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ボーダーを越えて
178 とうとう、きょう
2012年11月6日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
大変ご無沙汰しています。ストレスの溜まる作業と課題を抱えたまま、ここまで来てしまいました。その状況はまだずっと続くのですが、きょうになって、このままではじっとしておられず、ため息混じりの独り言を、ちょっとつぶやきたくなりました。書きっぱなしで練らない文章をつらねることになりますが、思うままに書きますので、お許しください。

じっとしていられないというのは、もちろん選挙のことです。特に大統領選挙。投票日が、とうとうきょうになりました。実は私は8月末の民主党大会までは、うんと気が重かったのです。4年前とはなんという違いでしょう。アフリカ系アメリカ人を大統領に選ぶほどにはアメリカは変わってはいないと疑う気持が強かった一方、ブッシュとは正反対に知性にあふれ、アメリカを本当の意味でみんなのものに変えようという意気にあふれていたオバマに、いえ、オバマを選ぶようなアメリカに、私はやはり希望を持っていたのです。

オバマは対立を嫌うといわれています。対立して衝突を避け、説得しようとする。説得できなければ、妥協しながら前進する、というのがそれまでのオバマのやり方だったそうです。ところが、オバマを蹴落とすことを大目標に掲げた共和党は、オバマと妥協すらしようとせず、最初からオバマを追い込むことにエネルギーを集中してきました。そんな共和党が相手なのですから、もっと思い切った施策を、政治生命をかけてでも打ち出してほしい。共和党に牛耳られた議会ではそれが通らなければ、通らないでもいい。少なくとも直接アメリカ市民に訴えて、理解を求めてほしい。そんなふうに何度思ったことか。

アメリカ経済が上向きになってきても、勤労者の生活にはちっともそれが反映しないということで、オバマに対する批判や不満が増えていきましたが、私はそれはオバマのせいではないと思っていました。保守派やティーパーティーが信奉するレーガン主義が、勤労者の生活を圧迫するアメリカの悪の仕組みの根源だと思っています。が、大統領選挙戦の第一歩として、共和党の候補選びが始まると、反オバマの声がだんだん大きく報道されるようになり、社会保障の最低限の施策をなし崩していこうという動きや、女性の自己決定権はもちろん、健康さえ踏みにじるような考えがおおっぴらに出て来るようになっていきました。アメリカはいったいどこまで落ちていくのだろう、と私はいたたまれなくなったのです。オバマ政権になってから、ドローン(無人攻撃機)による攻撃で殺される民間人が増えていることを考えると、ロムニーが大統領になって再び「偉大なるアメリカ」を唱って軍事政策を強化すると、アメリカは自爆していくでしょうし、その代償を、アメリカ市民だけでなく、アメリカ軍国主義の犠牲になる第三世界の人々も負わされることになるでしょう。それがこわい。

ですから、もちろん私は選挙ではオバマに投票するつもりではいましたが、4年前のようにいそいそと、ではなく、しぶしぶと、と言ったほうがぴったりです。なんと言っても、連邦政府最高裁判所の判事を指名するのは大統領ですから、急速に右傾化している最高裁も、いまかろうじて保守派とリベラル派のバランスが取れているのが、保守派が大統領になったら、最高裁は完全に右派に牛耳られてしまいます。大統領は2期務めても8年ですが、最高裁判事は自ら退職しない限り終身任務ですから、その影響は遥かに大きいのです。リベラル派のルース・ベーダー・ギンズバーグ判事はまもなく退職するでしょうから、だれが大統領になるかは、現在のアメリカだけでなく、将来のアメリカ社会にとっても切実な問題となるのです。ですから、オバマに投票するしかありません。なんて、ずいぶん消極的な態度でしょ。

でも、民主党大会で、みんなが潤う社会をみんなで目指すことが強調され、私にもやっと元気で出てきました。象徴以外のなにものでもない金額ですが、オバマの選挙キャンペーンにも何度か献金し、市長とか、教育委員とか、住民投票という大統領以外の選挙も、これまでになかったくらいまじめに勉強して投票しました。しました、と過去形で言うのは、私は不在者投票に登録していて、選挙日前に投票したのです。それがきょう午後8時以後に開票されるわけです。

共和党側には、大富豪や大企業や金融産業から、膨大な資金が流れ込み、オハイオやコロラド、フロリダなど、接戦が予想される州では毎日オバマ攻撃のコマーシャルでテレビは満載だそうです。カリフォルニアは民主党が強いので、その点では静かです。その代わり、市長や市議会議員の選挙が接戦で、住民投票にかけられている項目もたくさんあり、テレビでコマーシャルが流れ、電話がひっきりなしにかかってきます。(ですから、電話が鳴っても、だれがかけてきたかわかるまで出ないことにしています。)

大企業や金融産業から大金が入って来るのは民主党も同じですが、ほんとうにこわいと思うのは、コーク兄弟(Koch brothers)という大富豪が、あらゆるレベルで政治に財力で介入し、勤労者やマイノリティーの権利を崩していこうとしていることです。(Koch という名前は英語では幾通りにも発音されて、やっかいです。もともとのドイツ語ではコッホですが、前ニューヨーク市長の Ed Koch はコッチと発音されるのに、この大富豪の兄弟はコークと発音されています。)勤労者は数でしか政治力を発揮できませんが、それを打ち壊すために、有権者リストからマイノリティーからはずしてしまうとか、低所得者にはむずかしい投票条件を課すような州法を通過させるとか、ということに背後から財力で推しているのです。票を数えることだって、まるで民主主義が確立していない第三世界の小国のような問題を抱えているということ、世界にはあまり知られていないのでは… 2000年のフロリダでの問題がそのいい例ですが、それは例外的と思われているかもしれませんね。アメリカ人自身がそう思っているようです。

という次第で、万が一オバマが選挙に負けたら、それは大富豪の陰謀のせいだ、そのことを無視して無知のままでいるアメリカ有権者のせいだ、と思うことにしています。

ああ、でも、そうなりませんように。
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