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僕の偏見紀行
199 ネパール出会い旅(8)祭りの夜
2016年2月26日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ポカラのお祭りで踊る子供達。夜にかけて見物人が増え、次第に盛り上がっていった。
▲ ポカラの街を巡りながらお菓子をもらう子供達
▲ チベット民芸品店で買った家内お気に入りの香水ビンとネコ。
ポカラへ戻ると街はティハール祭り一色となっていた。通りのあちこちに人だかりが出来、音楽に合わせ楽しげに踊る人で賑わっていた。

可愛い少女たちのグループがおそろいの民族衣装で軽やかに舞っている。男女のペアは、二人の愛を物語るかのようにあでやかに舞い踊る。みんなひとしきり踊ると次のグループと交替し、その場は絶えること無く踊りが続く。

踊りの場は至る所に設けられ、裏通りの路地にもあった。明日が祭りの最終日、人々の熱気は盛り上がる一方だった。僕らはあさってカトマンズへ戻る、僕らのポカラ最終日が祭りの最終日と重なった。

僕らがネパールに入国してもう1週間以上が過ぎた。いろいろと予想外の出来事が続き、僕らも年なんだろう、いつもの旅より疲れを感じる。そのせいか家内が風邪っぽくて下痢気味という。元来はタフな人だが、今回はちょっと違うようだ。いつもと異なる環境と食事、これが少々厳しかったのだろう。

ネパールの食事は油を多く使用し、香辛料がきつい。徹底的に火を通すため、ステーキ類はがりがりに仕上がっている。そんな食事が1週間も続くとちょっと辛い。

便秘症の僕はたまの下痢などウエルカムなのだが、水牛のがりがりステーキはさすがに胃袋にこたえる。幸い家内は熱も腹痛も無いので、食事を控えめにし、ゆっくり休養をとればいいだろう。そこで今日明日は休養日とし、遠出をしないことにした。

本日のランチは胃にやさしいものを僕が買いに行き、ホテルゆっくり食べることにした。ホテル近くにジュースとサンドイッチの店があったので入ってみた。ここはポカラに着いたときから気付いていたが、小洒落た造りがなんとなく気に入らず今まで立ち寄ることはなかった。

中に入り店番の若者にサンドイッチのテイクアウトを頼んだ。若者は素早くオーダーを奥のキッチンに伝えたが、なかなか出てこない。たかがサンドイッチなのにと思うが待つしかない。

ふと見るとカウンター奥のショーケースにスイカが入っている。こんなところでスイカに出会えるとは、興奮した僕はいささか焦りながら若者に、このスイカはどうするのか尋ねた。するとフレッシュジュースにするという。

本当はそのままかぶりつきたがったけど、ジュースでもいいか、こんなネパールの田舎でスイカがあるだけでも幸せだ。
早速オーダーすると若者は手際よくスイカジュースを作ってくれた。

思いがけない久しぶりのスイカは感動するほどうまかった。久しぶりの冷たいスイカの香りと心地いい甘みが僕の身体を駆け巡る。なんでもっと早くここに来なかったのだろう、僕は大いに悔やんだ。もう明後日にはポカラを発つというのに。しょうがない明日もまたここに来てスイカジュースを飲もう。

ジュースを飲んで待つうちにサンドイッチが出来上がった。見ると随分丁寧に包装してある。どうりで時間がかかるはずだ。僕はサンドイッチの包みと追加でオーダーしたスイカジュースのカップを抱えて家内の待つホテルへ戻った。サンドイッチも美味しくて家内も喜んでくれた。

勿論次の日もこのジュース屋へ行った。2日も続けて行ったので歓迎された。ジュースを飲んでいると、店の奥から店長らしい青年が現れ僕に話しかけた。僕が日本から来たというと、彼の知り合いが日本で働いているという。ネパール料理の店をやっているらしい。そのせいか日本には親近感があるようだ。

世間話をしていると話題が石油不足の問題になった。彼は溜まっていた憤懣をぶちまけるように政府の無策を嘆いた。これは明らかに政治問題なのに、政府の対応が遅すぎる、レストランやホテルの業務にも支障が出て死活問題だという。

最終日はポカラの街全体が熱気に包まれた。人々はあちこちで踊りを楽しみ、子供達は家々をまわってお菓子をねだる。なじみのランドリーが休みになったのには困ったが、大事なお祭りだから仕方ない。

我がホテルの、あの仕事熱心なマネージャーまでもが午後から休みをとるらしい。実家に集る一族とお祭りのご馳走を食べるのだ。宗教が生活の中心にある人々にとってそのお祭りは何より重要なことなのだ。

最終日の午後、僕らはホテル近くを散歩することにした。ちょっと気になる店があったのだ。ホテル裏手の路地に下駄履きアパート風のビルがあって、その1階部分は小さな店が並ぶ商店街となっていた。

周りから独立したかのような小さな商店街、何を売っているのだろう。店をのぞくと伝統工芸の雑貨類・骨董品などが狭い店内一杯に並んでいる。よく見るとチベット伝統工芸品のようだ。そういえば商店街の一番奥にはチベット料理の看板が見えている。ここはチベット難民の人達の商店街、そしてビルの上が住まいのようだ。

ある店の小さな香水ビンを家内が気に入ったので値段を尋ねる。1300ルピーという。全ての商品に値札なんか無いので交渉するしかない。店の老女と散々やり取りしたあげく500になった。ところがいざカネを払う段になると、平気で1000だと言い出した。500じゃないなら買わない、と店を出ようとしたら500になった。(1ルピーは1円ちょっとくらい)

次の店では可愛いネコの置物があったので家内はすぐに手に取った。ここでも再び値段交渉、店のオジサンが3500ルピーというのをなんとか1000にしてもらった。ここでは支払い時に値上がりすることはなかった。なかなかできのいいネコでこれはちょっと値切りすぎたかもしれない。

ところで僕らのポカラ最後の夕食は何にしようか、一旦ホテルに戻った僕らは考えた。迷った末に韓国料理にした。とにかくご飯が食べたかった。家内の食欲も戻りつつあったので白いご飯にあまり辛くないスープなどいいかもしれない。

そう思いながらホテルを出ようとしたら、フロントはかの実直青年ひとりだけだった。他のメンバーはお祭りで楽しんでいるというのに。彼はフロントからレストラン、そして夜の当直までこなす働き者、祭りの夜にひとりで当直とは気の毒に。今夜もひとり?そう尋ねると彼は、相棒と途中で交代するけどそれまではひとり、といった。

めぼしをつけた韓国料理店に入ると、東洋系の若い女性がいたので、アンニョンハセヨ、とこれしか知らない韓国語で挨拶した。すると彼女はちょっと恥ずかしげに、私はネパール人です、という。

そこで僕も、我々は日本から来た、と言うと彼女は驚いていた。彼女は彼女で僕らを韓国人と思ったようだ。ネパール産の韓国料理は予想以上に美味しかった。念願通り白いご飯とキムチを食べることが出来て僕らは幸せな気分になった。

帰る途中、当直の青年へのお土産に酒屋でビールを買った。通りを歩いていると、バイクとすれ違いざま、後部座席に跨る若い男が僕らに向かって大声で叫んだ。見るとホテルのマネージャーだ。昼間の謹厳実直風の青年から想像もつかない、若さを謳歌する若者に戻っていた。祭りを心底楽しんでいる彼を見て僕らも楽しくなった。

ホテルに戻り青年にビールを渡すととても喜んでくれた。そして何度もこれは私にくれたのか、マネージャーにはいわなくていいのか、と念を押すのだった。律儀な青年だ。

ところで明日のイエティ航空は飛ぶのだろうか。最終結論の連絡が、カトマンズのタマンさんから夕方に端入るはずだったが、未だないままだ。彼もお祭りで会社は休みのはずだ。家族でごちそうでも食べているのだろう。

彼に悪いと思ったがこちらから電話した。すると未だ結論がでておらず最終決定は明朝になるという。もし飛ぶなら早い時間に空港に行かねばならない。タクシーなら9時出発だ。朝起きてバタバタするのが嫌いな僕は、イエティ航空を諦めることにした。

僕はタマンさんに、タクシーで戻ることに決めたから、明朝9時にホテルまでタクシーを手配をするよう頼んだ。時間はかかるけど車でノンビリ帰るのも悪くない。来る時のビュッフェランチも美味しかったし。

祭りの喧騒は夜更けまで続いた。ホテルの部屋まで響く音楽と歌声。すぐ近くの裏通りにも踊りの輪がやって来た。今夜は眠れないかも、そんな心配もしたが、夜10時を過ぎると騒ぎはいつのまにか消えていた。そういえばホテルのマネージャーがいっていた。お祭りは夜の10時まで。(続く)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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