1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
ボーダーを越えて
162 ボリビア(3)米の都
2010年6月20日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 移民が日本から持って来たお釜。お釜がない家庭など考えられませんでしたよね。(ボリビアオキナワ歴史資料館展示)
▲ 池田さんの灌漑用貯水池! 公園のような美しさですね。
▲ コンバインでお米の収穫。(オキナワ移住地)
長い間、日本人にとって農業と言えば、米作りでしたね。ボリビアに移住した人たちも、誰かがいみじくも「みんな米を作るつもりでボリビアに来たんだよな」と言った通り、ジャングルを開拓してお米を作ろうと意気揚々とボリビアにやって来たのです。ボリビアも東部低地のサンタクルス県ではかなり前から小規模ですがお米が作られていて、国内で消費されていました。

それにしても、ボリビアなんぞというそれまで聞いたこともない遠くの国へ移住しようという気を少なからぬ人々に起こさせたものは、戦後の暗い国内事情もさることながら、50ヘクタールという土地でした。そんなに広い農地が無償で配布されるなんて、夢のような話ですから。

50ヘクタールといってもイメージが湧かないかもしれませんね。上野公園よりちょっと小さいくらいの広さなのですが、それでもまだピンと来ないかも。現在、日本の農家1戸あたりの平均農地面積はたったの1.8ヘクタールだそうですから、50ヘクタールというのがどんなに魅力的だったかは想像がつくでしょう*。ちなみに、ヨーロッパの農業大国フランスは45.3ヘクタール、田園風景の美しいイギリスの平均農地面積は57.2ヘクタールです。

もちろん、最初はジャングルを開墾しなければならないことは承知していました。でも、開墾作業もその後の苦労も、覚悟していた以上に大変でした。いくら頑張っても、水田は簡単にはできませんから、最初はボリビア農民がやっていたように焼き畑方式で陸稲を植えました。が、陸稲は雑草の手入れが大変だし、雨がちょうどいい時期にちょうどいい量が降ってくれないといい収穫ができず、そのため市場価格も不安定です。オキナワ移住地もサンファン移住地もお米に替わる作物を模索し、多角経営の道に進み、オキナワといえば大豆や小麦、サンファンといえばポンカン、マカダミアナッツ、産卵養鶏が有名になりました。同時に、機械化農業に踏み切り、そうすると50ヘクタールなどでは採算が合わなくなり、皆さんは数百ヘクタールの単位で農業をされています。

ところが、今回6年ぶりに2つの日系移住地を訪れてみて、びっくりしました。以前と違って、水稲栽培が盛んになっていたのです。6年前にもサンファン移住地には既に水稲が増える傾向にありましたが、当時は陸稲栽培の方が多く、面積は広くても雨の少ないオキナワ移住地では稲作は完全に下火でした。それがいまや、両移住地とも水稲栽培に対する意欲で溢れているのです。

水稲は陸稲と違って、田圃に水を確保できれば雨に頼らなくて済み、雨が降り過ぎたり、日照時間が足りなかったりしなければ収穫が安定しています。しかも雑草は水の中では生存できませんから、雑草管理にも便利。おまけに、稲は水からも栄養分を吸収できる特性があるそうで、水をどんどん流し出さなければ、土壌の養分も逃げて行きません。と、いろいろな面で、水稲は陸稲より有利なのです。でも、田圃は水平でなければいけませんから、問題は整地。それには大変コストがかかるからです。

ボリビアの5月は秋で、収穫が終わって、いまちょうど整地をしているから、と、サンファン移住地の池田潤さんが案内してくださいました。ボリビアでは二毛作が普通に行われていますが、池田さんは田圃はお米の一期作だけにして、土地整備に専念しておられるのです。池田さんは陸稲栽培をしていた時は400ヘクタールの土地を利用していたそうですが、水稲に切り替えてからは250ヘクタールで十分やっていけるばかりでなく、収入もずっと安定しているので安心だとか。

1つの田圃の大きさは、ブラジルに見学に行ったときに1ヘクタールがいいと言われたけれど、自分には3〜4ヘクタールがちょうどいいとおっしゃっています。畦道もトラックが通れるくらい幅が広い。とにかく日本とはスケールが違います。田圃の真ん中に置かれたレーザーレベルを見ながらブルドーザーの操作員が土を動かしていました。川の近くにある土地は、少しずつ次々に地表を低くして水が自然に流れるようにし、川から遠い所は井戸を掘って地下水を汲み上げる。たまたま井戸を掘る作業も進められていましたが、そんなに深く掘らなくても地下水はいくらでもあるそうで、恒常的な水不足で悩んでいる南カリフォルニアの住人にはうらやましい限りです。

池田さんのご自慢は自分で川を塞き止めて作った貯水池。灌漑用という実質的利点はもちろんのこと、農地とは思えないほど美しいのです。おまけに、池のおかげで鳥や動物がいっぱい集まって来るということが本当にうれしそうです。池がなくても、田圃に水があるだけでも、動物や鳥の数が増えて来たのだそうです。
「ほら、あそこにワニがいるでしょう?」
と、池田さんが田圃の水溜まりを指差しました。ほんと! 体長1メートルぐらいのワニが日光浴しています。あら、畦道の反対側の小川の淵にもいる! ワニと共存のお米作りなんて、いいですねぇ。(残念ながら、私のカメラのレンズではワニの姿は撮れませんでした。)

水稲栽培をしても田植えをする人はまだ多くはありません。作業員を訓練しなければなりませんし、労働費もかかりますから。でも池田さんは請負人を雇って田植えをするそうです。種子に混ざっている「赤米」を排除するには、田植えが有効なのです。だんだん労働力不足になっているので、田植機の購入も目下考慮中とか。田植機1台で1日4ヘクタールぐらい田植えができますが、人夫60人ぐらい相当の働きだそうです。ボリイア人がどうやって田植えをするのか、1度見てみたいと思いました。

こうして水稲栽培が盛んになったのは偶然ではありません。サンファン移住地農業試験場で、さまざまな品種を試して研究して来た努力の結果です。サンファン移住地はボリビア政府農業畜産農村発展省から、「ボリビアの米の首都」に指定されました。また、ボリビアには「全国米の日」というのが制定されて、いわばお米博覧会が2年おきに行われます。その主催地はサンファン移住地。日系人だけでなく、大型農業ができるボリビア人も水稲栽培を始めました。オキナワ移住地の人もその催しに出かけて大いに触発され、大豆や小麦には向かない粘土質で水が確保できる所では水稲栽培を始めたのだそうです。土地がサンファンより広く、雨が少ないかわりに日照時間が長いオキナワでは、急速に水田が広がったのです。

オキナワに収穫中の田圃がありましたので、見学させてもらいました。ブラジル製の大型コンバインが広い田圃をどんどん進んで行きます。大陸の米作りは日本とはやっぱり違いますねぇ。品種はアメリカ産のものですが、ボリビアのお寿司用のお米はオキナワ最大(ということはボリビア最大かもしれません)の米生産者が生産しているそうです。そうなんです、ボリビア人もお寿司を食べるようになったのです。

今後もボリビアのお米作りはますます広がっていきそうです。


*主要各国の平均農地面積は、以下のサイトを参考にしました。
http://www.maff.go.jp/hitokuti/memo/memo3_1.pdf
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
199 お葬式
198 とうとうやって来た日、そして雨
197 思い切り生きる
196 一夜が明けて
195 ヘザーと私の日本旅行記(6 下)文楽とフグ
194 ヘザーと私の日本旅行記(6 上)ショッピング
193 ヘザーと私の日本旅行記(5)多様な日本
192 ヘザーと私の日本旅行記(4 下)河津桜と温泉
191 ヘザーと私の日本旅行記(4 上)伊豆へ向かう
190 ヘザーと私の日本旅行記(3)葉山・鎌倉
189 ヘザーと私の日本旅行記(2)江戸・かっぱ橋・オフ会
188 ヘザーと私の日本旅行記(1) 日本到着
187 生ある日々を
186 花嫁の父
185 プラチナの裏地
184 家族をつなぐ指輪
183 「血の月」を追いかけて
182 ママハハだった母
181 アジア人(下)固定観念を越えて
180 ジプシーの目
179 選挙に映ったアメリカの顔
178 とうとう、きょう
177 アジア人(上)その概念
176 海軍出身
175 特攻志願
174 お祭り
173 ありがとう、で1年を
172 クリスマスプレゼントが今年もまた
171 スージー・ウォンの世界
170 秩序の秘訣
169 黒い雲の行方
168 ドアを開けたら
167 今年もまた
166 ボリビア(7)ボリビアで和菓子を
165 ボリビア(6)パクーの登場
164 ボリビア(5)卵の力、女性の力
163 ボリビア(4)小麦の都
162 ボリビア(3)米の都
161 ボリビア(2)2つの日系移住地
160 ボリビア(1)サンタクルス
159 闇の中で
158 みんなの宝物
157 新語の中身
156 年末のご挨拶
155 ピッチピッチチャップチャップ
154 神の仕業
153 ラタトゥイユ(2)レシピ
152 ラタトゥイユ(1)
151 プティ・タ・プティの最後の1片
150 ジプシーとの知恵競争は続く
149 豊かな粗食
148 中絶抗争
147 スーザン・ボイルの勝利
146 黄昏の親子関係
145 子ども好き
144 言葉雑感(8)regift
143 言葉雑感(7)「ん」の音
142 アメリカの理想
141 ときめく日の足音
140 言葉雑感(6)ミルクとは
139 ミルクの教訓
138 年末の独り言
137 投票日日誌
136 あと3日
135 ペイリンから見えるアメリカ
134 訴訟顛末記(1)まず弁護士を
133 園遊会で
132 柔の姿勢
131 言葉雑感(5)4文字言葉
130 豪邸の住人
129 言葉雑感(4)カミはカミでも
128 言葉雑感(3)ブタ年生まれ
127 言葉雑感(2)子年のネズミ
126 言葉雑感(1)グローバルなピリピリ
125 やって来た山火事(最終回)これから
124 やって来た山火事(9)いとおしい木々
123 やって来た山火事(8)現実に直面して
122 やって来た山火事(7)焦燥の2日間
121 やって来た山火事(6)私の方舟
120 やって来た山火事(5)避難準備
119 やって来た山火事(4)止まない風
118 やって来た山火事(3)第1日目の夜
117 やって来た山火事(2)第1日目の夕方
116 やって来た山火事(1)第1日目の昼下がり
115 しあわせな1日
114 チェ
113 メキシコの息づかい
112 「石の家」
111 「バッキンガム宮殿」での晩餐会
110 ケーキ1切れ
109 「豊かさ」の中身
108 イタリアの修道僧
107 3年ぶりの日本
106 キューバ:アメリカの恥
105 キューバ:バラコア
104 キューバ:甘い歴史の苦い思い出
103 キューバ:2つの通貨
102 キューバ:近過ぎて遠い国
101 ホンジュラス(最終回)去る者,残る者
100 ホンジュラス(19)シエンプレ・ウニードス
99 ホンジュラス(18)ガリフナ放送
98 あと1年、だったら
97 無信仰者のクリスマス
96 ホンジュラス(17)ガリフナ
95 ホンジュラス(16)バナナ共和国
94 ホンジュラス(15)マヤ文明の跡
93 ホンジュラス(14)牢獄の中と外
92 ホンジュラス(13)先住民の女性たち
91 ホンジュラス(12)一番安全な町
90 ホンジュラス(11)オランチョの森(下)
89 ホンジュラス(10)オランチョの森(上)
88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
87 ホンジュラス(9)金鉱の陰で(下)
86 ホンジュラス(8)金鉱の陰で (中)
85 ホンジュラス(7)金鉱の陰で (上)
84 ホンジュラス(6)原則に沿って
83 ホンジュラス(5)農地のない農民
82 移民政争とラティノの力(続)
81 移民政争とラティノの力
80 ホンジュラス(4)消え去った人々
79 ホンジュラス(3)ホテル・ナンキンで
78 ホンジュラス(2)レンピーラ
77 ホンジュラス(1)行ってみよう
76 本物を見る
75 豊かな心
74 蝶の力
73 単刀直入
72 愛の表現
71 ベネット・バーガー
70 感謝の日
69 思わぬ道草(最終回)原点
68 思わぬ道草(19)回復に向けて
67 思わぬ道草(18)人は孤島にあらず
66 「ニューオーリーンズ」に見えたもの
65 思わぬ道草(17)一歩後退の教訓
64 思わぬ道草(16)日没症候群
63 甦生の兆し
62 ニューオーリーンズとクリスチャン
61 思わぬ道草(15)もつれた糸
60 思わぬ道草(14)彼の青い目(下)
59 思わぬ道草(13)彼の青い目(上)
58 思わぬ道草(12)ローマ鎧
57 思わぬ道草(11)看護師騒動
56 思わぬ道草(10)近くの他人
55 思わぬ道草(9)ロールバー
54 思わぬ道草(8)楽観の2日間
53 思わぬ道草(7)一人三脚
52 思わぬ道草(6)長い夜
51 思わぬ道草(5)OR
50 思わぬ道草(4)ER
49 思わぬ道草(3)常習犯
48 思わぬ道草(2)目撃者
47 思わぬ道草(1)3月14日の夕方
46 訛った英語
45 イギリスの英語
44 英語とアメリカ
43 海の中に(下)
42 海の中に(上)
41 姓というマーカー(下)
40 姓というマーカー(上)
39 国籍あれこれ:選択肢
38 国籍あれこれ:彼の場合
37 国籍あれこれ:私の場合
36 ボーダーとは
35 最終回:グローバリゼーション
34 番外編:クリスマス・ディナー
33 サンタアナの風
32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
30 アボカドと生きる鳥
29 カラスのご馳走
28 三つ子の魂
27 子宝のもと?
26 アボカド探検家
25 ゴールドラッシュの波紋(下)
24 ゴールドラッシュの波紋(上)
23 海を渡って(下)
22 海を渡って (上)
21 コンキスタドール
20 アボカド事始め
19 ハースマザーの行方
18 世界アボカド会議
17 フエルテ
16 ハースマザーの木(下)
15 ハースマザーの木(上)
14 鶏より馬
13 働く人々
12 花婿の父
11 シンコ・デ・マヨ
10 「奇跡の3月」
9 アボカド形の穴
8 父親不明
7 女性花・男性花
6 トーマスのギャンブル(2)
5 トーマスのギャンブル(1)
4 成熟と完熟
3 グァカモーレ
2 アボカドさまざま
1 メックスフライ
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 6 7 2 7
昨日の訪問者数0 4 0 6 3 本日の現在までの訪問者数0 1 2 4 2