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僕の偏見紀行
201 ネパール出会い旅(10)旅の終わりのカトマンズ(上)
2016年3月8日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ パシュパティナート寺院そばの火葬場。
▲ 同じく火葬場、上の写真より上流側。左下、金色の布に包まれた遺体を運ぶ人々。
▲ 寺院前の広場。正面奥が入り口の門。
偶然出合った兵士に教えられた道を進むと、いきなりそれは現れた。パシュパティナート寺院の脇を抜け、少し坂道を降ると川にぶつかる。その川岸が火葬場だった。川沿いに並ぶ石造りの祭壇(といっていいのか分からないが)の上で布に包まれた遺体が煙をあげている。

その遺灰はガンジスの支流、この聖なるバグマティ川に魂の永遠を求めて流される。輪廻転生を信じるヒンドゥーの人々は墓を造らない。

聖なる川といっても川幅はせいぜい20mくらい、乾期で流れは少なく、火葬場前の川の中で子供たちが水遊びに興じている。高くなった川岸の道路を観光客が行き交い、川にかかる橋の上にはカメラを構えた人観光客がが集っている。

明るい日差しの下、衆人環視の中行なわれる火葬、ガイドブックで知ってはいたが、こんな明るい光景とは思わなかった。一体どう受け止めたらいいのか、しばらくボンヤリと見つめるしかなかった。

日本的感覚では、どちらかといえば死は忌むべきもの、直視することを避け、非日常の世界に切り離しておきたいものだ。かつては葬儀の参列者は帰り際に「清めの塩」が渡され、自宅に入る前にこの塩で身を清めた。

サイレンを鳴らして救急車が寺院脇の坂を降りてきた。後ろのドアを開け、男達が金色の布に包まれた遺体を運び出す。親族の男達に担がれ遺体は火葬場の祭壇へ運ばれた。ここの火葬は全て親族自身で執り行なっている。

日本では人が亡くなると、葬儀・火葬などの一切がプロの業者の手で手際よく進められ、遺族は傍観者となってしまう。そして遺体は花で飾られたお棺に納められ、大掛かりな火葬場の巨大な焼却装置で火葬される。そこはまるで徹底的に磨き上げられた清潔な食品工場のようだ。

世界はつくづく広いと思う。歴史と宗教によって、葬送のかたちは様々だ。外部から見てとんでもないことに見えても、その国の人々にとっては守るべき伝統文化なのだ。このように異なる文化に出会えるのも旅の楽しみのひとつだ。

異なる文化にぶつかった時、その良し悪しをあれこれ議論するのは虚しいことだ。ただ僕には、日本のやり方は、できるだけ「死」を遠ざけ、それから目をそらしていたい、という思いが見える気がする。勿論僕自身もそんな日本人なのだが。

僕が今回一番見たかったのが、このネパール最大のヒンドゥー教寺院、パシュパティナートだ。実際訪れてみて大きな衝撃を受けた。そして世界には「見るべきほどのもの」が未だたくさんあるものだ、そう感じた。

今朝は迎えに来たタクシーでまっすぐパシュパティナートを目指した。寺院前の通りで車を降りるとそこは人で溢れていた。ドライバーと落ち合う場所と時刻を決め、寺院に向かった。寺院前の広場には参拝者や外国の観光客でごった返していた。

境内に入ると、人ごみの中をイヌやヤギがうろつき、かたわらではサルが鋭い目つきで人間をにらんでいた。やがて行く手に巨大な楼門が見えて来た。近づくと、様々な禁止事項が書かれた警告板が見えた。ガイドブックにも異教徒は寺院内に立ち入ることはできないとあった。門前ではこん棒を手にした屈強の守衛たちが眼光鋭く観光客を睨んでいる。

彼らは、いずれも兵士のようだが、無帽で剃り上げたイガグリ頭、足元はゴムサンダルというちょっと変わったスタイルだ。彼らは信者らしい人々にもうるさくいいながら入場整理をしており、とても異教徒が近寄れる雰囲気ではない。

僕は遠く離れてカメラを構え、なんとか楼門のあたりを一枚撮ったが、門内に見えるのは金色に輝くシヴァ神の乗り物、ナディ(牡牛)像、のお尻だけだった。

楼門から火葬場を向かった。ガイドブックにはすぐそばと書いてあるが、なかなかたどり着けない。境内を歩いていると人影の少ない一角にでた。周りを柵で囲まれた、芝生の庭と校舎らしい建物が見えている。

何だろう、と覗いていたら一人の若い兵士が現れ、何か用か、と鋭い目つきで僕に問う。少々あわてながら、火葬場を探している、と応えた。どこから来たのかと尋ねるので日本と応える。すると彼の表情が少し緩んだ。

我々は仏教徒だが、ヒンドゥー教にも関心があると、僕は彼に言った。すると彼は柵に近寄り、ヒンドゥー教と仏教はとても近い存在だ、自分は仏教をよく知っている、という。

僕は、ヒンドゥーの教えに基き信心深い生活を営むネパールの人々を尊敬している、と日頃考えていたことを彼に伝えた。難しい話をどれほど伝えられたか分からないが、彼は僕の話を嬉しそうに聞いてくれた。

互いに不自由な言葉の短いやりとりだったが、兵士と外国人観光客から、普通の庶民同士というかたちで触れ合うことが出来て僕は嬉しかった。最後に火葬場への道を彼に教えてもらい僕らはその場を後にした。

火葬場から僕らはイエティ航空の本社へ向かった。街の中心から少し離れた大通り沿いの、そんなに大きくはないが瀟洒なビルに本社はあった。受付でクリスティさんにお会いしたいと告げ、事務所内へ入った。

内部は少し薄暗く、廊下の片隅にダンボールの空き箱などが無造作に積まれていた。部屋をいくつか過ぎたところに彼女のオフィスがあった。会ってみるとクリスティさんは未だ若い娘さんだった。

社員は思い思いの私服姿で仕事中で、社内はざっくばらんな雰囲気だった。簡素なジャンパー姿の彼女はまるで女学生のように見えた。

シャンカールのタマンさんから話があったはずだが、と彼女に訪問の目的を話した。物静かな感じjの彼女はうなづくと、僕のEチケットの控えをチェックし、パソコンに向かった。

作業を終えた彼女は僕に、欠航して迷惑をかけた、と頭を下げ、すぐに返金手続きをします、といってくれた。僕は彼女にお礼をいい、お手数だが念のために一筆書いてほしい、と頼んだ。彼女は2週間後に僕のクレジット口座に返金するというが、僕はその頃はもうネパールにいない。

彼女はいやな顔ひとつせず、Eチケットの余白に2週間内に返金する旨の書き込みをし、サインしてくれた。その書き込みの欠航の理由は、石油不足ではなく、石油危機とあった。

彼女にとってイエティの現状は、単なる物不足以上の、危機的状況なんだ。そんな中、快く返金に応じてくれたイエティと彼女に僕は感謝した。

そんな気持ちを彼女に伝えたかったが、僕の英語でどれほど伝わったことやら、心許ない限りだ。それに対して、彼女がEチケットに書き込んだ英文は実に簡潔で要を得たものだった。タマンさんもそうだが、ネパールの若者はよく勉強しているなあ。

懸案事項を無事済ませた僕らは再びタクシーに乗りこみ、もうひとつの世界遺産パタン地区へ向かった。

パタンも他と同様、観光客で溢れているものの、傾きひび割れた寺院や仏塔の復旧工事は手付かずのままだった。わずかに数人の男達が広場のレンガを掘り起こして修復作業をしているだけだった。

ホコリと排気ガスの舞う中、人ごみにもまれながら、僕は、この瓦礫の山が以前の姿に戻るのはいつのことだろう、と考えながら歩いた。今のままなら、きっと気の遠くなるような時間がかかるかもしれない。

最後にタメル地区へ行った。カトマンズでは、日に一度はタメルを歩かないとなんとなく落ち着かない。ランドリーで洗濯物を引取り、顔見知りになったサンドイッチ屋でホットドッグとハムサンドを購入、今日の予定が終わった。

タメルの真ん中の広場にオレンジ売りがいた。オヤジが自転車の荷台にオレンジを積み上げて売っている。旨そうなので1k買うことにした。値切って400ルピーにしたが、このオヤジ、支払いになると平然と500といいだした。頭にきた僕は買うのをやめにした。

するとオヤジはあわてて400に戻した。それなら、と僕はカネを払ったが、頭にきて興奮した僕は、肝心のオレンジの受け取りを忘れてしまった。すぐに気付いて戻ったがこのオヤジに笑われてしまった。腹の立つオヤジだ。

僕もいい年なんだから、つまらぬことで怒るのはそろそろ止めよう、身体にもよくないし。そういえばこのセリフ、前にも言ったような・・・、何度目かな。(続く)
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81 シルクロードの旅(4)ブハラへの道
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
43 北東北ローカル線の旅 (4)津軽じょんがらの夜はふけて
42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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