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ボーダーを越えて
165 ボリビア(6)パクーの登場
2010年10月17日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ パクー。その歯は人間のとそっくりでしょう?
▲ パクーが住んでいる池。
▲ 養魚場の説明をする中村さん。
大変ご無沙汰しました。日本の猛暑とは対照的に、カリフォルニアでは異常低温が続き、ときには寒いくらいの涼しさでした。夏らしくカラッと晴れて気温も揚がった日は合計1週間そこそこで、なんともラクな夏でした。そのため、という訳でもないのですが、今年の夏は次から次へと猛暑に襲われた東部や南部から来客続きで、慌ただしく過ごしてしまいました。 そうしたら、アラッ! もう10月も半ばを過ぎてしまって… うかうかしていると年が暮れてしまいそう… そうならないうちにボリビア報告を再開しなくては…

*** *** ***

5年間の空白の間にも、オキナワ移住地の様相は大して変わっておらず、特に賑やかになったという感じはありませんでした。でも、インターネットカフェの看板を掛けたお店が3軒もあるのにはびっくり。 夜になったらその近くで店開きするボリビア人の屋台には電気がなくて、いまだにロウソクで商売をしているくらいですから。

オキナワ移住地の中心には食堂が2軒ありますが、そのうち比嘉食堂は私が14年前にオキナワ移住地を初めて訪れたときからほとんど変わりがありませんでした。どう見ても安普請としか言えない古い小さな建物で、看板も掛かっていません。でも、以前は剥き出しのままだったテーブルにはテーブルクロスがかかっていて、置き方も少し変わっています。引退した比嘉夫妻から娘さん夫婦が受け継いで経営していることの表れでしょう。

比嘉食堂にはボリビア人のお客が多く、出す料理はボリビア人向け。ボリビア低地特有の食事は、というと、固い焼き肉、目玉焼き、茹でたカッサバ、油で炒めたご飯、薄切りのトマト1−2切れ、レタス1枚が盛り付けられたものと決まっていました。最初は珍しいと思って食べましたが、昼食も夕食も同じものしかなくて、それが2日も続くと、もううんざりしてきます。14年前のことですが、料理人兼経営者の節子夫人は特別行事のための注文で日本料理をよく作っておられましたが、毎日顔を出す私に同情されたのか、私を厨房に呼んで、食堂には出さない食事を作ってくださるようになり、そのまま滞在中はずっとお世話になったものです。

今回もオキナワ移住地に着くと、日ボ会長の中村さんが比嘉食堂へ連れて行ってくださいました。比嘉夫妻の姿はもう見られません。また固い焼き肉かな、と思っても、久しぶりなのでなつかしさがこみ上げてきます。ところが中村さんが、「魚がありますよ」と、おっしゃるではありませんか。魚ですって?
「あそこにパクー(Pacú)と書いてあるでしょう?」と、中村さんは壁に貼ってあるメニューを指差しました。
「あれがそうです。この辺で獲れる結構大きい川魚なんです」
まあ、それなら是非食べてみなければ、と早速パクーを注文しました。

日本で川魚というと、小さいものしかありませんが、ボリビアの大地に生きるバクーはとにかく大物です。大きいので2つに切り、1匹で2人分。空揚げにされた頭の方が私の前に置かれました。少し開いた口にはまるで人間の歯のような立派な歯が並んでいて、少々怖い感じがします。でも、ピラニアなんかと違って草食だそうで、(人間も含めて)動物に食いつくなんていうことはしないと聞いてホッとしました。味はスズキのようで、もっと身が締まっています。とってもおいしくて、私はパクーをパクパク食べました。

中村さんはそんな私を満足そうに眺めて、「気に入りましたか?」と聞きます。
「とっても!」
「この魚、いま養殖しているんですよ」
「ヘェー、誰が?」
「私が」
まぁ… そんなことを始めから言わない中村さんはなんと奥ゆかしいこと。これは少々押してでもお願いしないと見過ごしてしまいそうなので、パクーの養魚場を是非見せてくださいと中村さんにお願いしました。「いいですよ」とあっさり承知してくださって、後日案内していただきました。

オキナワ移住地は集団入植が進むにつれて、第1、第2、第3と南に向かって拡大されていき、総面積は東京都23区より広いのです。南北に走る道路が3カ所を繋げていますが、その道路はいまだに舗装されていなくて、乾季の間は車が通るたびに前方が見えなくなるほど大変な埃が舞い上がり、雨が降れば降ったで大変なぬかるみになります。中村さんは第3に住んでおられるのですが、日ボ協会の事務所のある第1まで通うのは大変。通勤時間は片道1時間だそうです。

この道路の舗装はオキナワの住民の念願で、日ボ協会は長年、日本政府に道路舗装の援助を請願して来ました。道路が舗装されれば、第1にあるオキナワ移住地の中心からサンタクルス市へ抜けられ、距離がぐっと縮んでその恩典は多大なものです。第3移住地は雨が最も少なく、土壌の質もあまりよくなくて、営農は大変で離脱者を多く出し、人口も少なくて閑散とした感じがしますが、道路が舗装されれば、第3移住地はサンタクルス市に一番近くなり、急速に発展して行く可能性を秘めているのです。もしかしたら、それが実現するかもしれないという話が出ているとか。

でも中村さんはそんなことは当てにせず、淡々と我が道を行くという風情です。夏はお米、冬は小麦を植え、羊や牛も飼っていて、パクーの養殖を始めたのは4年前だそうです。
「何匹ぐらいいるんですか」
「さぁ、はっきりした数字はわからんですが、10万匹ぐらいですな」
鯉の養殖もやってみたところ、「あれは中国人しか買わんですよ」ということで、パクー1本に絞っているとか。
「パクーの養殖は老人にいいですよ。毎日世話をせんでもいいし、自分で大きくなってくれますから。私の老齢年金のようなものです」
如何にラクかということを中村さんは盛んに強調します。欲のない方なのですね。

冷たい風の吹く灰色の空の下に、パクーの住む長方形の池がたくさん続いています。パクーは底の方にいるのでしょう、その姿は全く見えません。中村さんが何匹いるのかわからないというのも無理ないと思いました。パクーは池の幅の網の両端を持って水揚げしますが、水揚げしたものはすべて売り切ってしまうそうです。
「サンタクルスのレストランから定期的に卸してくれという注文があったんですが、断りました。需要に追いついて行けないんですよ」

いまのところ、ボリビア人はパクーの養殖はやっていないようですが、中村さんの成功をみて、自分もやろうという人がいずれ必ず出て来るでしょう。日系人が育てた果実はボリビア人農民が真似をして作るようになるということが繰り返されて来たのですから。それでもいいのではないかと思います。パクーがもっとどんどん市場に出回ると、ボリビア人は牛肉より魚の方をもっとたくさん食べるようになるでしょうから。そうしたら固い牛肉など食べるのを止めて、ボリビア人の食生活はもっと改善されるでしょう。
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