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僕の偏見紀行
207 なぜかベトナム(5)酷暑の村
2016年6月24日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ やっとたどり着いた伝統建築の家。ホントに暑かった。
▲ そのお宅の内部。
▲ 意外と楽しかった吊橋。
前日予約したタクシーで郊外のドン村へ行った。バンメトートから4〜50キロほど離れたところ。村には少数民族のムノン族やエデ族などが共存するという。8時30分にホテルを出発、午後1時過ぎには戻る予定、タクシー代は80万ドン、約4000円だった。

時間はたっぷりあるのに、昼過ぎに戻るという中途半端な予定にしたのには訳があった。フロントの女性によると、この村はとても暑く、午後は摂氏40度になることもあり、観光は午前中がいいらしい。

乾いた道路をタクシーはひたすら走る。舗装はしてあるものの、路肩の赤土からホコリが舞い上がる。ドライバーは無口のままハンドルを握る。言葉が通じないので、今どのあたりなのか、到着は何時頃か見当がつかない。

道路の両側は丈の低い潅木や赤土の畑が続き、そこへ容赦なく太陽が照り付けている。時おり見える緑はコーヒーの木だろうか。草も木も乾ききり、強烈な日差しをじっと耐えている。山岳民族の村ならもっと山へ登るはず、少し様子が違う。随分走ったが標高は高くならない。

1時間半くらい走った頃村へ到着。ドライバーが指差す方に案内所があった。彼は身振りで、タクシーは傍らの木陰で待っているから、という。観光は自分達で勝手に行ってくれ、ということのようだ。狭い村だろうし、まあいいか。

案内所には一人の村人らしい女性がいた。彼女によると、村のお奨めポイントは、今も残る伝統建築の家、エレファントファーム、吊橋らしい。村は伝統的に野生の象を飼いならす象使いがいることでも有名らしい。その流れを汲む人達がエレファントファームを営んでいるという。

村の通りをまっすぐ200mほど行ったところに伝統建築の家、その近くに吊橋やエレファントファームがあるらしい。歩いてすぐだというので通りをブラブラ歩き始めた。

案内所のあたりが村の中心のようで、付近には食堂や雑貨屋などが数軒ある。しかしいわゆる観光地という雰囲気ではない。民家と思われる家が続く中、乾燥させた木の皮らしいものを並べた家がある。

いったい何か見当がつかない。瓶詰めも並んでいるので、漢方薬みたいなものかもしれない。ただ、店番がいるわけでもなく、はたしてこれは売り物だろうか。炎天下の通りは人影も無く静かだった。

通りすがりに戸口から土間をのぞくと、薄暗い中でイヌが昼寝をしている。精一杯体を伸ばし気持ち良さそうだ。奥の暗がりに見えるのはネコのようだ。そのかたわらではオジサンがハンモックに揺られている。

100mほど歩き、路傍の木陰で一休みして水分補給。照りつける日差しを辛うじて避けるわずかな木陰が有難い。200mくらい簡単なもの、と歩き始めたが、この暑さは尋常ではない。100mであごを出しそう。ホテルで聞いた摂氏40度が頭をよぎる。

気を取り直して歩き始めると一軒の豪邸が見えて来た。造りはこの地方の伝統建築らしく、高床式の横に長い建物だ。通常サイズの家を4〜5軒ほど横に連ねた様な造りをしている。最近建築されたようで、壁や屋根をはじめ玄関や窓など、真新しい。木材にガラスやアルミのような部材を使用した快適そうな豪邸だ。

村の有力者の家かもしれない。家の前は熱帯植物の庭園が広がり、床下の風通しのいいところに無人のハンモックが揺れている。こんなところで昼寝したら気持ちいいだろう。

残念ながら、見ず知らずのお宅で昼寝をするわけもいかず、豪邸を横目に見つつさらに前進した。

うだるような暑さの中を二人でユルユルと歩いた。アジアの炎天下では、決して急いではいけない、可能な限りゆっくりゆっくり歩いて体力を消耗させないことが肝要、とは我が先達、下川裕治氏の教えだ。

それにしてもさっきの休憩ポイントからすでに200mは歩いたはずだ。それなのに一向に目的の伝統建築の家屋が見えてこない。古い民家は何軒かあったが、それらしい案内板や標識など何も無かった。

案内所の女は、ほんの200m、歩いてもすぐそこ、と強調していたが、僕らはもう400mは歩いているはずだ。いつの間にか道路脇の民家は途絶え、林の中を歩いた。道路はカーブしつつ緩やかにな登りになった。

これはおかしい、このままでは何時目的地に着くか分からない。飲み水も残り少ないし、無理をすると危ない。そう考えて引き返すことにした。それにしてもまっすぐの道を教わった通りに歩いてきたのに、どこで迷ったのだろうか。

間違えて戻る道のりは遠かった。ほんの数百メートルがとても遠かった。このまま遭難するのではないか、70過ぎの老夫婦、無理をしてベトナムの山中で遭難、ふとそんな見出しが脳裏をよぎる。

ほうほうの体で出発点に戻り、待機中のタクシーを見つけドライバーに、道が分からないので連れて行ってくれ、と身振り手振りで頼んだ。こんなところで迷う客もあんまりいないのだろう、当初ドライバーは意味が分からなかったようだが、なんとか伝わった。

車に乗って数分、もかからず、すぐ目的の伝統建築の家に着いた。距離は本当に200mくらいだ、案内所は正しかった。僕らが見落としただけのこと。

その家の前を確かに通り過ぎた記憶がある。しかし古びた高床式の家だとは思ったが、門が閉じられ、何の看板も無かった。家の前庭には人影が無く、ニワトリがうろついていた。この家がそうだったのか、僕は無力感におそわれた。

それにしてもあの時思い切って引き返してよかった。あのまま無理をしていたら、人気のない炎天下で行き倒れになっていたかもしれない。

気を取り直して伝統建築の家を見学することにした。ドライバーが声をかけると、若者が現れて僕らを招きいれた。高床式の玄関は古びた頑丈な木製の階段を上がったところにあった。

家の中は薄暗く、目が慣れるにつれ相当大きな家ということが分かってきた。玄関から奥に向かって部屋がいくつもあるようで、細長い長屋のような造りだ。入り口すぐの応接間風のスペースには大きな神棚が設けられ、この地に伝わる神仏が祀られている。

かもいのあたりにこの家の歴代のご主人と思われる方々の写真や肖像画が飾ってある。ここは伝統建築として観光客を受け入れながら、今も家族の住居となっているようだ。奥のほうから鋭い女性の声が響いてきた。母親が子供に何か言いつけているようだ。

若者と言葉が通じないので説明を聞くことも出来ず、ぼくらは一通り見学した後、神棚と肖像画にお参りして家を出た。次にドライバーはそこからすぐ近くの川岸に僕らを案内した。ここが次の観光スポットの吊橋のようだ。

ドライバーは川にかかる吊橋を指しながら、しきりにそちらへ行けというジェスチャーをし、さらに何か食べる仕草をした。どうも、吊橋の付近には食堂もあるから飯を食って来い、といってるようだ。

入り口で料金を払って吊橋を歩き始めた。橋のかかる川はさして大きくはない。両岸のうっそうと茂る樹木が橋の上まで枝を伸ばし吊橋に覆いかぶさっている。

吊橋は金属のワイヤーで支えられているが、足元や両脇の手すりは細い竹を蔓で結んだだけなので不安定で恐ろしい。隙間の多い竹の下を覗くとしぶきを上げる流れがよく見える。この頼りない吊橋は思ったより長く、延々と続いていた。頭上は梢が交差して日陰になっているので涼しい。

少々おっかない思いはしたが、この吊橋、想像したより楽しかった。歩くうちに分かったが、橋は出発点の川岸と川の中州との間をぬうように何本も架けられ、ルートは入り組んでいた。涼しい木陰の空中迷路といった趣きがあり、歩き回って飽きることが無かった。

吊橋で遊んでるといつの間にか昼頃になっていた。おなかも空いたし、疲れたので近くの食堂でランチにした。僕らはエレファントファームはパスすることにした。野生動物を飼いならして観光の目玉にする、というのはなんとなく抵抗を感じる。同じ理由で動物園もあまり好きではない。

食堂では地元のオバサンのグループが賑やかに食事の最中だった。テーブルの真ん中にスープのようなお鉢を置き、それをおかずに白いご飯をモリモリ食っている。スープとご飯のいい香りが漂ってくる。

僕らも同じようなスープとこの土地の名物、竹ご飯、を頼んだ。竹ご飯は、細めの竹にもち米を詰めて蒸したもので、ほのかに甘く美味だった。食後に飲んだ冷たいココナツジュースは乾ききった僕の身体にしみわたった。これは実にしみじみと美味しく生き返る思いがした。(続く)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
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37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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