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130 四神(しじん)
2014年1月22日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
古典落語に「百川(ももかわ)」という落語があります。実は落語が大好きな私がたいへん気に入っている作品のひとつです。「百川」とは、江戸時代、日本橋に実在した会席料理のお店の名前でして、そこで実際に起こったと言われている勘違いにもとづく珍騒動を落語にまとめたものです。なかなか面白い落語です。

その中にまず出て来るのが「四神剣(しじんけん)」という言葉です。「四神剣」とは、江戸の祭で使われた道具でして、正式には「四神旗(しじんき)」というのだそうです。これは東南西北の神を描いた旗(東は青竜、南は朱雀、西は白虎、北は玄武)でして、先端に剣がついているところから「四神剣」とも呼ばれました。上段の画像がそれです。

この落語では、田舎から出て来て「百川」に奉公し始めたばかりの百兵衛(ひゃくべえ)という気のきかない男が、客の魚河岸(当時、魚河岸は築地ではなく日本橋にありました)の若い連中が集まっているお座敷に注文を聞きに行った際に起きた勘違いが発端となっています。百兵衛の言葉のなまりが強いために、河岸の連中が、百兵衛が挨拶の際に言った、「主人家(しゅじんけ)の抱え人」という言葉を、「四神剣〔しじんけん〕の掛け合い人」と聞き違えてしまうのです。

毎年祭の後は、いくつかの町内が交替で翌年まで「四神剣」を保管することになっているのですが、前年、祭に際して派手に遊び過ぎた河岸の連中は、それをこっそり質入れしてしまい、祭の時期が近づいたので、そろそろ請け出さなければならないと相談しているお座敷だったのです。

落語はそれから大いなるドタバタが始まるのですが、ここではその「四神」について、ちょっとおしゃべりをしたいと思います。

「四神」とは古代中国の神話から由来している4つの守護獣のことです。それぞれに方角や季節等を象徴したり、守護したりするのですが、それらは以下の通りです。どなたでも、どこかでご覧になったことがあることと思います。

 四神     方位   四季   色   地勢

<青竜>    東    春    青   川・流水  

<朱雀>    南    夏    赤   海・湖沼

<白虎>    西    秋    白   道

<玄武>    北    冬    黒   山

青竜(せいりゅう) は、東方を担当する守護獣でして、その姿はまさに竜です。

白虎(びゃっこ)は、西方を担当する守護獣で、細長い体をした白い虎です。

朱雀(すざく)は、南方を担当する守護獣です。伝説上の神鳥で、鳳凰や不死鳥と同じと考えられています。

玄武(げんぶ)は、北方を担当する守護獣で、亀だけのこともあれば、尾に蛇が巻き付いた亀として描かれることもあります。

「四神」は、風水や陰陽五行説などで用いられる他に、1990年代以降、ホラーやカルト系のアニメやゲームなどが勢いを増してきたという傾向の中で、出番が大いに増えたようなのですが、私自身はそうしたものには興味がありませんし、決してよい傾向だとは思っていません。私の関心は、歴史の中で活躍している「四神」であったり、言葉の起源としての「四神」です。

下段の画像をご覧ください。ちょっとわかりにくいかと思いますが、京都(平安京)の地勢が、如何に「四神」に相応しているか(「四神相応」という言葉があるのだそうです)を表示した図なのです。「四神」が象徴する地勢をご覧ください。東に川、西に幹線道路、南に湖沼、北に山がありますね。

考えてみれば、「青春」、「朱夏」、「白秋」、「玄冬」などという言葉はもちろん、「玄界灘」とか、「竜虎相搏つ」なども皆、「四神」に由来しているのです。

そう言えば、相撲の世界では行司が「東西東西」と言いますが、北と南は出てきませんね。あれも実は「四神」がからんでいるのだそうです。

古代から君主は北に居て、南を向く(君主南面)のが礼儀とされています。ということは、君主に仕える者達は、北を向く(北面)ことになります。平安時代の歌人「西行」で有名になっている「北面の武士」は、君主に仕える警護の者達ですから、当然、北を向くことになります。「北面」の語源はそこにあります。

ですから、北と南は絶対的な主従関係を象徴しますので、争うとすればそれは、東西以外には許されません(少なくとも表面的には)。従って、対決は、東(青竜)と西(白虎)になります。竜虎対決とか東西対決はあっても、「四神」からは、南北対決や「朱雀・玄武対決」は生まれて来ないのです。それで相撲の行司さんは、「東西東西」と言うことになり、番付も東と西になるという次第です。

こうした表現は、注意して見るとけっこうたくさんあります。かつての大内裏(皇宮)の南にあった「朱雀門」や、朱雀門から都の南端、羅城門まで一直線に伸びる大通り「朱雀大路」なども、すべてこの「四神」に由来した名称です。

今回も私の書き込みの原点であります、「知らなくてもちっとも困らないけれど、知っていると人生をちょっと多く楽しめること」についてのおしゃべりでした。今日、たまたま大相撲初場所の様子をラジオで聞く機会があったものですから、書こうかなと思いついた次第です。
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