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かくてありけり
27 ビルの谷間に蝶
2004年6月16日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
 20余年前のこと、浪花女の私のかみさんが東京住まいに慣れた頃言った。「東京は都会なのに緑が多いわね。それに比べると大阪は緑が少ないわ」。私も東京をよく知っているわけではなかったので、そうなのかなと聞き流した。その後、十数年前に大阪へ転勤したときは郊外の千里ニュータウン(吹田市)に住んだので、緑が少ないとは思わなかった。しかし今回、二度目の大阪勤務で市の中心部に住んでみて、はじめて妻の指摘が実感されるようになった。

 6月7日付け朝日新聞大阪版の夕刊一面に、大阪の暑い夏を返上するための緑化対策の記事が掲載された。その中に大都市の緑地率が出ていた。東京都23区が28.5%、名古屋市は25.3%、大阪市は5.5%。都市部だけで見ると大阪は東京や名古屋の約5分の1だ。妻の観察は正しかった。

 大阪の繁華街の梅田はアパートから徒歩10分余り。週末、本屋やデパートの地下食品街巡りで足を運ぶ。地上では林立する高層ビルに押しひしがれるような思いになり、地下街を行けば雑踏の人込みに酔い、方向感覚も失い、だんだんと息苦しくなる。そんなときはビルの谷間にポッカリと開けて青空がのぞく一隅を目指す。この地域の総鎮守、お初天神(露天神)の境内だ。私にとってそこは一種のアジール(聖庇)と言って良い。たどり着いて深呼吸をすると本当に解放されたように感じる。その空間とそこにある土と緑が大変貴重なものに思える。

 大都市で緑と開放空間が期待できるのは公園、教育施設、宗教施設、公共施設くらいだろうか。しかし同じ宗教施設でも、梅田界隈に幾つかあるお寺はいずれも鉄筋コンクリートで固めたビルが多く、樹影がないのはどうしたわけだろう?

 お初天神には規模こそ小さいが色々の植木があり、四季折々に楽しめる。今の季節、私のお気に入りは社殿に向かって左前にある右近の橘(たちばな)である。橘は万葉の昔から尊ばれて来た日本固有種の柑橘類だ。その清楚な5弁の花は文化勲章のデザインになっている。実が食べられるわけではないから、いまどき家庭で栽培している例は少ないと思う。神社であればこそ、その姿を見ることができる。

 4月29日、みどりの日に訪れたら、ちょうど開花の時期で、花は柑橘系特有の高い香りを漂わせて咲いていた。まだ蕾が多かったが、早いものは5枚の花弁がきれいに分離していた。正面から見た形はなるほど文化勲章である。上方の梢に目をやると直径3造个りの少し扁平な黄色みを帯びた球形の果実が付いている。昨年の実だ。虫媒花が結実するからにはここにも昆虫が訪れるのだろうと推測していたら、予期した通り蜂が飛来して花の密を探っていた。

 6月初め、再び訪れた。未だ咲いているかなと思ったが、花は終わって直径5世曚匹領仗Г硫娘造吠僂錣辰討い拭
 手の届く範囲の枝には無数のおみくじが結びつけられ、木全体が白い鉢巻きを巻いたように見える。
 
 それより上方の若葉を見ると所々葉が無く茎だけになっている。「さては」とその付近を凝視すると、居た居た!長さ2〜3造曚匹痢▲船腑灰譟璽箸縫リームを掃いたような色合いの虫がせっせと葉をかじっている。別の葉裏には直径1世曚匹領仗Г陵颪。いずれもアゲハチョウの若齢幼虫であり、卵である。
 
 と、視野の端にヒラヒラと舞う姿が。アゲハだ。メスが産卵にやってきたのだ。こんな都会の谷間でも虫たちは生を営んでいる。ここのアゲハは大阪市の5%の緑を象徴しているのだなと思うと健気だなと感じる。しかし疑問も湧く。蝶はどこから来たのだろうか、ここで育った蝶はどこへ行くのだろうか、それともここで生まれ、ここで死ぬのだろうか?

 次に見に来るときには幼虫は脱皮して緑色に衣替えしているだろうか?さらに進んで、蛹に変身しているだろうか?願わくは久しぶりにアゲハの羽化を見たいものだ。それまでは神社の管理者が薬剤を散布しないことを祈りたい。ビル街をアゲハがゆったりと舞って通り抜ける姿を見届けたいと思う。

ps.
6月15日、大阪府の太田房江知事は大阪市内でマンションやビル建設時に屋上緑化を義務付ける条例化の検討を発表した。

右近の橘は社殿に向かって左側、左近の桜が向かって右側に位置する。この場合の左右は社殿内から南を見ての位置。京都・平安神宮の紫宸殿前の桜と橘を見ると分かるように「天子は南面す」、「臣下は北面す」がよりどころになる。
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