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僕の偏見紀行
22 春の東北ローカル線の旅
2005年5月16日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ しらかみ号の津軽三味線ライブ風景
▲ 津軽鉄道線の終点、旅の終り、レールが途切れている。
▲ 「走れメロス号」文庫、どんな人たちが読むのだろう。
 今日は憧れの「リゾートしらかみ1号」に乗る日。秋田駅前のホテルで早めの朝食を済ませ、いそいそと駅へ向かう。顔が自然にほころび、それをを抑えるのに一苦労。

 ホームには既にしらかみ号が入線していた。満席のはずが秋田から乗り込む人は案外少なく、空席が目立つ。五能線の能代あたりから多くなるのだろうか。

 指定された席に荷物を置いて早速先頭車へ向かう。そこは車両の先端部がラウンジとなっており、自由に寛げるスペースとなっている。運転席の右側には大きな窓ガラスが広がり、進行方向が大スクリーンとなって迫ってくる。

 そのまん前に素早く陣取り出発を待っていると、学生風の若者や熟年のご夫婦など、同好の士らしき人たちが大勢詰め掛けてくる。みんな嬉しそうに、電車の窓にしがみついて喜んだ子供の頃に返っている。そう思って見るとみんなあどけない顔つきになっていた。

 列車は左手に日本海、右手遠くに白神山地を望みながらゆっくりと進んでいく。五月晴れの空はあくまでも青く、また日本海も青い。波頭が白く砕けては、春の光の中で眩しく輝いている。しらかみ号は速度よりも旅情を楽しむ列車なのでゆっくりと走る。これが列車の旅なのだと心から実感する。しかもわずか510円の指定券で楽しめるのだからたまらない。

 ラウンジでは鯵ヶ沢を過ぎたあたりから津軽三味線のライブが始まる。これも楽しみの一つで、本場で聞く津軽三味線に期待が高まる。年配の男女ふたりの演奏であったが、ユーモラスな語り口のやさしい東北弁と、太棹の三味線の激しい響きが胸に迫る。

 ゴトゴトン、ゴトゴトンというレールの単調な響きが、通奏低音となり、激しく弦を叩く撥の、哀調を帯びながらも力強い音色にからみつき、ジンジンと僕の心を揺さぶり、鳥肌がたってくるのだった。

 津軽三味線に夢中になっているうちに五所川原へ到着、ここから「津軽鉄道線」に乗り換える。冬場はストーブ列車となることで有名な路線で、五所川原から終点の津軽中里まで20.7kの旅である。

 途中「太宰治」の生家がある金木を通るため観光客も多い。列車は1両編成のディーゼルカーで少々古いが「走れメロス号」と書かれた標識を付けて頑張っているのだ。

 五所川原を出ると、春たけなわの日差しに輝く津軽平野がのどかに広がっている。あまりに平和な風景が続き、冬場の凄まじい地吹雪の厳しさなど想像もできない。途中傾きかけた無人駅などを通り終点の津軽中里へ到着した。

 ホームの端からレールの行く手を眺めると行き止まりで、まさしく終点であった。ずっと続いたレールが途絶えるのを見ると、いかにも地の涯まできたという思いで胸が一杯になってくる。

 駅前は閑散として、春の日差しの中でタクシーが1台だけ静かに客待ちをしている。駅舎に同居しているスーパーは閉まり、事情により閉店する旨の挨拶状が風に揺れていた。

 中里から折り返し「メロス号」に乗って五所川原に向かう。この列車の窓際にはミニ文庫があって自由に読むことができる。内容は雑多でいろんな本が並んでいた。でも「安部公房」の「砂の女」など、どんな人がよむのだろうか。さすがは太宰を産んだ土地柄だと感じ入った。

 終点の五所川原に着いたのは、もう北国の太陽が傾きかけた頃だった。さすがに列車の長旅に疲れた足を引きずりながら今宵の宿「五所川原温泉ホテル」にようやく辿り着く。
 塩分のきつい熱めのお湯に浸かり、周りの人たちの津軽弁をボンヤリと聞きながら、僕の二日目の旅は終わった。
 
 (続く)
 
 
 
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