1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
葉山日記
94 鳩時計 (上)
2008年1月26日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
鳩時計が動かなくなった。もう20数年前、本場ドイツのシュワルツワルト(黒い森)のメーカーからとり寄せた本場手作りの一品。鎖の先についた3本の錘だけで、正確に時を刻み、鳩が鳴き、小さな人形たちがオルゴールに合わせ踊る。そのオルゴール曲も鳩時計には珍しく、「ララのテーマ」(映画「ドクトル・ジバゴ」のテーマ曲)というところが気に入っていた。

地元の時計屋数件に電話したが、「たぶん歯車とかクランクとか部品が磨り減っているんでしょう。その道の職人さんも探せばいないことはないが、修理となると新品を買うくらい費用かかりますよ」とつれない。そこで、ハンブルグ在住の友人にメールでリサーチを依頼した。残念ながら、時計にはメーカー名がない。時計の写真を送り、製造元を特定できれば日本の代理店が見つかるかも知れない。

ハンブルグから連絡が来た。「お尋ねの鳩時計はドイツ南部の黒い森の中の工場で作られたことは確認できましたが、会社の名前は特定できません。ムーブメント機構部は教えてくれませんでしたが、1つの会社で供給しているようです。その内の1つの鳩時計会社に問い合わせたところ、歯車がある箇所でひっかっているようなので、修理に出してもらうと分るのですがとのことです。日本の時計屋でも通常の修理で間に合うはずですが、との返事を貰いました。いちど時計屋さんへ持っていかれてみたらいかがでしょうか」。その時計屋が頼りにならないんだよね。ドイツに修理に出していたら輸送費だけで大変なことになってしまう。

そうこうしているうちに、「そうだ」と思い出した。この鳩時計、当時ボンに住んでいた知人に購入を依頼し、送ってもらったのだ。ヨーロッパ取材のおり、かの知人宅で食事をごちそうになった。当時のボンは「西ドイツ」の首都だが、知人の住むマンションからは緑豊かな市街がみわたせ、東京の雑然とした景色との差に愕然としたものだ。その知人宅の居間に掛けられていたのが鳩時計。僕が出張を終えて日本に帰国後、同種のものを購入して日本に送ってもらった。

その知人とはいつの頃からか年賀状のやり取りも途絶えたが、いまは東京にいることはわかっている。ドイツのマンションを訪問したとき、周辺の環境の豊かさとともに、知人の家族仲の良さに感銘を受けた。子供さんが3人、みな小学生だったろうか。奥さんも一緒に家族全員とアウトバーンを飛ばして、古城見物にでかけたっけ。あれはどこの城だったか。思い出せないが、印象的だったのは、子供さんたちが天真爛漫で、奥さんも陽気で、家族全員がドイツを心底楽しんでいたこと。

彼の東京の家の居間にも、今でもまちがいなくそのとき見た鳩時計が飾ってあるに違いない。彼にメーカー名をたずね、そのメーカー名をハンブルグに連絡、そうすれば日本の代理店もしくは修理業者がみつかるだろう、と考え、知人にメールをだしてみた。数日後、返事が着た。

「実は5年前に離婚しまして、時計は前の家にあります。そういう事情で残念ながら・・・」。誠実な彼らしく正直に書かれたメールだが、その後の20年に、あの幸せそうだった家族にいったい何が起きたのか。「前の家」という表現も気になった。家族とはいまでは交流がないのか。電話もしないのか。子供さんたちももう30歳代前半か。彼の家の居間に掛けられた鳩時計が見たものはなんだったのか。そしていま時計はいったいどんな家族の風景をみているのか。

考えてみれば、我が家の鳩時計も我が家のこの20年の歴史をみてきた。ヨーロッパ出張からもどって数年後には長年勤めた会社を辞めた。その結論に達する前の、僕と妻との壮絶な?口論を鳩時計はみてきた。妻が退職にしぶしぶ同意したのは、「このまま会社にとどまったとしても、このひとはいろいろな局面でまた同じように悩む。そのとき、このひとの言うことは分かっている。お前があのとき退職に反対したから、自分は夢を実現できなかった。これから先何度も同じ言葉で責められるのはたまらない」と考えたそうだ。妻には僕の性格がよく分かっていた。

のちに妻に聞いたところによると、このとき妻は離婚も考えたらしい。どうして離婚を言い出さなかった、と聞く僕に妻は答えた。「だって苦しむ夫を見殺しにして離婚したら、他人さまから冷たい女だと思われるでしょう?それだけはいやだった」そうである。「それでもそんなあなたが好きだったから」と言って欲しかったが、そんなわけはないね。

調子に乗って余計なことを書きすぎた。鳩時計の話である。我が家の鳩時計も、生まれたドイツから遠い日本にやってきて、それからアメリカに渡ってNY郊外に4年。また太平洋を渡って日本に帰ってきて、それから2度引っ越した。けっこう波乱の人生を歩んでいる。我が家にも離婚の危機はあったのだから、知人が離婚してもちっとも不思議はないのである。

ところで、我が家の鳩時計のハト君(写真)、その姿がちっともハトらしくないのだ。その理由が、時計の修理屋さんを探す過程でだんだん分かってきた。(続く)
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
123 富士三昧
122 断捨離(2)
121 断捨離(1)
120 喪中につき
119 いろいろあった2014年
118 年賀状考
117 新年号準備中
116 あの日の朝
115 心に響いたことば
114 僕の海
113 ウィンドサーフィン
112 無心の境地で
111
110 64歳のスタート
109 妻との会話
108 坂の上の雲
107 「変人たち」の一瞬
106 歯みがきチューブ
105 宣告(下)
104 宣告(上)
103 とんがりコーン
102 グローバル戦略(1)
101 大臣辞任
100 なにはともあれ
99 ガラガラポン
98 野球とハリケーン
97 ある土曜日の記録
96 続・決定的瞬間
95 鳩時計(下)
94 鳩時計 (上)
93 決定的瞬間
92 HANG IN THERE
91 残すか、捨てるか
90 同窓生
89 去りゆく夏
88 東京タワー
87 立ち位置
86 エッセイ再開
85
84 侮るなかれ、恐れるなかれ
83 整理
82 孤独
81 写真家
80 鬼怒川温泉
79 夢物語
78 SOMETHING
77 還暦
76 花盗人
75 ホリエモン(下)
74 ホリエモン(中)
73 ホリエモン(上)
72 フィルムが消える日
71 新年読書三昧
70 下請け
69 蝉しぐれ
68 インターネット時代のジャーナリズム(2)
67 インターネット時代のジャーナリズム(1)
66 海坂
65 刺客
64 麻酔
63 偶然
62 六本木の病院
61 波乱万丈
60 シ・ア・ワ・セ
59 「老害」を打破せよ
58 「ライブドア」対「楽天」
57 ブログってなに?
56 ブログ戦争
55
54 不思議な「装置」
53 釈明不要
52 皇族の自己責任
51 皇太子発言
50 異常のなかの日常
49 ロバート・キャパ
48 コンテンツ(最終回)
47 コンテンツ(9)
46 コンテンツ(8)
45 コンテンツ(7)
44 コンテンツ(6)
43 コンテンツ(5)
42 コンテンツ(4)
41 コンテンツ(3)
40 コンテンツ(2)
39 コンテンツ(1)
38 下戸
37 野狐禅
36 続々・年賀状考
35 続・年賀状考
34 年賀状考
33 思考スパイラル
32 龍志の遺稿
31 冷たい風
30 先延ばし
29 「有栖川宮」
28 窮鼠、猫をかむ
27
26 リタイアメント
25 続・大胆予測
24 大胆予測
23 執筆方針やや転換
22 バングラデシュ
21 すりかえの論理
20 囚人のジレンマ
19 野合
18 便所の落書き
17 バナナとタマゴ
16 日本の景気は回復する
15 土地について考える
14 ドメイン −5
13 ドメイン −4
12 ドメイン −3
11 ドメイン −2
10 ドメイン −1
9 「19%」の意味
8 僕らの世代(2)
7 僕らの世代(1)
6 ど忘れ
5 スペースシャトル
4 80年代初頭の写真
3 ハンバーガー
2 ゆでガエル
1 止揚
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 8 4 4 5
昨日の訪問者数0 4 0 6 3 本日の現在までの訪問者数0 2 9 6 0