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信州信濃路 |
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| 2003年6月28日 |
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 | 時津 寿之 [ときつ としゆき]
１９４５年、九州にて誕生。２０１０年４月６５才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子２人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。 |
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| ▲ 信濃路自然歩道にて |
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「あのう、これ、すみませんでした。」
そういってそっと５００円玉が差し出された。返答に窮していると、昨夜の夕食時のワインの代金をもらい過ぎていたとのこと。一杯しか飲まなかったのだが、それが二杯で請求されていたとか。
軽井沢パ−クホテルのフロントでのこと。チェックアウトに際してオ−ナ−夫妻が見送りに出て、奥さんが恐縮しきった風でお詫びを言う。一瞬何事かと身構えたが、事情がわかり、成る程このホテルの良さはオ−ナ−の人柄が反映されたものだと納得がいった。
軽井沢にこんな温泉ホテルがあるとは知らなかった。軽井沢駅から車で２０分、白糸の滝へ向かう道路脇の緑の中にひっそりとたたずむこのホテルは、軽井沢小瀬温泉に属している。お湯はアルカリ性単純泉で、勿論１００％源泉かけ流し。さらさらと透明で実に気持ちのいい温泉。こじんまりとした山のホテルで、和室、洋室があり、料金は１泊２食１５０００円くらい。料理の味は文句なし、量も手頃で付け合せまで全て美味しく食べてしまえる。また、白いご飯がぴかぴかでつい食べ過ぎてしまう。
このホテルのすぐそばを信濃路自然歩道が通じており、白糸の滝方面へ雑木林散策が楽しめる。訪れたのは５月上旬であったが、芽吹き始めの淡い新緑の中に、ところどころ遅咲きの桜が薄いピンクをにじませ、パステル調の柔らかな色彩に、心がしみじみと慰められた。
ホテルの前庭には野鳥のためのえさ台がしつらえてあり、朝食時には、食堂の窓越しに様々な野鳥が飛来するのが見え、いながらにしてバ−ドウオッチングが楽しめる。
緑溢れた環境の中で、水と空気が本当に美味しい。深呼吸すると日頃の新宿界隈の汚い空気が入れ替わるようで誠に爽やか。寿命が確実に伸びる実感あり。水はホテル内全て天然の沢水が使用されており、これも市販のミネラルウオ−タ−と違い、これが水本来の味なのか、一口飲めば口の中が輝くような、というのは開高健の表現であるが、まさしくそんな美味しさだった。
本当はこんないいホテルは誰にも教えたくない、しかしこんなに良かったぞと自慢もしてみたい。そんな遣る瀬無い思いをさせられる困ったホテルだ。オ−ナ−夫妻の人柄は従業員にも浸透しており、出会う人みんなが嫌味のない、心のこもったもてなしをしてくれ、日頃のマニュアル言葉の氾濫するうわべだけのサ−ビスにうんざりしている身にとっては、有難いオアシスともいうべきか。
※参考図書 嵐山光三郎著 「温泉旅行記」
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