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かくてありけり
34 高所作業車
2005年5月8日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
▲ 尼崎のJR電車脱線現場を高所作業車から取材するテレビ各局のカメラマン=4月29日
▲ 高所作業車で恐怖感を抱かないコツは足元を見ないこと、はるか前方を見ることだ=4月29日
下世話なことわざに「○○○と煙は高いところに上がりたがる」というのがある。○○○には「カラス」や「こども」が入るが、時には「馬鹿」が来ることもある。同僚が怒るのはそこに「カメラマン」を当てはめる人がいることだ。それを聞いても私は気にしない。よりよいアングルを求めて高いところも厭わぬ報道カメラマンへの讃辞と受け止めているからだ。

そんなカメラマンたちが打ち込んだのが4月25日朝に起きた尼崎のJR脱線事故の取材であった。テレビ中継された現場の映像を見てびっくりした。脱線車両が沿線のマンションに激突し壁面に沿ってプレスされたように「く」の字形にへばりついている。単独事故なのに、これまでにはない複雑さを示していた。さらに先頭車両が1階の駐車場に突入していることが判明したときは一体何が起きたのかと首をかしげた。死者107人、国鉄がJRに移行して以来最大の惨事であった。

現場に展開したカメラマンは線路沿いの道路と空き地に特大脚立を立て取材していた。しかし暗くなるにつれ、次第に焦り始めた。現場周辺は青いシートで遮へいされた。周辺のマンションに上げてもらっていたカメラマンも夜になって締め出されるのが相次いだ。先頭車両に4名の生存者確認という情報が伝えられたのに、このままでは救出場面を撮れない。先頭車両が潜り込んでいるマンション1階の駐車場を見通せる取材ポジションが欲しい。

 そんな中、各テレビ局は早い段階から高所作業車を配置して生中継をしていた。それにならって、わが社も導入を決めた。私の35年間の写真部生活でも初めての経験だ。費用がいくらかかるか知らないので、ためらいが先に立つ。しかし背に腹は代えられない。レンタル業者を探し出し、オペレーター付きで配置を依頼した。同時に別の部員を現地に派遣し設置場所の確保に当たらせた。設置が完了したのは夜も遅くなってからだった。これで深夜から翌朝にかけて3人の生存者の救出場面を写真に納めることができた。1日10万円は掛かるが、ヘリに較べたらコストパフォーマンスははるかに良い。

 高所作業車の採用は新聞・通信各社にとってコロンブスの卵といってよい。それにしてもテレビ各社が早くから導入していたのに、新聞・通信各社はなぜこれまで踏み切らなかったのだろうか?
 同じビジュアル取材でも、新聞カメラマンはいろいろの課題を個人レベルで解決する。一人一人自己完結することが求められる。一方、テレビは取材クルーのほかに中継や現場設営など幾つかの専門チームが分業で動き全体が完結する。その違いが出たのではないかと思う。新聞カメラマンが1人で高所作業車を借り上げるという発想はなかなか出てこない。大掛かりな仕掛けはテレビだからできることで、新聞には手が届かないことと諦めていたのではないか。

 テレビ局はドラマ制作や中継などを日常的にやっているので、大きな仕掛けの手配や設置はお手の物だ。蓄積されたノウハウと豊富な裏方さんを動員し、事件・事故現場であっという間に取材台を構築する。今回のようなクレーン式高所作業車の手配など朝飯前のことだったろう。テレビ局にはかっての映画会社の人材や技術が色々なところで引き継がれているようだ。

 連休の初日の4月29日、現地に行き高所作業車に乗ってみた。4トントラックの車体に4段伸縮式ブームのクレーン。その先端に机一面ほどの作業台が付いている。四方をパイプフレームの柵で囲ってあるが、風は吹き抜ける。最高26メートルまで上るとなるほど見晴らしは良い。しかし風が吹くとユラユラ揺れる。高所恐怖症の人には無理だろうなと思った。真下を見ると足がすくむので、はるか前方を見ることだ。三脚に据えた望遠レンズ付きカメラで被写体を追い続けることだ。カメラマンはファインダーをのぞいていると、恐怖感が薄れる。

 発生当日は6台だった高所作業車がこの日までに11台に増えていて、テレビ局だけでなく新聞各社も導入したことが分かった。線路沿いの狭い空き地にクレーンが林立する様をAPが撮影し海外に配信した。外国ではどんな風に受け止められるのだろうか?
 
 発生から2週間目、事故線路の取り外しが完了したのを機に、わが社は高所作業車を撤収した。利用のノウハウが分かったことで、今後、出番が多くなる予感がする。
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