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59 ゴルフ中継の憂鬱
2010年4月13日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
米国で開催されていたマスターズゴルフが終わった。優勝したのは、フィル・ミケルソン。今のアメリカのプロゴルファー界を代表するゴルファーである。

そして久しぶりに復帰したタイガー・ウッズは、スキャンダルによるブランクを忘れさせるようなショットやパットを見せて視聴者を楽しませてくれた。ゴルフが趣味の私は、プレーするのもTVで観戦するのも好きで、ゴルフ中継は毎週楽しみにしている。

最近、このゴルフ中継で気になるのが、日本のTV局や、ゴルフ専門チャンネルの日本人キャスター、コメンテーターという人たちである。

「うわぁ〜っ!」
「あ〜ぁ(ため息)」
「うーっ!惜しいパットを外した!」
「や〜、す、すごい!」

隣に座ってゴルフ中継を観る夫の声ではない。ゴルフキャスターという司会者たちの声である。マスターズゴルフのようなメジャーの大会だけでなく、海外・国内・男女のツアーを問わず、TVの前の私はだんだんと憂鬱になってくる。

叫んだり、ため息をついたり、唸ったり、選手たちのエピソードを“一杯のかけそば”的(お涙頂戴的)に紹介したり…。番組を盛り上げようとするあまり、彼らは淡々とゲームを中継するという本来の役目を忘れているように思えてならない。(TV局がその本来の役目を彼らに求めているかどうかは疑問であるが…)

「アンソニー・キムのセカンドショットです」
「タイガーのバーディーパットです」

これらはたいていは画面に表示されていて、映像を見ればわかる。そのときの気持ちは、ブティックで手に取ったブルーの服を店員さんに『その服はブルーなんですよ』などと説明されムッとくるときの感情に似ている。(最近は、照明で本当の色がよくわからないこともあるけれど…。)

アマチュアゴルファーだけでなく、一般視聴者にもわかりやすく解説しようというTV局側の配慮と受け取れなくもないが、ここで勝敗を分けるという重要な場面でない限り、解説者の興味深い話を頻繁に遮ってまで伝える内容ではないように思う。

キャスターという人たちは、職業柄からなのだろうか、“空白”を遮二無二ことばで埋めようとする。選手の一挙手一投足を微細に実況するラジオの野球中継が彼らのスタートだったからだ、と誰かが言っていたけれど、当たっているかもしれない。

聞きたい、聴いて面白いと思うのは解説者(プロ選手、ゴルフジャーナリスト)たちの話である。『フェアウェイでは風はフォロー(追い風)のように感じますが、グリーン付近はクラブハウスの建物に風が当たって回っていてショットの距離感が違ったのでしょう』などといった実践的な話を…。

「今年50歳でシニアデビューし、腰痛をかかえながらも善戦するフレッド・カプルス」「15歳最年少の…」「奥さんとお母さんが癌の病で治療中のミケルソン…」などと、選手が画面に登場するたびに、幾度となく同じ“枕ことば”が繰り返される。

選手たちの諸々の事情は、ゲーム運びに多少なりとも影響を与えるであろう。だが視聴者の多くは、選手の年齢、怪我、家族の病気や死、スキャンダルなどの問題を超えたところで、ゲームをゲームとしてみつめ、感動したいのではなかろうか。

番組の視聴率稼ぎのための姑息ともいえる手段は、むしろ視聴者の気持ちを萎えさせる。番組の冒頭に流される必要以上にドラマチックな選手紹介も、全英オープン開幕時の売れっ子タレントによる“露払い”もいらない。(こんなときTVの録画機能は助かる。CMももったいぶった演出もスキップできる。)

もうひとつ気になるのは、ことばを仕事とするキャスターたちの、決まり文句に頼るボキャブラリーの少なさである。

『バーディーパットを“モノにする”』(ちょっと下品?)
『優勝争いは混戦模様』(最終日でもない初日から?)
『充分(なショット)です』(どう充分なの?)
『いいパットですねぇ』(入ったから?)

世界のスポーツ中継で共通している(たとえば韓国人選手の)名前を、わざわざ英語読みにして誰だかわかりにくくしてしまう放送局。オー・ジヨン選手がオ・ジーヤンになってしまう。
試合やそのスポーツの本質とあまり関係ないエピソードで放送時間の大半を費やしてしまうコメンテーター。
そばに解説者がいるのに、技術論を披瀝する司会者(それがときどき間違っている)。

憂鬱の種は数え上げればきりがないけれど、私たち視聴者が望むのは実はシンプルなことなのだ。スポーツをスポーツとして扱ってほしい。選手たちの質と同等とまでは行かなくても、ゲームをゲームとして淡々と扱い、もっと勉強して本当の意味で中継の質に気を配るキャスターであってほしい。

選手たちのドラマは、ゲームの合間に彼らを取り巻く事情が必然として垣間見えてくるときにこそ伝わってくるのではなかろうか。意図しない本当のドラマが…。
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