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ボーダーを越えて
166 ボリビア(7)ボリビアで和菓子を
2010年11月10日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ ボリビアの栗まんじゅう。
▲ 和菓子作りのベテラン、米倉艶子さん。
▲ ボリビアのサトウキビからできた黒砂糖を使ったお饅頭。
私は和菓子が大好き。特に小豆のお菓子が好きで、京都の鶴屋吉信の看板商品「京観世」は絶品! どんなにステキなフランスケーキも及ばないと思います。

次にすばらしい(と思う)のは、かのこ(鹿の子)。以前、新宿伊勢丹の地下で管理人さんたちと寄った虎屋で、季節がらアジサイの花のように作られたかのこを選んだのですが、味覚も視覚もやさしく刺激するすばらしいものでした。

純粋な和菓子でなくても、おいしいものはおいしい、という物の代表は仙台の「支倉焼」でしょう。バターと胡桃と白あんの風味が見事に調和した超一級品だと思います。

いえ、高級なものでなくてもいいんです。もっと庶民的などら焼きや大福やあんパンも私は最高に好きで、それを食べるとしあわせな気分になってしまうんですから、私は単純なんですね。そういうものはサンディエゴでも日本食品専門のスーパーマーケットで買えますし、日系あるいは韓国系のベーカリーでは焼きたてのあんパンを売っていて、私はひそかに(つまり、連れ合いとは分かち合わずにひとりで欲張って)しあわせ気分をときどき味わったりしています。

そんな私のお気に入りのものがボリビアの日本人移住地にもあるということを知ったのは、1999年にサンファンに1週間ほど滞在したときでした。それはサンファン製どら焼きとの出会いだったともいえます。そのどら焼きを作ったのが米倉艶子さんでした。1度に千個ぐらい作るそうで、それが楽しいと聞いて、艶子さんのお菓子作りに対する情熱に私は圧倒されてしまいそうでした。多いときは40〜50キロぐらいのあんこを作って、1日中立って仕上げたそうです。3日ほども寝ずに作って、出来上がったお菓子を箱に詰めるときはとってもうれしくて「楽しいです。私の生き甲斐!」と語った艶子さんの顔は生き生きしていました。おいしいお菓子を作ることは、だれをもうれしい気分で包み込もうという艶子さんの人生態度の表れなのです。

私が、和菓子は大好きだけれど作るのは手間がかかって大変、と艶子さんに白状すると、「そこがいいんです」と釘を刺されてしまいました。ここ数年はスローフードのすばらしさや自家菜園での野菜を調理する楽しみを感じていますので、艶子さんのその言葉に共感しては実践していますが、当時は簡単においしくできる料理を求めていたのですから、本当に恥ずかしい。

南米の日系青年には日本での研修がよく提供されますが、艶子さんは22歳のときに長崎でお菓子作りの研修を受けたのでした。両親がボリビアのサンファン移住地に入植したものの、艶子さんは12歳のときに母親を亡くし、父親は病気がちで、5人兄弟の2番目の艶子さんは家の仕事ばかりしていたところ、手に技術を身に付けるようにとお兄さんが日本に送り出してくれたのだそうです。

長崎県での研修は本当に楽しかった、と艶子さんはいまだに目を輝かせます。まずカステラ、そしてどら焼きの作り方を学び、それから各種ケーキやさまざまな和菓子の作り方を学んでいきました。帰国後は本格的にお菓子作りに励み続け、サンファンの女性にも教え、中には作ったお菓子を売るほどに上達した人もいるそうです。

ウェディングケーキやバースデーケーキを作りますが、サンファン移住地では法事の引き出物や長寿のお祝いなど、和菓子の注文の方が多いそうです。自分の結婚式の引き出物としての和菓子も自分で作ったそうです。

と聞くと、ただもう楽しい一方だったかのように思えますが、当時の移住地でお菓子作りをするのは至難の業だったに違いありません。というのは、移住地では長い間電気がなかったからです。結婚前1年ぐらいのときに、移住地の中心付近にやっと電気が入りました。でも、結婚後2年ほどして、移住地の中心から30km離れた所にある夫の耕作地の近くに移り住み、再び電気のない生活となり、発電機を使ってお菓子作りをしたそうです。自費で引いた電気が長女が生まれる1週間前にやっと完成したとか。

でも、艶子さんからは苦労の一端も感じられません。いつも前向きなのです。夢は和菓子中心の喫茶店を開くこと。小さな誕生日パーティーができるくらいのこじんまりしたお店を考えていると言っていました、そして、自分の跡取りを育てないといけないとも考えていました。「やるんだったら、息子かな。食べるのが好きだから」とも。

当時息子は10歳。娘は13歳の長女を頭に3人いて、名前はカリーナ、セリカ、カローラ。夫が結婚前にラパスのトヨタ・ボリビアに勤めていたので、全部トヨタ自動車の名前です。

それから11年。その間2度私はちょっとだけサンファン移住地を訪れましたが、艶子さんを訪ねる時間がありませんでした。そして今年の5月、再会を楽しみにしていてくれた艶子さんと旧交を温める機会にやっと恵まれたのです。

艶子さんはようやく夢実現への着実な第1歩を踏み出そうとしていました。1度は航空会社に立派に就職した長女が、艶子さんの後を継ぎたいと、航空会社を辞めて艶子さんと一緒にお菓子作りに励むようになったのです。そして、エボ・モラレス大統領就任後、危ぶまれていた日系移住地の将来も安心できるとわかり、艶子さんは喫茶店の開店に踏み切ることにしたのです。

現地ボリビア人女性2人と長女のカリーナさんといっしょに栗饅頭と黒砂糖饅頭に精出す艶子さんは、お菓子作りに対する情熱にあふれているのはいつも通りですが、静かな充足感にも満ちているように私には感じられました。

この次にサンファン移住地を訪れるときは、艶子さんの喫茶店で和菓子を食べながらお茶を飲めると思うと、それだけで楽しくなってきます。南米のど真ん中にあるボリビアの農業地帯で、そんなすてきなことができるなんて、だれが想像したでしょう?

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