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年の暮れ、奥那須で想う |
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| 2006年1月1日 |
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 | 時津 寿之 [ときつ としゆき]
１９４５年、九州にて誕生。２０１０年４月６５才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子２人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。 |
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| ▲ 雪に埋もれてしまいそうな露天風呂、中に入ればあったかい。 |
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| ▲ 雪に埋もれた旅館、ロビーの窓からの眺め。 |
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| ▲ 部屋の窓からの眺め、谷の向かい側の雪の斜面。 |
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奥那須の茶臼岳の麓の谷間にひっそりと「大丸温泉旅館」はあった。今年はことのほか大雪で、シャトルバス終点の駐車場からさらに坂道を上り下りするのだが、その間200Mくらいを旅館の車に乗らねば辿り着けないのだ。坂道は凍りついているし、地吹雪が激しく雪煙りを巻き上げるのだ。
やっとの思いで部屋までたどりつくと、適度に暖房が効いて快適でほっとした。
早速雪混じりの烈風吹きすさぶなか、大露天風呂へ飛び込んだ。お湯がややぬるい、しかし湯口のあたりは熱いお湯がこんこんと湧いており心地よい湯加減である。
こんな時の露天風呂では、あごまで湯につかりじっとしているに限る。移動する時も、鼻先から上を潜望鏡のように出したまま潜水艦よろしく、しゃがんだままでなければならない。下手するとタオルも髪も凍る寒さなのだ。
この露天風呂は「川の湯」といわれ、奥那須の源泉から湧き出す豊富な70度のお湯の川を、そのまま玉砂利を敷いた露天風呂へ引き入れ、旅館の中を流れる川がそのまま露天風呂となっている。澄み切った無色透明の単純泉で、さらさらとして気持ちのいいお湯が露天風呂にも内風呂にも常に溢れている。
部屋に戻って驚いた。浴衣が大中小と3種類、それぞれ3枚づつ用意してある。温泉での湯治の際、１日に何度も湯に入るため汗をかきやすく、着替えをしたくなるのだが、前もって用意してあったのは初めてだった。
激しい雪と風は滞在した３日間衰えることは殆どなかった。終日部屋にとじこもり、心行くまでお湯に浸かり物思いにふけった。
昭和２０年生まれの僕は今年還暦を迎えた。節目ということでいくつかの同窓会も開かれて、懐かしい旧友達とつかの間の再会を楽しんだりもした。正月早々には生まれ故郷の九州での小学校時代の同窓会にも参加する予定だ。
思えば僕は、初めてこの国が外国との大きな戦争に敗北した年に生まれた。かって僕が通った幼稚園の前を長崎本線が通っていたが、その列車から時々米兵が気まぐれにガムやキャンデーを投げた。何も分からぬ僕らは喜んでそれを拾っていた。幼稚園の先生から止められた記憶はない。
小学校では、今では猛毒といわれるDDTを頭からふり掛けられたこともあった。20年に生まれた僕の少し哀しく苦い思い出だ。
そんな僕らがよく60年も無事生きてきたと思う。還暦を過ぎるとまた新たな人生が始まるという。来年はもっと自由時間が増えるような生活にしたい。
海外は当然だが、この日本にもまだ僕の見知らぬ世界が沢山ある。これからも可能な限り、内外を問わず多くの場所を訪れ、多くの人々の生活を見てみたい。
芭蕉は野ざらしとなることも覚悟して旅に出て、最後は旅の空で病んで、その夢は枯野をかけめぐることとなった。
伊能忠敬は50を過ぎて数学や天文学を学び、おのれの知的好奇心の赴くまま、老体に鞭打って国中を歩いた。
先人達のように大それたことが出来るわけでもないが、見知らぬ世界を旅したい、という情熱は僕も負けない。その憧れはもう僕にとって痛切な思いとなっている。
白い雪と冷たい風の中で、心地よい温泉に浸かっているるとじんわりとあったまり、来年はもっといいことがありそうな予感に僕の心は満たされ、嬉しくなってきた。
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