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葉山日記
92 HANG IN THERE
2008年1月1日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
どんなに時間がなくても、年賀状には必ず肉筆でひと言添え書きをするよう心がけている。書くことが浮かばない、というひともたまにはいるが、今年からそういう方には年賀状を出すこと自体をやめた。

裏表とも印刷、添え書きのない年賀状ほど味けないものはない。自分が味けなく感じることは、他人さまに対してもやめよう。おりしも、昨年秋からの「身辺荷物大整理作戦」で名刺もあらかた処分。で、会社や職場あての年賀状も今年から思い切って原則廃止した。

一部の親しい友人には、次のような1行を添えた。

「良き友、良き家族、良き自然に助けられ、ようやくスランプ脱出。さて、今年は・・・」

ここ4、5年、人生最悪・最長のスランプが続いた。目標があると、猪突猛進、一点突破、行け行けどんどん、行動力、実行力ではだれにも負けない、という自信があるのだが、先が見えなくなるとたちどころにパワーダウン、なにもする気が起きなくなり、冬眠状態にはいってしまうのが、僕の欠点。思えば、このエッセイを書き始めた頃、僕の「欝」は始まっていて、バックナンバーを読むとそれがよくわかる。ときおり元気そうに見えるエッセイもあるが、うそがつけない性格だから、それが空元気だということが透けてみえる。

そういうスランプ状態からようやく脱出したようだ。脱出のきっかけは庭仕事。昨年秋に、今の家に引っ越してきて、荷物整理と並行して、庭の8本のカイヅカイブキの大木を切り倒した。大家さんが「これを伐採するとだいぶ日当たりがよくなるんだけど。職人さんに頼んだらそうとう費用がかかりそうだし・・・」と言うのは聞いていたが、「元気ならやるんですがね。今はどうもその気力がありません」というのが、そのときの僕の返事だった。

ところが秋の青空と、その空を優雅に舞うトンビの姿を見ていて、とつぜん「その気」が噴き出してきた。太さ30センチ以上の根元をチェーンソーで、太枝をノコギリで、細枝と葉を植木バサミで切る。来る日も、来る日もただ黙々と作業を続けた。娘(義理)は「大家さんがお父さんに頼んだんでしょう。頼まれたんだったらお金をもらうべきです」と言うのを、「楽しいからやっているの」と無視して、ただひたすら木と格闘した。この間、指をノコギリで切って6針縫う怪我をした。「ばね指」になって、指が曲がったまま動かなくなった。それでも木々との格闘が続いた。

そんなある日、心の中から迷いが消えている自分を発見した。「ランニング・ハイ」ならぬ、「ネーチャー・ハイ」というか、カイヅカイブキの葉の山のなかに座り込み、木の香りに包まれて、世間から隔絶された天国にいる自分を発見したのだ。

「そうか、そうだったのか。なぜこんな簡単な答にきづかなかったのか」というのが正直な思いだ。ジャーナリストもビジネスマンも、しょせん僕には似合わない仕事だったのかも知れない。その似合わない仕事を続けているうちに、意識しないなにか毒のようなものが、体内に蓄積されていたのだ。自然のなかで、その「毒」がやっと抜け出た、そんな思いがした。

息子一家との同居生活も1年と数ヶ月になった。同居にもメリット、デメリット相半ばするものがある。孫も3歳10ヶ月になった。かわいい盛りだが、一方、「孫は来てよし、帰ってよし」もなかなか含蓄のあることばだと思う。一時はあわや同居解消か、という危機もあった。この危機を回避できたのは、娘と妻の言葉だった。

「正直に言ってごらん。君たちはほんとうに僕らと一緒に住みたいの」と聞く僕に、娘が答えた。「お父さんの作ってくれる料理はおいしいし・・・。それに子供にとってもおじいちゃん、おばあちゃんと一緒の生活は教育上とてもいいことだと思います」。うーむ、殺し文句だね。

決定的なのは妻の言葉。「最近のあなたはちっとも楽しくない。不満やぐちばかり言って、大きい声でどなってばかりで。一緒に住むことが子供たちにとっても、私たちにとっても、いちばんいいことなの。大人の判断をしてください。あなたが子供と一緒に住まないというなら、私は子供たちについていきます」。ええっー、そんなあ。ということで、家族のおかげで、男一人の哀れな老後生活はからくも回避されたのである。

HANG IN THERE。日本語に訳すと「がんばれ」ということになるのだが、ニュアンスは少し異なるようだ。日本語の「がんばれ」はだれそれ、どこそこ状況構わず安易に使ってしまう傾向がある。もう10年以上も前、在米期間の長い友人(ルイジアナ州在住)に、英語では「がんばれ」をなんと言うのだろう、と尋ねたことがあった。そのとき教えてくれたのが、HANG IN THEREで、それ以来、それこそだれそれ、どこそこかまわず、「がんばっている」アメリカ人をみると、声をかけたものだ。

だが、たとえばジョギングしているアメリカ人に、この言葉をかけると、一瞬「う?」という顔をしてこちらを向き、それから「あー、君のいいたいことは分かった。ありがとう」という反応をするのに気がついた。それいらい、HANG IN THEREをむやみに使わないようにしていたのだが、やはりアメリカ生活の長い親友(カリフォルニア州在住)から、昨年6月にカードをもらって、初めてそのニュアンスが分かった。

今は苦しいだろうけど、落ちないでしがみついていなさい。がまんしていれば、きっとそのうちいいことがありますよ(things will get better soon!)。つまり、相手が「本当に」かなりしんどい、きびしい状況にあるときだけ、そしてがんばれば「再生」の可能性があるときにだけ、に励ましの意味で使う言葉だったのだ。ランニング・ハイの幸福感に浸っている、ジョギングの男性が「?」という反応を見せたことはこれで理解できた。

それにしても…。自分がHANG IN THEREということばを必要としている、まさにその時に、さりげなくこんなカードを見つけ出して励ましてくれる友人の存在が、僕の最大の財産なのだ、と改めて思う。ここ数年は何も生み出せなかった僕だが、つらい時期に僕のことを信じて見守ってくれてくれた友は、この他にも両手の数ぐらいいる。

友、家族、自然にあらためて感謝である。
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