研究会インフォネット | 会員連載エッセイ

　今年のハワイは異常気象らしい、そう知人から聞いて早速ネットで検索してみた。今までハワイに行くのに天気の心配などしたことは無かった。結果はやはり思わしくなく、ハワイ諸島の周辺に大きな雨雲が存在しているではないか。

　ハワイ島コナ空港に着いてみると幸いに好天に恵まれていたが、気のせいか湿度が高い。現地ガイドのカメさんも、「ブッシュがイラクなんかよりもっと地球温暖化に関心もってくれるといいんだが」と嘆いていた。やはりその影響なのだろうか。

　ハワイ島はご存知の通り、ハワイ諸島の中で最も新しい島で、現在も活発な火山活動が続き、島の南東部の海岸に行けば溶岩流が海に流れ込んでいる壮大な風景を眺めることができる。但し、歩きにくい溶岩台地の上をかなり歩くことを覚悟しなければならないが。

　流れ込んだ溶岩は海水の水蒸気爆発を起こし、やがてハワイ島の一部を形成するようになる。アメリカは今でも日々新たな領土を拡大しつつあるのだ。

　まずワイピオ渓谷へ向かった。ここは溶岩台地が雨で浸食されて出来たもので、ハワイ語でこんな地形を「アフプアア」というらしい。台地をV字型に鋭く切り裂いて、それが海岸に向かって開け、川のほとりに豊かな大地を形成している。

　「アフプアア」の奥は台地から落ち込む断崖で、最深部からは滝が流れている。滝は豊かな水量の川となり、その周囲に肥沃な土地が海岸に向けて広がっている。

　ハワイ諸島に、ポリネシアやミクロネシアなどから渡って来た人々がまず定住したのがこのような場所だったという。ここは断崖に守られており、豊かな水と緑、穏やかな気候にも恵まれているので住むには最適だ。

　森にはマンゴーやパパイヤ,バナナなどの果物が豊かに実り、海には魚が満ちている。さらに断崖の上からは、たまに野豚が夜に水を飲みに来て落ちてくることもあったという。まさにパラダイスともいうべき土地で、ワイピオ渓谷の奥は王族のための聖地となっていたそうだ。

　ここで人々は主食としてタロ芋を栽培し、今でもそれが続いている。一時需要の低迷で殆ど栽培する人が殆どいなくなったが、最近は伝統料理の重要な食材として、また健康食品としての需要が高まっている。

　現在ワイピオのタロ芋栽培農家は需要をこなすため、新たなタロ芋畑を開いているそうだ。渓谷の入り口の高台にはこれらの人々の豪邸があり、土地の人に「タロ芋御殿」と呼ばれている。タロ芋は畑といっても水田そっくりで、谷に広がる畑の風景は、どこか日本の里山風景を思わせ、懐かしい感じがした。

　今回はコナの町にある「キングカメハメハコナビーチホテル」に７泊したが、コナはハワイ島でも雨の少ないところで、島の反対側にあるヒロとは対照的だ。午前中は気持ちのいい晴天、午後時によりシャワー、そして夕方はまた晴れて夕陽が美しいという繰り返しであった。

　最近この気候と治安の良さが人気をよび、米本土からの移住者も多いという。そのため不動産バブルが起こり、ガイドのカメさんも数年前に購入した自宅が値上がりし、固定資産税が高くなったとこぼしていた。

　ハワイには猛獣は勿論、毒蛇や害虫等の危険な生物も生息していない。唯一、ネズミ対策に人間が持ち込んだマングースが増えているくらいだ。恵まれた天候と豊かな果物や魚、本当に同じ地球上にありながら住みにくい日本と比べると不公平なことだ、と創造主様に文句のひとつもいってみたくなる。

　こんなハワイだけど、その国旗（現在ではハワイ州旗）を見たときは驚いた。星条旗とユニオンジャックの折衷案みたいなその姿に、僕は当時のハワイの人たちの苦悩を思った。

　有名なカメハメハ大王がハワイを統一した頃、まずキャプテンクックがやってきて、その後アメリカの捕鯨船や宣教師も訪れるようになった。イギリスとアメリカという、いわば外界から進入して来た強者の間にあって、ハワイという独立国を維持することの苦労は並大抵では無かったと思う。

　そしてその苦労の結果の一つがこの国旗になったのだろう。それにしてもこのような旗を見せられて納得したイギリスもアメリカもいい気なものだと思う。

　道端の無人スタンドで購入した４月２１日付地元紙「WEST　HAWAII　TODAY」を読んでいたら、ハワイ島にホームレス用シェルターを建設することになったとあった。現在ハワイ島には約１２５０名のホームレスが存在するらしい。

　不動産バブル、温暖化の影響と思われる異常気象、ハワイも創造主が意図されたパラダイスからその姿を変えつつあるのだろうか。

　その変化の要因は、そこに昔から住んでいる人々とは全く関係が無いことなのに。