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かくてありけり
32 色再現
2005年1月1日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
昨年の12月初め、奈良・法隆寺の若草伽藍跡から出土した壁画片が斑鳩町教育委員会から発表されました。

 法隆寺はいまさら言うまでもなく聖徳太子が607年ごろ創建したと伝わる古い寺で、現存する伽藍は世界最古の木造建築として日本で初めて世界遺産に指定されました。しかし日本書紀には670年に焼失したと記されており、明治時代から再建、非再建の論争がありましたが、近年の調査研究では再建説が強くなっています。創建当初の法隆寺を、金堂などの遺構や飛鳥時代の瓦が出土した場所の名にちなんで若草伽藍と呼びます。
 
 若草伽藍跡で焼けた壁が見つかるのは初めてで、日本書紀の焼失の記述を裏付け、再建説を証明する資料です。そこで壁画が出土したのも初めてで、しかもこれまで最古とされた鳥取県の上淀廃寺のものを半世紀以上さかのぼる、国内最古の本格的な彩色壁画だそうです。

 たかだか数センチ四方の片々に薄く残る縞模様では、壁画全体にどんな絵柄が描かれていたか素人には窺い知ることはできませんが、期待感を込めて各紙大きく掲載しました。そのカラー写真を見比べて私はびっくり、思わず「こんなのありかなー」と首を傾げてしまいました。大阪市内版を見る限り、ほとんどの新聞が色をかなり強調していたのです。産経、朝日、毎日の順に色彩が濃くなっている。我が社と同じレベルは読売でした。

発掘ものの写真出稿には神経を使います。出土品は常に我々にとって既知のものではないからです。過去に何度も見て学習したものは、頭の中に色見本帳として記憶されており、随時それを引き出して、こうであろうと思われる色合いに調整して出稿します.
出土品にはそのやり方が当てはまらないのです。

 カメラのデジタル化や通信技術と機器の進歩で、現場からの写真送信は当たり前のことになりました。しかし微妙な色合いまでは受け手は分かりません。受けたデスクは「適当に」色を調整します。しかしそこに落とし穴があります。

 当日、壁画片の撮影に行った我が社のカメラマンは、写真を現場から送信するのではなく帰社してから画像処理担当に見てもらいながら綿密に色調整をしました。できるだけ見た目に近いものに仕上げて出稿するためです。読者はくっきりとした色合いの、鮮明な図柄を期待しがちです。常に紙面映えを念頭におく編集者も同じ志向になります。今回、現物は色合いが全体に淡いものでした。しかし、各社の編集者はこれでは一面を飾る写真としてはパンチが足りないと思ったのでしょうか、かなり彩度を上げてメリハリをつけました。その結果、実態からはずいぶんと隔たったものになりました。


 派手さのない淡い色でも、それがその壁画片の持つ色情報です。読者にとって初めて見るものは、できるだけ元の状態を再現して見せるのが報道する側の務めだと思います。色の操作は、結果的に読者をミスリードすることになります。
画像加工で模様をくっきりと浮き立たせることは、読者の理解を進める一助になるかもしれませんが、その場合は写真説明中に「画像処理で実際より色の彩度を上げています」と断り書きを入れるべきでしょう。後日開かれた一般向け説明会に行った人は、新聞で見たより淡い色にがっかりしたかもしれません。

 今回のことで思い出したのは1976年7月19日に米国NASAの無人探査機バイキング1号が火星に軟着陸し送ってきたカラー写真です。ベンガラ色の地表面は初めて見る風景であり、空の色もよく分かりませんでした。各社はどんな色に刷ったらよいのか戸惑い、問い合わせが殺到しました。印刷結果は随分ばらつきが出ました。

 壁画片を掲載した日の午後になって案の定、数社から色が薄いのではないかと問い合わせがありました。でもありのままに答えるしかありません。説明にいくらか迫力を欠いたとしたら、それは色再現が撮影者の記憶の範囲でしかできなかったことです。発掘ものを撮影するときは、できる限り画面の隅にスケールやカラーチャートを写し込むようにしています。読者に被写体の大きさを判断する材料を与えたり、新聞社の印刷担当者に色を判断する手がかりを与えるためです。しかし今回はそれが許可されず、実現しませんでした。発掘を担当した組織が広報活動に対してより前向きの姿勢を示してくれることを願うものです。
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