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2007年7月10日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
横須賀線のボックス席。4人掛けの席に他の乗客はおらず、僕は走り去る夜景をぼんやりみている。新橋で、以前勤めていた会社の同期生の集まりがあって、その帰りの車中である。しらじらとした蛍光灯の下で、自分だけがひとり世の中からぽつんと取り残されたような、穴倉で背中を丸めてうずくまっているような、妙な気持ちになっていた。

飲み会はなんとなく盛り上がらず、2次会もなく、気がつくと流れ解散になっていた。いつものように7人の同期が全員集まった。この晩集まった同期生たちは、揃ってひとがいいというか、他人の足を引っ張ってまで出世したいという欲望に欠けるというか、その分大出世した人間がいないかわりに、まとまりがよく、他の期にはないいい雰囲気があった。集合がかかると、たいていいつも全員が出てくる。

途中退社が僕ひとり、1人がすでに定年で数ヶ月前にご苦労さん会を開いた。その晩は続く2人の仲間の退職慰労会だった。残る3人も、いずれも秋から来春にかけて順次定年になる。

話題はどうしても退職金やら年金、社内の話ばかりで、僕にはどうもおもしろくない。それに定年になっても彼らは雇用延長で、週3回とはいえ、あと5年ほどの会社勤めが続く。組織のしがらみをなくしたもの同士のつきあいを楽しみにしていたのに、それもいましばらく実現しそうにない。

「世の中たいへんなのに、なんといっても親方日の丸。会社のおかげで助かる」というような話の進み具合になっていって、僕だけがどうしても話題から取り残される。同期とはいえ、僕と彼らの立ち位置の違いを意識させられざるを得ない。

会の終盤、「中山、いまになって、俺たちのことがうらやましいだろう」と言った仲間がいて、僕は一瞬返事に困り、「うらやましいとかなんとか・・・。自分で選んだ道だから・・・」とか、その場ではなんとか冷静に取り繕ったつもりだが、車中で1人になってから、怒りと悲しみと寂しさがない交ぜになった、わけの分からない感情がわきあがってきたのだ。

「会社を辞めたことを後悔してないか」という質問なら許せる。「当たり前じゃないか。後悔するわけがないだろう」と即座に返せる。しかし「うらやましくはないか」はないだろう。いったいなんと答えればいいのか。彼は僕にどんな答を期待したのか。「人はパンのみにて生きるに非ず」とでも答えるべきだったか。

××××××××

「しょうがない」は九州でよく使われる言葉だそうだ。「原爆はしょうがなかった」発言で辞任した例の久間前防衛相の仰せだが、僕自身九州出身者として断言するが、そんなことはない。彼は長崎県出身だから、もしかしたら、彼の「口癖」というのは、方言の「しょんなか」ではなかったか。

たしかに「しょんなかたい」「しょんなかろうもん」というのは、僕の出身地福岡でもよく耳にした。終わってしまったことを言っても詮ないこと、という意味では、標準語に直訳すればたしかに「仕方がない」「しようがない」ということになるのだが、では九州人がことさら「しょんなか」を日常生活のなかで連発するか、というとそんなことはないだろう。東京人が「仕方がないね」「しょうがないね」という頻度となんらかわりはないと思う。

原爆がらみの発言自体もさることながら、言葉の解釈の微妙さで逃げるところなど、まことに軽い人物といわざるを得ない。しょうがない人物である。

言葉は、時代背景やその場の状況、発する人間の立ち位置によって意味が微妙に、時としては大きく変化する。原爆被害者が「しょんなかたい」とつぶやけば、われわれはその言葉のなかに、あきらめまたは絶望、無常観または諦観、もしくは苦痛と苦悩のなかにあっても生きようとする人間のたくましさ、といった彼らのうめきや複雑な感情を感じ取るだろう。ことの当事者、つまり被害者が発する言葉は、とうぜんながら局外者が発する言葉より何倍も何十倍も重い。同じ「しょうがない」でも、その言葉のもつ意味と重さはその人間の立ち位置でおおいに違ってくる。

弱者をおもいやる言葉に欠ける閣僚など、辞任は当然、ほんらいなら罷免されてしかるべき話だ。
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