|
|
|
2 |
|
 |
|
アボカドさまざま |
|
2003年1月11日 |
|
|
|
 | 雨宮 和子 [あめみや かずこ]
1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。 |
|
|
.jpeg.JPG) |
|
▲ メキシコの「原始アボカド」(primitive avocados)の面々。品種の名前は特になく、まとめてクリオーヨ(criollo)と呼ばれる。もちろん、みんな食べられる。 |
|
 |
|
▲ トーマス・ロイドンの農園で、たわわに実るアボカドを見上げるトリキ族の労働者、ホエール。 |
|
|
前回のメックスフライの話で、アボカドは皮が硬くて、西洋ナシの形をしていると言いましたが、厳密に言うと、それは正しくない。自分で言っておきながら自分で否定したりしてすみません。ただ、桃とかリンゴのようなお馴染みの果実と対比するつもりだったのです。
実は、アボカドには皮が柔らかいのもあるし、形も西洋ナシのように細長いものばかりはなく、ソフトボールぐらいの大きさでまん丸いのもあれば、フットボールのように巨大で長いもの、逆に親指大の小さいのもあるのです。日本の市場で見かける皮が硬くて西洋ナシの形をしているのは、ハース(Hass)というたまたま世界中に広まっている品種です。ハースは熟すと黒くなりますが、熟しても黒くならない種類もあり、熟さなくても最初から黒いのもあれば、黒と言うより紫色のようなのもあります。味も多様で、脂肪分たっぷりでまさにマグロのトロのようなものもあれば、比較的さっぱりした口当たりのものもあり、もっと水っぽいのや、筋っぽいのもある。とまぁ、本当に多種多様なのですよ。
ポテトも、原産地のアンデス山脈地方には、色も形も味もそれぞれ違う種類が何百とあるそうですね。いや、植物に限りません。ネコ科にだって、ライオンのように大きいのから家猫のように小さいのまで、黒彪のように真っ黒のものもトラのように縞模様のものなど、いろいろいますよね。いえいえ、我々ホモサピエンスをご覧なさい。皮膚の色やサイズや体型など、さまざまでしょう? アボカドもそれと同じです。
アボカドはクスノキ科(Lauraceae)に属します。(クスノキ科で実が食べられるのはアボカドだけ。)Lauraceaeという名前からおわかりの通り、クスノキ科には月桂樹も含まれます。なぜアボカドが楠や月桂樹の仲間なのか、私にはもちろん、アボカドについては何でも知っているはずの連れ合いにもわからないとか。(不勉強です。ごめんなさい。)ホモサピエンスに人種(race)があるように、アボカドも大きく3つの種類(英語ではこれもraceといいます)に分類されます。(分類の話など退屈かもしれませんが、いまこれを知っておくと、この後に続いていく話がわかりやすくなると思うので、我慢して読んでください。)
1つはメキシコ系。そもそもアボカドの発祥地はメキシコ南部。人類の発祥地のアフリカでは人間の多様化が一番進んでいるそうですが、アボカドも同じ。とはいえ、メキシコ系アボカドの皮は、どれもが薄くてスベスベしています。葉っぱを砕くとアニス(anise)という香料のような匂いがするのもメキシコ系の特徴です。次はグアテマラ系。メキシコ系よりも大きめで、皮が固くてゴツゴツしています。もう1つはウェストインディ(西インド諸島)系。といっても、原産地はグアテマラの海岸沿いで、そこから西インド諸島に渡ったようです。薄緑色のスベスベした皮で、特徴は大きいこと。1個の重さが1キロぐらいのもあるんですよ。
この3種からたくさんの雑種が生まれています。お馴染みのハースは、メキシコ系とグアテマラ系の雑種。世界中にはいま、500種のアボカドがあるそうです。
連れ合いのアボカド園には常時10人ぐらいの労働者が働いていますが、全員がメキシコ人。メスティーソ(メキシコ人口の大多数を占めるスペイン人と先住民の混血)がほとんどですが、ワハカ(Oaxaca)州山岳部出身のトリキ(Trique)族という純粋の先住民族の人もいます。いまだにトリキ語を話していて、年配者はスペイン語がカタコトしかできません。彼らの故郷のアボカドは、ハースと同じくらいの大きさで、皮は薄くて黒いそうです。
トリキ語でアボカドのことはなんていうの?と聞いたら、教えてくれたのですが、何度聞き直しても「フナッ」としか聞き取れない。どうもよくわからないので書いてもらったら、「rena’a」でした。それを「レナア」なんて発音しても通じない。口の奥の喉の近くで「フ」と言って「ナッ」と続けた方が通じました。でも、スペイン語で言えば、これもアワカテ。
余談になりますが、アボガドは現代スペイン語では男性弁護士のことだと前回言いましたね。でも、スペインに女性弁護士がいないのではありません。女性弁護士のことはアボガダ(abogada)といいます。「アボカドを食べる」と言うつもりで、「アボガダを食べる」と言い間違えることはありませんよね。
|
|
|
|