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僕の偏見紀行
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
2006年9月2日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 尾瀬ケ原を吹き渡る爽やかな風。もう尾瀬は秋の気配だった。
▲ ヒツジグサを浮かべた池塘。昔習った漢文に「未だ醒めず
池塘春草の夢」とあったと思うが、池塘という言葉が今でも実際に使われているとは知らなかった。
▲ 水上温泉からの帰途、立ち寄った榛名湖畔は「ユウスゲ」の季節だった。詩人立原道造が愛した可憐な花はその名の通り、宵闇のなかでひっそりと咲いていた。
 水上温泉の宿からシャトルバスに乗り込んで鳩待峠を目指す。総勢15〜6名の乗客にボランティアガイドのマツモトさんが乗っている。太平洋上の台風の影響で今朝の天気予報はあまり良くなかったが、マツモトさんがネットで検索したところ尾瀬方面、特に福島側には晴れ間もあるということで一安心。

 宿から1時間半ほどで尾瀬の入り口鳩待峠へ到着した。標高1600mの鳩待峠は流石に涼しく、曇りがちの空の下で茶店ののぼりが風にはためいていた。

 ここから尾瀬ケ原へ向けてトレッキングの開始だ。ガイドのマツモトさんにくっついて歩き始めた。まず鳩待峠から標高差200mを降り、3.3k先の山ノ鼻を目指す。
 
 鳩待峠へ向かう人達が僕等とすれ違いながら登って行く。みんなかなり辛そうだ。それを見ながら往きはいいけど帰りが大変だな、と心配になった。

 ブナ・ダケカンバなどの森を抜けて川上川の綺麗な流れを渡ると山ノ鼻だった。ビジターセンターやロッジ・茶店などがあって、さながら尾瀬トレッキングのベースキャンプの趣きである。「花豆のジェラード」などという魅力的なのぼりもはためいているが、それは帰りの楽しみということにして我慢した。

 行程の都合で昼食時間は25分しかとれなかったが、マツモトさんの後について張り切って出発した。彼は「尾瀬ネイチャーガイドの会」に所属するボランティアガイドであるが、普段は公務員をしているユーモア溢れる人柄で、失礼ながらあまり公務員向きではないと感じた。

 現在マツモトさん達は尾瀬の世界遺産登録を目指して頑張っているが、いろんな問題があってまだまだ大変らしい。一度遺産登録の審査員が海外から来たが、茶店にはためくソフトクリームののぼりを見て、あれは何だと問い詰められ返答に窮したとか。茶店やロッジは多くの人に尾瀬を楽しんでもらうには欠かせないし、マツモトさんたちの悩みは尽きない。

 山ノ鼻から2.2kの牛首を目指す。ここからは平坦な木道を快適なトレッキングとなる。木道は材料をヘリで運搬するため、1本あたり12万円もかかるらしい。1歩あるく毎に「2万円、2万円」と思って下さいとマツモトさんが言う。

 心配していた空模様も青空が見えてきた。午前中は雲に隠れていた至仏山の頂きが綺麗に見える。一面に緑の湿原が広がり、その周りを遠く山すそや森が縁取り美しい。吹き渡る風が爽やかで汗ばんだ体に心地よい。木道をひたすら歩き、足腰に疲れを感じるけど歩き続けるのが苦にならない。

 40分くらいで牛首に到着、一息入れる。ここは湿原のなかの分岐点のひとつで、近くに見える山の端が牛の姿に似ているからそう呼ばれるのだとか。

 マツモトさんは余力のある人は次のポイント竜宮まで行きましょうという。2k、30分ちょっとの行程だ、頑張ることにした。

 途中マツモトさんにいろいろ教わる。尾瀬には大小合わせて約500もの「池塘」がある。これは池や沼と成長過程が異なり、年々その水深は深くなると云われている。

 目指す竜宮にもその由来となった池塘があり、その底は竜宮城に通じているとの言い伝えがあった。ところがある日NHKが取材に来て、水中カメラを持ち込み潜ったところ、近くの池塘にたどり着き、竜宮城は夢と消えた。いかにもNHKらしい「こころなき業」とマツモトさんは嘆いた。
 
 この池塘には、ヒツジグサという可憐な水草が浮かび、その花はこぶりの睡蓮を思わせとても美しい。

 竜宮に向けひたすら歩くとやがて雲の合間に燧ケ岳が見えてきた。雨の後の澄み切った大気の中で、濃い緑の山肌が美しい。同じ日に至仏山と燧ケ岳のくっきりとした姿を望めて幸せだとマツモトさんと喜んだ。

 吹き来る心地よい風と可憐な野草に元気をもらい、なんとか竜宮までたどり着くことだ出来た。鳩待峠から約7.5k、標高差200mの道のりを来たのだ。茶店で一休みの後、また同じコースを戻ることにする。峠発16時のシャトルバスに遅れたら大変だ。ピッチを落とさずひたすら歩く。

 山ノ鼻で「花豆のジェラード」に元気付けられ、鳩待峠への急坂を登る。歩き詰めの後に200mを一気に登るのは流石にこたえた。途中の湧水では、汗みずくの体で冷たい水を思い切り飲んだ。こんなに旨い水を飲んだのは何年ぶりだろうか。

 鳩待峠に着いたのは15時半過ぎ、往復15キロ・標高差200m、約5時間の行程は僕にとって久しぶりの山歩きであったがなんとか歩き通すことができた。

 大地を踏みしめ、大自然に直接触れながら歩く楽しみは何事にも変えられないほど大きかった。体は疲労困憊したが、心はとても元気になった。
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81 シルクロードの旅(4)ブハラへの道
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78 シルクロードの旅(1)タシュケント到着
77 小笠原の旅(7)惜別
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75 小笠原の旅(5)母島列島
74 小笠原の旅(4)宝石の島、南島
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
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67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
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53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
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50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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43 北東北ローカル線の旅 (4)津軽じょんがらの夜はふけて
42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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