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葉山日記
85
2007年1月16日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
司馬遼太郎の短編に、浪費癖の派手女房を持った戦国武士の話がある(先ほどからグーグルでその題名を調べているのだが現時点では不明)。僕の記憶では、男は豊臣秀吉の部下ではなかったか。女房は着道楽で、やれ着物だ、やれ帯だ、かんざしだとしょっちゅう亭主にねだる。薄給の下級武士が、見分不相応のわがまま女房の望みに応えるためには戦場で武勲をあげるしかない。人並み以上の手柄をあげてその報奨金、つまり臨時のボーナスで妻を喜ばすしかない。

では戦場での働きぶりの「論功行賞」や「勤務評定」は当時どうやって行われたのだろうか。討ち取った首の数で決まったのだという。戦場の混乱の中で、自分の働きを証明するものは唯一討ち取った相手の首だ。首級をあげる暇がないばあいは代わりに鼻をそぎ取ったのだともいう。(「首」の階級が高いほど評価が高まるのは当然)。耳ではだめ、2つあるから。後世から見ると残虐極まりない行為も、戦場の男たちにとっては稼ぎや出世の手段という別な意味を持っていただろう。

「首」でまっさきに思い出す映画がある。過去10数年のあいだに僕が観た映画でたぶん10指にはいるのが「セブン」である。全編陰鬱な雨のシーンが多く、この映画の重いテーマを映像がいっそう引き立てた。雨の描き方はたぶん、黒澤明の「羅生門」や「七人の侍」の影響を受けたと思われる。黒澤は放水車から降らせる水に墨汁を混ぜて、暗い雨を強調した。セブンの監督デビッド・フィンチャーは銀残しというフィルム現像の手法を用いてコントラストの強い映像をみごとに表現した。だが今日のデーマは映像論ではなく、「首」である。

ある大都会で残虐な殺人事件がつぎつぎに発生する。捜査を担当するのは、新人刑事ミルズ(ブラッド・ピット)と定年退職までわずか1週間のベテラン刑事サマセット(モーガン・フリーマン)。2人は、捜査を進めるうちにそれぞれの事件の被害者、つまり死体に、ある「キーワード」が隠されていることに気がつかされる。

「大食」
「強欲」
「怠惰」
「肉欲」
「高慢」。

2人の刑事は、犯人が、キリスト教における「七つの大罪」にあてはまる人物をつぎつぎに殺害しているのではないか、と推論する。ところが意外にも5人目の殺害がおわったところで、犯人ジョン・ドゥー(ケビン・スペイシー)が突然自首してくる。そして「自分は選ばれた人間で、誰もなし遂げなかった偉大なことを行った」と言う。ミルズとサマセットは残る2つの大罪「嫉妬」「憤怒」がからむ殺人事件がすでに起きているのではないかと予測する。

ここから先はぜひ映画でみていただきたいのだが、結局7つの殺人は成立してしまう。刑事ミルズは最後に犯人から送られてきた宅配便のなかに(嫉妬の罪を犯したという)自分の妻の首を見せられることになり、そして犯人の思惑どおり、憤怒にかられて、手錠につながれた犯人を射殺してしまう。

ブラピが段ボール箱を開き妻の首を発見するシーンは衝撃的だったが、今回、東京で起きた、歯科医次男が妹を殺した事件は、その衝撃を数倍上回るものだった。実の娘の首を発見したのがその母であり、なんと犯人は実の息子だった。現実がフィクションのはるか先きを行き始めた。

「セブン」を見終わってこの映画の恐さは別のところにあるような気がした。「大食」「強欲」「怠惰」「肉欲」「高慢」「嫉妬」「憤怒」の罪は先進国の現代人のすべてが多かれ少なかれ持っているものではないか。他人事のようにこの映画を見ている皆さん、神の裁きを受けるのはあなた自身かもしれませんよ、というのが監督のメッセージではないか、という気がしたのだ。であるなら、日本で実際に起きたこの事件から、われわれはどんなメッセージを受け取ればいいのだろうか。

容疑者は映画のようなサイコパス(反社会性人格障害)ではなく、一見どこにでもいそうな平凡な学生だ。百歩譲って殺人はともかく、首まで切ってしまう理由が見当たらない。「自己を否定された」「死体を処分するのに困って切断した」と取調べに答えているという。意味のない殺人がこのところ急激に増えているが、それにしても自らが殺した肉体をバラバラにして、首まで切ってしまう行為をいともかんたんにやってのけてしまう、そしてそんなおぞましい事件が頻繁に発生する世の中とはいったいなんなのだろう、と考えてこんでしまう。

偶然とはいえ、外資系投資会社社員バラバラ殺人事件では、その下半身が発見されたのが、僕が半年前まで持っていた西新宿オフィスのすぐ裏手数十メートルのところ。歯科医の次男が事件後すぐに身柄拘束されたのが、僕の住むこの小さな町(神奈川県葉山)だ。想像を絶する陰惨な殺人事件でさえ、なんと身近になってしまったことか。

ここ葉山町は、たかだか7−8年前までは、夜ドアの施錠をしなくても安心して寝ていられるきわめつきの安全な町だった。ところがどうだ。数ヶ月前には真昼間、隣家に空き巣(未遂)、その数ヶ月前には、道路向こうの家が車上荒らし、と物騒この上ない町になってしまった。

そういえば昨年は、僕の母が「おれおれサギ」にやられ実際被害を受けたし、ごく身近なところで「引きこもり」「うつ病出社拒否」「カード破産」「蒸発」と具体例は枚挙にいとまない。いやはやこの日本という国は、いったいどこにいこうといしているのだろうか。
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