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僕の偏見紀行
27 また「再会の時」道後温泉にて
2005年11月23日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 道後温泉本館でご主人を待つお遍路中のワン公。「僕も温泉に入りたいなあ。」
▲  道後温泉本館。明治時代から多くの湯治客を集めている。重要文化財。
▲  湯に浸かったあと風情のある部屋で頂くお茶とお団子。
輪島塗の天目台が立派だった。
 羽田を発つ時は冷たい雨がぱらつく曇り空だったのに、松山空港に着いてみると、南国の太陽が輝く爽やかな秋空が広がっていた。

 恒例の学生時代のクラブ仲間と今年は道後温泉で集まることになった。ほぼ1年ぶりの再会である。本来なら例年の通り6月頃に予定していたのだが、直前に仲間の1人が手術のため入院してしまい11月まで延期となった。

 九州から来る仲間とは夕方宿で合流することにして、なにはともあれ「道後温泉本館」へ向かう。温泉館は温泉街の中央に、築110年の風格を漂わせて木造3層造りの偉容を誇っていた。

 坊ちゃんのひそみに倣い、最上等の、浴衣お茶お団子付き個室、1500円なりを申し込む。ひっきりなしに訪れる客で混雑し玄関脇の待合室で暫く待つことになった。

 ふと待合室から外を眺めると、お遍路さんのワン公と目があった。「同行二人」の菅笠と一緒に自転車の上にチンマリと座って、やや淋しそうに人を待つ風情である。きっとご主人はのんびりと湯に浸かっているのだろう。弘法大師との二人旅に愛犬を伴う同行三人の旅なのだろうか、いいなあ、実に羨ましい。

 この温泉は日本書紀にも現れるほどの歴史があり、建物も明治時代から続く重要文化財である。木造3階の内部は明治そのままの風情を残し、磨り減った狭い階段を3階まで上がって休憩用の小部屋へと案内された。部屋はやや狭いが、凝った彫刻の欄間や縁側の手すりがいい具合に古さびて、実に趣がある。

 僕の部屋の前に、漱石が訪れた部屋が当時のまま保存されており、東京から松山という辺陬の地に、新任教師としてはるばる赴任してきた若き漱石を偲ぶことができる。帝大出のエリートが田舎中学の教師となって、一体どんな想いだったのだろう。

 ここのお湯はやや熱めの単純性アルカリ泉で実に湯量が豊富である。石造りの大きな湯舟に2つの湯口からかけ流しの湯がこんこんと溢れ出し、いくら人が多くても湯舟には新鮮な湯が満ちている。さらさらとした無色透明のお湯にあごまで浸かり目を閉じると、いい温泉特有の新鮮な湯の香りが漂って実に心地よく、気分が晴れ晴れとしてくる。

 部屋にもどると、輪島塗の天目台でのお茶と坊ちゃん団子で寛ぐ運びとなる。この団子が、あっさりとした甘さと滑らかな舌触りの逸品であった。日頃あまり縁のない上品な設えでの一服は、僕の心を豊かな安らぎで満たしてくれた。

 宿で1年ぶりに仲間と再会した。昭和20年生まれの僕らは今年還暦を迎えた。60才前後の1年は短かったけど、僕にも仲間にもいいこと悪いこと様々あった。もう大半が現役フルタイムの仕事からリタイアしつつある。リストラ、子会社への転籍、自営業の不振、子供の結婚、親の介護と見送り。今の時代を吹く風を僕らの仲間も同じく受けてきた。

 10名あまりの仲間だが、既に病その他で2名が亡くなり、リストラや人事抗争などに疲れて一時的に肉体や精神を病んだものもいた。山口瞳だったと思うが、「近年、至近弾の飛来漸くにして多くなる感あり」という意味のエッセイがあったが、同感である。

 しかし胃の大手術をした彼はすっかり快復し、元気に酒を飲みカラオケを歌った。うつに悩んでいた仲間もストレスで髪が抜けた仲間もみんな元気一杯、次は海外に行こうなどと言い合った。

 「みんな元気で嬉しい、また会おう。そのために身体だけはお互い大事にしよう。」つくづくそう思った。

 翌日は松山から内子や大洲といった昔ながらの町並みの残るあたりを散策した。日本で唯一残るはぜの実から作る和蝋燭の工房や、昔懐かしい芝居小屋「内子座」など面白かった。

 柔らかな秋の日差しを浴びながら、古い町並みを背をまるめて歩く仲間達の後姿はとても懐かしく、また、少しもの哀しくもあった。
 
 
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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