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僕の偏見紀行
202 ネパール出会い旅(11)旅の終わりのカトマンズ(下)
2016年3月19日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ タメル中心部。左手下にお世話になったランドリーの看板が見えている。ビルの隙間の路地の奥にあった。1キロ100ルピー、約100円、手軽で安く助かった。
▲ ホテル シャンカーのトラベルデスク担当タマン氏と。彼には大変お世話になった。
▲ シャンカーのレストラン天井、伝統模様の木彫が美しい。
カトマンズ最終日、特段の予定は無かった。やることは荷物の整理とお土産の買い足しくらい。タメルでの買い物を済ませたら、のんびりホテルで過すだけ。

ホテルのレストランでなじみになったウエイターの若者に、明日帰国することを告げた。彼はそれは残念といった表情を浮かべた。お互い不得手な英語でのコミュニケーションが頼りだが、気持ちはなんとか伝わるものだ。明日を加えると6回ここで朝飯を食うことになる。彼には親切にしてもらって助かった。

彼はスタッフの中では若くて、一番下っ端のようだった。ウエイターのチーフは年配のオッサンだが、ちょっと威張った感じで腹を突き出しながら歩き回るだけで、僕らのテーブルには近寄らない。紅茶のお替りはいつも下っ端の彼がしてくれた。お茶好きの僕にとってはあり難い存在だった。

タメルへ最後の買い物に出かけることにした。お土産責任者(家内のこと)は買いもらしはないか、リストをチェックする。高地にあるネパールはカシミアや紅茶の産地である。すでにいくつか買い込んでいるが、品質のわりには安いのでもっと買い足すつもり。

まずタメル中心部のカシミア専門店へ行った。既に何点か買っているが、我が責任者はもう少し買いたいという。ここは在庫豊富で店主が親切で感じが良かった。

店に入ると幸いに他にお客の姿は無く、店主ともう1人、中年男が暇そうにしていた。前回訪れた時は、下見のついでに家内がセーターを1枚買っただけだった。それでも店主は僕らを憶えていたようで、やっぱりまた来たか、といった感じでニヤリとした。

家内は、前回買ったものが気に入ったので、お土産に買いカシミアを足すつもりでいた。そんな雰囲気は相手にも伝わるものらしく、店主は大いに張り切り、背後の棚から取り出したセーターやマフラーを山ほどカウンターに並べた。かたわらの中年男も加わり、敵は2人がかりとなって攻め立てる。

中年男は貰った名刺によると本職は日本語の観光ガイドで、暇な時にここの手伝いをやっているのだ。

我が方の買気を察知したこのガイド氏、手際よく電話でチャイの出前を手配してくれた。ゆっくりお茶でも飲みながらお話しましょう、ということになった。

店主はさらに張り切って家内が関心を示す製品を次々にカウンターに積み上げる。この店、ガイドブックにも載るような老舗の有名店で、その豊かな在庫には圧倒された。僕は他人事ながら、こんなに山ほど積み上げ、後の整理がたいへんだろうなあ、と余計な心配をした。

それほど大量のセーター・マフラーが目の前に溢れた。後で思えばこれも、客にプレッシャーをかける、敵の戦術だった。

価格が手頃なので、我がお土産責任者も張り切って、息子や嫁、果ては孫の女の子の分まで、という流れになってきた。敵は名うてのネパール商人、ここらで少し頭を冷やそう、と僕は店主に、沢山買いたいが、こちらにも予算の都合があるから、とさりげなく牽制球を投げた。

すると敵もさるもの、値段なら任せてくれ、それよりもっと他に家族や親戚はいないのか、と切り返された。さすが、歴戦のつわものネパール商人。戦いは敵の攻勢に押され気味の展開となった。

それから延々、僕は二人のネパール商人とやりあった。熱いチャイをすすりながら、日本語と英語が入り混じった商談が続いた。

そのうち話しは、僕が赤いマフラーを買ったのをきっかけに、日本の還暦の話にまで及んだ。店主も、60才で一度リタイアした身で、店の経営自体は息子に任せているらしい。

さらに話が盛り上がった結果、ついに彼ら二人は、僕のネパーリィフレンド 1号・2号となった。家内はいい買い物が出来たとご機嫌だったし、僕もまた、お前は日本人には珍しく英語がうまい、などとおだてられ、いい気分だった。

相当値切ったつもりだったが、多分彼らのほうが上手だったと思う。彼らの思惑通りの展開だったに違いない。その証拠に店主は終始ニコニコとご機嫌だった。

買い込んだカシミア製品の質と価格がどうなのか、素人である僕らには分からないが、楽しい思い出が出来ただけでも充分価値がある。

いい商売をしながら客を楽しませる商人はそう多くはない。さすが、インド・チベット・中国のはざ間で、ヒマラヤ越え貿易を仲介してきたネパール商人達だ。

次にガイド氏の紹介で紅茶屋へ行った。お茶好きの我が家は是非ともネパール紅茶を買いたかった。ネパール紅茶は、かの有名なインド・ダージリンに隣接する高地で栽培され、それに劣らぬ品質だという。

紅茶屋の店主も日本語をしゃべり、カシミア店のガイド氏と同じ日本語学校で学んだらしい。その学校でガイド氏は優秀な成績を収め、トップで卒業したという。

タメル最後の買い物では、実はお世話になったタマンさんへのお礼の品も何か買いたかった。しかし彼にそれとなく何がいいか打診したところ、即座に、そんなことはやめてくれ、と断られた。どうしたらいいのだろう。このままでは僕らの希が済まない。

夕暮れ時のタメルを名残りを惜しみつつ歩いた。気になっていた、ハチミツ・カレー系香辛料・岩塩なども買い込んだ。そしてすっかりなじみになったスズキの軽タクシーに乗り込みホテルへ戻った。壊れかけたオンボロタクシーは夕闇の人ごみをぬって猛スピードで突っ走った。

ホテルに戻るとすぐ、タマンさんのデスクにお礼をいいに行った。いろいろ考えた末、僕らが日本から持参したマスク・ウエットティッシュ・使い捨てカイロなどが沢山残ったので、それを差し上げることにした。

余り物で恐縮だが、といって差し出すと、彼は、これは便利だ、と喜んでくれた。それをみて僕らはホッとした。

もしかしたらそれは彼の心遣いだったかもしれないが、僕らは素直にその言葉を受け止めることにした。彼がいなかったら、僕らはネパールの旅を続けられなかったかもしれない、彼に出会えて本当に幸運だった。

ネパール最後の晩飯はホテルにした。重厚な造りのレストランは、伝統模様の木彫で壁や天井が飾られ、重々しい雰囲気だった。

相客は少なく、欧米人男性とネパール青年の2人連れ、そしてトレッキングに来たと思われる、僕らと同年代の日本人男女10人ほどのグループがいた。彼らは狙っていたコースの踏破に成功したらしく、意気軒昂である。

欧米人は、50代くらいの物静かなインテリ風、低い声で青年と話し合っている。近くなので意識しなくても、時おり彼らの会話の断片が聞こえてくる。何度かドイツという単語が聞こえた。言葉の端々から、インテリ氏はドイツの技術者で、鉄道システムの研究者のようだ。

暫くするとネパール人の紳士がやってきて彼らに話しに加わった。金縁メガネに口ひげ、白いワイシャツにネクタイという隙のないスーツ姿で、カトマンズではあまり見かけないタイプだ。

紳士を中心に話が一段と弾み、青年はしきりにうなづき、インテリ氏は低い声で紳士に応える。紳士は次第にそっくり返り、なんだかエラソーな態度になってきた。

そういえば僕の現役時代に日本でもこんな手合いに出会ったことがある。商談中、話が進むにつれ、そっくり返る人種がいたのだ。それはお役所のエライさんに多かった。

僕は勝手に想像を巡らせた。件の紳士は政府の要人、青年はその部下、それにドイツ人の鉄道技術者、この組み合わせは、もしかしたら、ネパールでも鉄道建設計画があるのかもしれない。

現在のネパールには未だ鉄道が無い。山岳地帯が多く、鉄道に適した地域があるかどうかも分からないが、カトマンズの大気汚染に遭遇すると、車に変わる交通手段の必要性を痛感する。

以上、僕の勝手な想像なのであまり信用できない話である。間違っていたら悪しからず。

明朝、レストランでウエイターの彼にお礼とお別れをいった。彼は紅茶を注ぎながら、また来てほしい、といった。老いとともに、なんでもない、こんな別れが年々辛くなる。(終わり)
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83 シルクロードの旅(6)国境越え
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81 シルクロードの旅(4)ブハラへの道
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79 シルクロードの旅(2)青の都サマルカンド
78 シルクロードの旅(1)タシュケント到着
77 小笠原の旅(7)惜別
76 小笠原の旅(6)小笠原海洋センター
75 小笠原の旅(5)母島列島
74 小笠原の旅(4)宝石の島、南島
73 小笠原の旅(3)ザトウクジラの海
72 小笠原の旅(2)BONIN ISLANDS
71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
43 北東北ローカル線の旅 (4)津軽じょんがらの夜はふけて
42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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