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葉山日記
84 侮るなかれ、恐れるなかれ
2007年1月1日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
新年初のエッセイだから、本来なら今年の抱負めいたものを書かねばならないのだろうが、さきほどから腕を組み、うんうん唸ってばかりで1行も書けないでいる。

考えてみれば、新年にいくら威勢のいい決意をしても、これまで実現したためしはほとんどない。そうであるならば、肩肘張った決意表明などしないほうがいい。淡々と新年を迎え、それに続く日々を淡々と送ればいいではないか、それも人生さ、と思うことにした。運命はなるようにしかならない、意思あるところに必ずしも道があるわけではない、ということが見えてくる年齢になったということか。

とはいえひとつだけ抱負めいたものを設定したい。このエッセイのタイトルを変更し、自分の身辺や、世間の出来事に対して感じることをなるべく正直に、そして頻繁に書くこと。これまでの「木を見て森を見る」もそこそこ気に入ったタイトルではあったのだが、どうも最近「森」が見えなくなってきたような気がするのだ。それは僕がろくな「木」しか見ていないのかもしれないし、そう思いたくはないが年齢のなせるせいかも知れない。または「森」が、僕だけでなく、だれにとっても見えにくい時代になっているせいかも知れない。いずれが原因にせよ、タイトルが少々気恥ずかしくなってきた。

新タイトルの「一分」は「いちぶん」と読む。年末にみた映画「武士の一分」からいただいた。「どうしても譲れない一線」「ぎりぎり守るべき誇り」というような意味らしいが、僕の場合は「どうしても言いたいこと。どうしても妥協できないこと」というような意味で使わせていただく。「一寸の虫にも五分の魂」という。虫の魂のその5分の1でもいい。言いたいことをずけずけ書いていこう、という思いもある。

さて、その身辺雑記だが、先日会った、かつて勤めていた通信社の後輩ととりとめのない話をするうちに、相手から「波乱万丈、やりたいことやり尽くしたんだからもうそろそろお孫さんと一緒の静かな日々を送るのもいいんじゃないですか」と言われ、「静かな日々って?孫と一緒?」とおもわず聞きかえしてしまった。冗談じゃない、俺の人生はこれからだ、やりたいことの半分もやってない、と思わず口に出しそうになった。が、出かかった言葉を飲み込んだ。

相手はべつに嫌味をいっているわけではない。彼も1年後に定年を控え、人生の店じまいに入る静かな心境になっている。40年近くをひとつの会社で地道に勤め上げた彼の目には、僕の人生は刺激に満ち、うらやましいものとして映っているのだろうか。それとも、いまだにぎらぎらと「もうひと勝負」を目論む青臭い僕に、「歳相応に生きてはどうですか」とやんわりとけん制をかけてくれたのだろうか。

彼を含む他人はどう思うか知らないが、やりたいことの半分も実現できていないと思う気持ちは嘘ではない。有名マスコミ企業を退職し自分の会社を創業した。歴史に残るであろうスクープ写真も撮ったし、本も数冊出した。家は4回買ったし、家族ともどもアメリカ生活も経験した。たしかにそれほど平凡とは言えない人生かもしれないが、僕自身これまでの人生を振り返って、これといった充実感や満足感がない。なにか地面に足がついた気がせず、落ち着かない根無し草のような心境だ。これは分不相応のないものねだり症候群なのか。世の中には歳相応のしかるべく落ち着いた考え方や悟り方というものがあって、僕はその道を踏み外している世間知らず、単なる非常識人に過ぎないのか。

ちょっと意地の悪いことを正直に言うと、実は団塊の世代(つまり僕らの世代ということになるのだが)が定年を迎えだす日が訪れるのを長年楽しみにしてきた。組織に守られ安定した生活を享受してきた組織人間が、囲みのない世界に放り出される日、さらに意地悪く言うと、ゆでガエルが鍋から放りだされ、裸のまま寒風にさらされる日、それが定年だ。そのときこそ、長年寒風にさらされ続けてきたものの実力が試されるときだ、と。そして僕は、飛び出てきたゆでガエルの中から、謙虚で優秀なカエルだけを選び出し、仲間として迎え入れよう。そんな思いがずっとあったのだ。

ところが現実は・・・。団塊世代はつくづくしぶとく、そして運がいいと思う。もちろんバブル崩壊の余波をうけて沈没した大企業もあったが、多くは「失われた10年」を過ごしたあと、したたかに復権を遂げた。団塊世代にはたっぷりと退職金や年金が保証され、さらに「リストラのし過ぎで手薄になった労働力を補うためには、団塊世代を雇用延長させる」という方針をだす企業が増えてきた。つまりゆでガエルはややお湯の温度は下がるかもしれないが、引き続き居心地のいい鍋にとどまれるのだ。

一方、鍋のそとで手ぐすねしていたカエルはどうだ。他人のお世話どころではない。寒風のなかで依然うち震えているのは、ふと気がつくとほかならぬ自分のほうだ。世間の多くのひとたちは、僕よりずっと計画的で、慎重で、しかもしたたかで、まじめだったのだ。いやはやたいへんなことになった。とはいえ、いまさら「孫と一緒の静かな日々」を送る自分自身の姿は想像すらできない。考えるだに発狂しそうだ。

ここまで「分」をわきまえない人生を送ってきてしまったのだから、いまさら軌道修正は無理だ。なあに、人生侮るなかれ、しかしいたずらに恐れるなかれ、だ。このまま突っ走る痩せガエルでいくしかあるまいと、なんの具体的計画もないままいまだ夢を追う自身にあきれつつ、新年を迎えてしまった僕である。
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