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かくてありけり
29 代表撮影
2004年9月26日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
ご無沙汰しました。厳しい残暑もようやく終わり、秋ですね。仕事の暦は年末に向けて動き出しました。暮れに開催する報道写真展の準備で、今年のこれまでのニュースを振り返っています。今夏のイベントではなんと言ってもアテネ五輪が大きいですね。大活躍した日本選手の中で、繰り上げで優勝が決まったハンマー投げの室伏広治選手に1カ月遅れで金メダルが届き、23日に横浜で表彰式が行われました。

 投てき直後に雄たけびを上げる室伏の写真は力のこもった表情をよくとらえていましたが、各紙同じものなので、これは「代表撮影」だなと気づきました。しかし新聞によってクレジットが異なっている。切り抜き帳第17回「クレジットの怪」では新華社電の流通経路の違いがありましたが、今回の室伏の写真では背景に「代表撮影」の問題があります。代表撮影については昨年11月に会員掲示板で雨宮さんのご質問に答えました。それを基にもう少し詳しく説明をしたいと思います。

 そもそも代表取材とは何でしょう?
本来、報道取材は各社の判断で自由にするのが原則ですが、取材対象側の都合で取材人数や取材場所が制限される場合があります。収容スペースの制約、あるいは式典や葬儀など厳粛さを侵されては困る場合もあります。最近ではメディアスクラムの問題も出てきました。

 取材制限のつけ方はさまざまです。比較的ゆるいのは「1社1名限り」です。先日のプロ野球の労使交渉がそうでした。「カメラマンのみOK」の場合もあります。ペン記者は入れないので、様子はあとで関係者に聞いたり写真や映像を見て確認することになります。また「1社1名」でもスチルとムービーを分け、時間差をつけて取材させることがまれにあります。
 
 一番厳しいのが代表取材です。新聞・通信で1社、テレビで1社、場合によっては雑誌で1社の枠になります。それでもまったく取材できないよりはましと、ライバル社同士が手を組んで持ち場や役割分担を決めて、取材をします。それで得られた成果は共有して、お互いに自由に使えるようにします。成果を持ち寄り1箇所に集めるところから欧米では代表取材をpool coverage、その写真を pool photo、記事はpool materialと呼んでいます。
 
 サミットでは毎回代表取材があります。5月22日に平壌で行われた日朝首脳会談は全ての場面がそうでした。代表取材には誰もが加われるわけではありません。その取材に人と費用を用意できること、もちろんカメラマンは一定レベルの技量が必要ですし、十分な機材を持っていて、送信もできることが条件です。義務と権利が両立できること、no work, no payが原則です。

 一義的には取材対象側の都合による代表撮影ですが、海外など人員を1社で1人しか出さないときでも、複数のポイントを手分けして取材できるわけで、メディア側にとっては合理化に結びつく面もあります。

 前置きが長くなりましたが、室伏の写真に戻ります。8月23日の在阪各紙夕刊のクレジットは
(代表撮影)→朝日、毎日、日経、産経
(代表撮影・共同)→共同通信の加盟社(京都、神戸など)
しかし読売だけは自社のカメラマン名を入れています。

 そうです、この写真は読売のカメラマンが撮影したものでした。当日、陸上競技場インフィールドの日本の写真取材枠は2枚のみ。これを雑誌と新聞・通信メディアで1枚ずつ分け、新聞・通信では読売が代表取材を引き受けました。
代表撮影の場合、各社が協議して取材、配信、利用のルールを決めます。担当社の抽選、配布時間、クレジット、二次利用の条件などです。
 クレジットは以前はどの社も「(代表撮影)」だけでしたが、最近は国内取材、海外取材を問わず、撮影社は自社のカメラマン名を入れてよいという形が多くなりました。通信社の場合、海外取材分は、通信社配信であることを示すため「(代表撮影・共同)」とするのが定着しています。国内では「(代表撮影)」です。

 新聞社がカメラマン名を入れるのは、特に海外ニュースでは、自社取材をしていることをアピールする狙いがあります。我が社はこれだけ金を掛け人を出していると宣伝するわけです。名前を出すことは写真に対する責任の明確化でもあります。日本では記事も写真も無署名がほとんどでしたが、このごろは取材者の名前を入れる社が多くなりました。カメラマンにとって、責任が重い反面、写真がよければ名前入りで大きく掲載されるわけですから励みになります。

 代表撮影のクレジットを外国通信社電、とりわけAP電と比較すると彼我の取り組みの違いが見えてきます。たとえば昨年11月ブッシュ米大統領が米サンディエゴの山火事の被災者を見舞った時の代表写真の説明は
SD102 11/04/2003 BUSH- CA WILDFIRE FEMA Chief Mike Brown, left, watches President Bush during a press conference on Silverbrook Drive in San Diego County, November 4, 2003. The President toured devastated parts of San Diego County in the wake of wildfires that swept the region last week. (AP Photo/ John Gastaldo, San Diego Union-Tribune/Pool)

 末尾のクレジットは、この写真がAPの配信であり、撮影者はSan Diego Union-Tribune 社のJohn Gastaldo氏であること、そして代表撮影(Pool)であることを示しています。
きちんとしていますね。アメリカの新聞は一面に記事と関係なく写真を大きく載せることがよくありますが、それを可能にしているのは、写真説明が自己完結しているからです。

 なお撮影者名までキャプションに入れることについてはこのサイトの主宰者である中山俊明さんが次のような指摘をしています。

アメリカのメディアが個人名まできちんと書くのは、出典の銘記以外にも理由があるような気がします。クレジットは記者、カメラマンが他社に転職する場合の、「履歴」「実績」またはPRになるのですね。頻繁に社を変えステップアップのために、つねに自己PRを考えているアメリカのジャーナリストと、終身雇用に守られた組織優先の日本のジャーナリストの違いも、クレジットをはっきりさせておくという問題に大きく絡んでいると思います。

傾聴すべき指摘です。

PS.
代表取材はテレビメディアでも同様で、しかも新聞・通信より割り切り方が明快な印象があります。海外取材ではNHKと民放キー局がNSNP(Nippon Satellite News Pool)と呼ばれる共同取材団(コンソーシアム)をテーマごとに結成し、役割分担をします。クルー、機材にとどまらず、映像伝送用の衛星回線を担当する衛星コーディネーターも出すところがテレビ局らしい。日朝首脳会談では6社からの25クルーが召集され、そのスタッフをまとめるためNHKとフジテレビから幹事を出し、衛星回線は最終的に5回線が用意されたそうです。
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