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ガラガラポン |
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2008年11月4日 |
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 | 中山 俊明 [なかやま としあき]
1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。 |
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▲ いったん出来上がったレンガを剥がしてパティオ工事のやり直し中。少々不満の仕上がりだったので、50年後のことを考えたのだが(もちろん僕はこの世にいない)、果たして人類はそれまで生存できるのか、真剣に考えている。 |
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なんとも不思議な映像だった。深い樹林のうえにそびえ立つエッフェル塔が音もなく崩れ落ちていく。同じく深い緑のなかに林立するマンハッタンのビル群からコンクリートの破片が落下していく。自由の女神の頭部が折れて、それがカメラに向け崩れ落ちてくる。―たまたまつけたCATV「ディスカバリーチャンネル」に僕は釘付けになった。これはいったい何なのだ。観ているうちに徐々に分かってきたのは、この光景は、人類が滅亡して200-300年後の想像の世界だった。
なぜ人類が滅亡してしまったのか、最初から観ていないのでわからない。原子力発電所の事故で大規模なメルトダウンが起き、地球を放射能が覆ったのか。しかし、森には逞しく生き残った、かつて人間が飼っていたペットの子孫や、野生のシカ、イノシシが元気に跳びまわっているので、死滅したのは生物全体ではなく、人間だけらしい。人間だけが強力な伝染病にやられたのかも知れない。
200年経つと人類が生存した跡はほとんどない。住宅の跡と思われる場所に、ステンレスの流し台が転がっている。ステンレスは千年くらいはもつらしい。意外なのは「地球上の最強生物」と言われたゴキブリは姿を消している。人間の居心地いい住宅あってのゴキブリで、低温に弱い彼らは人類消滅の後を追ってすでに地球上からはいなくなっている。番組は芸が細かい、というか科学的な裏打ちのある分析がうかがわれ、説得力がある。
人類滅亡後の地球は大気汚染は浄化され、地上は緑で覆われ、海は美しくなり、陸上、海上の生物たちが生き生きと活動している。管理する人間がいなくなって、数週間以内に世界各地で暴発した原子力発電所から発生した放射能もほとんど消えている。このCGで作られた未来予測番組の結論は「人類が消滅しても地球は生きる」ということらしい。不思議な余韻の残るTV番組だった。最後に流れたテロップには、「カナダ国営放送制作」とあった。よくぞこんな良心的な番組を作ったものだ。
見終わって、複雑な心境になった。一方では生きることの虚しさ。そのいっぽうで憑きものが落ちたような、悩みから解脱したようなさわやかな気分。しょせん人類が生存する期間なんて、地球的時間に比較すればほんの一瞬。その一瞬のあいだに人間は、いや僕自身もなにをつまらぬことで悩み、あくせくしているのだ。とはいえ、病気は苦しいし、貧乏はつらい。痛いものは痛いし、まずいものはまずい。いくら一瞬とはいえ、その一瞬一瞬の煩悩に人類はいやでも「人間時間」でお付き合いしなければならない。
とまあ、柄にもなく、久しぶりにTVを観ながら考えたわけだが、見終わったあとの説明のつかない複雑な感覚にはなにかに通じるものがあるな、ふと感じた。思い当たったのは、このところの「金融危機」だ。サブプライム問題を契機に世界中が混乱のさなかにある。株の乱高下にひとびとが一喜一憂している。僕はというと、こんな状況を見て、なんとなく生き生き、さっぱりしてきている。不遜かも知れないが「ガラガラポン」もいいのではないかという心境である。ここ20年の世界や日本は、どうしようもない逼塞感に溢れていた。この閉塞感が晴れわたっていくような心境にある。
当サイトの掲示板にそのことをちょっと書き込んだ。
「ここ10年、数字をもてあそんで、モノの生産をないがしろにしてきたアメリカ、構造改革と称して、ぎすぎすした社会を築いてきた日本、この辺でいっかいガラガラポンをやるのもいいことかも知れないと、失うもののない庶民のひとりである私は考えています」。
するとただちに1人の投稿者から反論が書き込まれた。
「世界経済が破綻したら、来年は日本でも6万人以上が自殺しますよ。それでもガラガラぽんしたほうがよいですか?」。
そこで、また書き込んだ。
「『うまい汁をさんざん吸ってきたウォール街の住人を助けるために我々の税金を使うな』という庶民の声を批判できるでしょうか」。
するとまた反論。
「『うまい汁をさんざん吸ってきたウォール街の住人』といわれますが、彼らは悪事を働いて金儲けしたわけではないですよ。希代の無能大統領ブッシュが推進した規制緩和、持ち家奨励の枠組みのなかで優秀な頭脳を駆使して業績をあげただけです」。
彼らはほんとうに「優秀な頭脳」の持ち主なのだろうか。ニューヨークで投資会社を経営する神谷秀樹という方が書いた「強欲資本主義 ウォール街の自爆」(文春新書)という本を読んだ。これを読むと、「ブッシュが推進した規制緩和、持ち家奨励の枠組み」は、実は一部の「強欲な金融・投資家」が考え出した仕組みそのものであり、それらの流れを汲む人々がワシントンと結託し、「無能なブッシュ」に働きかけて自分たちに都合のいいルールを作り、市場を操作した結果そのものだということがよくわかる。一部「ウォール街の住人」はまさに「悪事を働いて金儲けした」のである。
「まともな心を持っているひとが見れば、こんなことを続けることが出来ないのは余りにも明白なことだった」「強欲の結果は必ず自分に戻ってくる」、と実際にウォール街で「住人」たちの生態を見てきた神谷さんは書いている。数百年と言わないまでも、5〜10年後の視点に立って見てみれば、「アンフェアな超過利潤が整理」されようとしているのが、いま、ということになるのだろう。僕が言う「ガラガラポン」とはそのことである。
とはいえ、今後10年にわたって、「不心得ものの宴」の後始末は続く。庶民にとってはつらく苦しい時間が続くだろう。しかし人間の不幸は貧しさにあるのではなく、格差にある。力をなくしたアメリカがイラクやアフガニスタンから撤退したら、再びテロリストがのさばる、という説があるが、これは間違っている。そもそもテロは富の極端な偏在から発生する。圧倒的な経済力、軍事力の前にとことん追い詰められた人々は暴力に頼らざるを得ないのである。
今晩にはアメリカの新大統領が決まる。投稿者「ジプシー」さんは、なにかとんでもない不測の事態が起きて、オバマ大統領が実現しない事態を恐れているようだが、その心配は杞憂で、たぶんオバマ圧勝ということになるのではないか、というのが僕の予想だ。そうなれば、まだアメリカには希望がある。他国への過剰な干渉を止めること、借金体質を改め、身の丈に合った質素な生活に回帰すること、オバマの登場で少しはそういう姿勢が出てくるのではないか。
親しくつきあっている「良きアメリカ」人たちの顔を一人ひとり思い出しつつ、大統領選の行方を注意深く見守っている。やはりアメリカは明るく、元気な国でいてほしい。傲慢なアメリカは嫌いだ。
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