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ボーダーを越えて
174 お祭り
2012年1月11日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 昨年12月に訪れた仙台市若林区。津波の爪痕が生々しい。NHKの番組で見た陸前高田の市街地も同じようだった。
▲ 道路の向かい側のガソリンスタンド。
▲ 動いているのは瓦礫を片付けるクレーンだけだった、宮城県石巻市の小学校の校庭で。
新年が明けて間もなく、PBSという(原則的には)コマーシャルのない公共テレビ放送で、NHKスペシャル番組「東北 夏祭り 〜鎮魂と絆と〜」を見ました。

それに先行して、NOVAという科学番組があり、世界各地での地震のこととその対策について1時間、さらに地上および海中の火山の大爆発によって大地震と津波のおそれについて1時間、放送されたのですが、それだけでもう、私の目の前には、去年テレビの映像で見た津波の被災者の姿が浮かんできました。そのあとすぐ「東北 夏祭り 〜鎮魂と絆と〜」を見たのです。

この番組をご覧になった方も多いことでしょう。津波で多数の犠牲者を出し、町全体が壊滅状態になってしまっても、夏祭りをやろう、と決めた人々。そうすることが津波にのまれてしまった家族や友人たちの霊をなぐさめ、郷土の復興を目指す、いや、目指したいという気持を確認することになる姿を、その番組は映し出していました。

特に、動く七夕祭りを誇りにしていた陸前高田では、8台のうち3台しか残らなかった山車の飾りを作る人手も引っ張る人手も足りません。それでも、残された人々は一生懸命に助け合って、なんとかお祭りへとこぎ着けます。そして、一軒の家も残っていない「市街地」を、山車を引いて歩き、駅前広場だった場所に集まり、海に向かって黙祷しました。駅前広場といっても、もう駅もありません。また、集まるといっても、大勢の人がいるわけでもありません。でも、そこにはまだコミュニティはある、と感じさせられました。

日が沈むと、山車に柔らかな明かりがつき、荒涼とした風景の中を、ボーッと明るい山車がゆっくり動いていくのが遠くから映し出されて番組は終わります。それはまるでフェリーニの映画に出て来るような現実とも空想ともつかない光景で、悲惨の中にも希望が、哀しみの中にも喜びが入り混じってみえました。そういえば、フェリーニは、傑作『8 ½』で、主人公に「人生は祭りだ。一緒に楽しもう」と言わせていましたっけ。2011年の東北の夏祭りでは、そのことは、散り散りにはなってしまったけれど住民一同でやったというだけではなく、生存者も犠牲者もみんな一緒に、という意味になったのですね。悲しいけれど、寂しいけれど、やってよかった、と祭りを実行した人たちの気持が、映像ににじみ出ていました。

そのことを何度も繰り返し考えていて、ふと、気がついたことがあります。

2007年10月の山火事は、連れ合いと私にとっては、津波のようなものでした。さいわいにも、家も私たちも労働者全員も動物たちも無事でしたが、農園はあっという間に壊滅してしまいました。でも、その直後、連れ合いはすぐさま灌漑用のパイプとホースを注文し、灌漑設備の修復を始めたのです。それは、彼にとっては祭りのようなものだったのではないか、と考え始めたのです。

私たちの周囲に、火事の被害にあったといっても、連れ合いほどの大打撃は免れていながら、それでも落胆したり、しばらく気落ちしてしまった人が何人かいました。ところが連れ合いにはそれがなかった。労働者も、自分たちの宿泊用のトレーラーハウスが燃えてしまっても、すぐ元気に働き始めました。灌漑設備は修復したものの、パームはほとんどが生き残れなくて切り倒す羽目になり、お金の計算だけから考えたら、あんなにすぐ灌漑設備の修復を始めなくてもよかったのかもしれません。でも、連れ合いも労働者も一緒になって、修復に専念したことの心理的効果は大きかったと思います。

あれから4年以上が経ちました。農園はいまだに混沌としています。パームは植え替えてから売れやすい背丈(3−4m)になるまでには20年から30年はかかるので、連れ合いはパーム稼業はきっぱり諦めました。でも、アボカドには情熱を持っています。若い木を植えて、農園復興に一生懸命です。とはいえ、なんと言っても木ですから、野菜と違って収穫できるまでにはうんと時間がかかります。もとのようなアボカド園になるには、あと何年かかることか… それまでは経費がかかる一方で、やっていかれるかしら、と私はときどき不安にとりつかれてしまいます。

今年は、ありがとう、と毎日言って過ごそうと決めましたが、「東北 夏祭り 〜鎮魂と絆と〜」を見た日は、津波の大災害にあい、大きな不幸を抱えてしまっても、尊厳を失わずに生き続けている東北の方々に、ひそかに、でも心から、ありがとう、と言いました。


連れ合いが65歳になったとき、友人やメキシコ人労働者や遠くからの親類を交えて、メキシコ料理と音楽とピニャータ(メキシコの子どものお祭りで使われるくす玉人形のこと)で、パームの林の中で、賑やかで楽しくお祝いしました。先日、ある友人から「ああいう楽しいパーティーをまたいつやってくれるの?」と、聞かれました。

やりたいですねぇ。でも、いまはその余裕がないので、農園復興の見通しがついたら、ぜひやりましょう。アボカド園復興のお祭りです。もちろん、アボカドの木の下で、メキシコ料理と音楽とピニャータで。
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