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136 「斉藤」、「斎藤」、「齊藤」、「齋藤」
2014年4月3日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
私自身は「サイトウ」という、日本で最もありふれた苗字のひとつを持っているのですが、昔からなんとなく不思議に思っていたことがあります。

「サイトウ」という苗字には様々な漢字がありまして、人によって上記の4つの漢字が使い分けられているのです。

中にはどの文字でも気にしない方(大体は画数の少ない、斉藤という文字を使っている方に多いようです)もおられますが、けっこう皆さん、それぞれに自分用の文字を意識しておられるのです。

実は私の場合は、4番目の「齋藤」という、最も画数が多く、書きにくい文字を使いますが、やはりけっこう気にしています。たしかに戸籍上、わが家ではこの文字が使われているのですが、小学校の高学年からは意識してこの小むずかしい文字を使って来た、という慣習的なものもその理由に挙げられると思います。

今はパソコンが発達していますので、周囲の皆さんにあまりご負担やご迷惑をおかけせずに済むようになりましたが(と、私は思っていますが、今でもけっこうご迷惑をおかけしているのかもしれません。ごめんなさい。)、特にこの「齋」という字は、まことに書きにくく、無理矢理書かせられる方には、何かとご負担をおかけして参りました。ましてや外国人から見たら、なんとも不可思議な記号に見えると思います。現に、知日派の外国人から、そんなふうに言われたことがあります。

しばらく前のことですが、小駒勝美氏という方が書いた、新潮新書の「漢字は日本語である」という本を読む機会がありました。

それによると、上記の4種類の「サイ」は、まったく意味の異なる2つのグループに分けられるというのです。つまり、画数の少ない「斉」は、もっと画数の多い「斎」の略字だ、というような単純な関係ではなかったのです。

早速、漢和辞典をひいてみました。まず「斉」は、「ととのえる、ひとしくする」という意味でして、そろって同じくするということです。「均斉」、「一斉」、「斉唱」などという言葉が示すように、みんなそろって、という意味でして、音は「セイ」と発音します。でも「斉藤」の場合だけは、例外的に「サイ」と発音するのです。そして、「齊」はなんと「斉」の旧字体なのだそうです。この本を読むまで知りませんでした。

一方、「斎」は、「セイ」と読むことはなく、すべて「サイ」または「いつき」と発音します。意味は、神仏に仕えるために心身を清めることです。「斎戒沐浴」とか、「書斎」、「斎宮」(さいぐう、または、いつきのみや)京都・葵祭の「斎王代」(さいおうだい)なども皆、この意味で使われています。書斎などは、本来は物忌みや、身を清めて勉強するためにこもる部屋なのだそうで、書斎で遊び呆けていてはバチがあたりそうです。そして「齋」は、「斎」の旧字体なのだそうです。

ということは、「斉」と「齊」は同じ意味で、「斎」と「齋」が同じ意味なのです。なんだか、ややこしくなって来ましたね。

ですから「斉藤」さんと「齊藤」さんは、書き換えても、意味の上からはOKなのですが、「斎藤」さんと「斉藤」さんは、意味が違いますので、勝手に書き換えてはいけないということになります。

してみると私の場合は、齋藤ですから、斎藤と同じグループであり、なんと、心身を清める方に属します! そうか、責任があるなあ、というのが当面の実感なのですが、あまり身を清くしているとは言えないだけに、いささか複雑な心境です。

この本には、様々な日本語としての漢字のことが書かれておりましたので、また機会がありましたら、ご紹介させていただきますが、1つだけ、ここでおまけにご紹介いたします。

「々」は、「佐々木」とか、「代々木」などという名称に使われていますが、この「々」を単独で打ち出すには、パソコンのキーボードに何と打てばよいのでしょうか? そう、たいていの方は、私と同様に苦労の末、「ドウ」と打てば出てくることにお気付きのことと思います。

あれはもともとは、「仝」(おなじ)という漢字が変化してできた記号だそうでして、断じて漢字ではないのだそうです。つまり日本語独自の記号であり、漢字ではないし、中国には存在しないものなのだそうです。

歌人であり、国文学者でもあった、佐佐木信綱氏は、元々「佐々木」であった苗字を、訪中時に、「々」という文字は中国には存在しないことを指摘され、「佐佐木」に改姓したのだそうですが、こういう方は稀で、「佐々木さん」が普通で、「佐佐木さん」と書く人は、たいへん珍しいですよね。

この本によりますと、女優の松嶋菜々子さんは、本名は松嶋奈奈子さんなのだそうで、芸名には、よりわかりやすい文字を使ったということになるのでしょうか。

成田空港に行く途中の東関東自動車道には、「酒々井」と書いて、「しすい」と読む地名がありますが、これだって「酒酒井」と書かれたら、やはり違和感が出るかもしれません。

ともかく、私の苗字は「齋藤」でして、それは「斎藤」の旧字体であり、本来は心身を清くして生きるいう意味なのだそうです。知ってしまった以上は、なるべくその意味に反しないように努力はいたしますが、あまり自信はありません。
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