が一人で奮闘していた。

彼は次々に客が持ち込むトレーを素早くチェックして料金を客に告げている。時には折り重なった肉や野菜をお箸でひょいと持ち上げ、下に別の料理が隠れていないか調べたり、彼のチェックは迅速丁寧にして正確だった。

会計を済ますと客はテーブルのある食事コーナーへ行く。お茶はセルフ、アルコール無し、食事時にはたくさんの人が押し掛けるが食事に専念して食べ終わるとすぐに席をたつので客の回転は早い。

僕も一人で美味しい夕食を楽しむことが出来た。数種類のおかずとご飯で200円足らずだった。ここはまさしく、安い、早い、旨いと三拍子そろったアジアン食堂だ。僕は大いに満足し、それ以降ここへ通うことになった。それにしてもこんなスタイルの食堂を「自助餐」とよぶのだ、言われてみれば分かりやすい。

こうやって台南暮らしも軌道にのり順調な日々を過ごすことが出来た。さらにホテル近くにコインランドリーがあり、さらに快適な生活となった。ある日洗濯物をぶら下げてランドリーに行くと若いカップルが仲良く洗濯中だった。見たところ未だ高校生くらいの男女だ。

若者らしく賑やかにおしゃべりしながら楽しそうだ。特に活発そうな女の子がよく動き回り、男の子をリードしている。彼女は僕の存在が気になったようで、チラチラとこちらを見るようになった。外国の老人がランドリーでモタモタしてるのが気になったのだろう。

「エクスキューズ ミー」緊張した面持ちで彼女が僕に話しかけてきた。ちょっと恥ずかしそうに洗剤の入れ方や乾燥のやり方を丁寧にぎごちない英語で教えてくれた。

中国語の案内板に閉口していた僕は大いに助かった。外国でこんな思いやりを受けると本当に有難い。僕は心から彼女に礼をいうと彼女も少し顔をあからめて喜んでいた。洗濯を終えると彼らは仲良く手をつないで去って行った。

こうして4泊5日の台南の日々はあっという間に過ぎて行った。台北へ戻る前日、もう一度安平老街へ行った。スープ麺が美味しかった食堂では相変わらず女将さんが忙し気に働いていた。かたわらの流しではご主人が皿洗い、いつもと変わらぬ光景だ。食事を終え、明日台北へ戻ると身振り手振りで伝えると、二人は名残惜し気に僕の理解できない言葉で別れ(多分)を言ってくれた。

花豆汁粉の老舗へ行くとここでも顔見知りになった女将さんが店先でお客の案内中だった。いつもの汁粉を食べ、身振り手振りで明日台北ヘ戻ることを伝えた。すると女将さんは片言の英語で、また来てください、と言ってくれた。

台南で出会った様々な人たち、ホテルの若者、ランドリーのカップル、食堂や汁粉屋の女将さんたち、はどんな名所旧跡より僕の心に残った。僕は旅先でのこんな出会いがとても嬉しい。ほんの行きずりの出会いなのに、年とともにその喜びも別れの淋しさも一段と深まっていく。(続く)
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90 マイ・センチメンタル・ジャーニー
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87 シルクロードの旅(10)ちいさなリンゴ
86 シルクロードの旅(9)「愛の町」アシュハバード
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81 シルクロードの旅(4)ブハラへの道
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79 シルクロードの旅(2)青の都サマルカンド
78 シルクロードの旅(1)タシュケント到着
77 小笠原の旅(7)惜別
76 小笠原の旅(6)小笠原海洋センター
75 小笠原の旅(5)母島列島
74 小笠原の旅(4)宝石の島、南島
73 小笠原の旅(3)ザトウクジラの海
72 小笠原の旅(2)BONIN ISLANDS
71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
43 北東北ローカル線の旅 (4)津軽じょんがらの夜はふけて
42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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