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メックスフライ |
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2002年1月1日 |
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 | 雨宮 和子 [あめみや かずこ]
1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。 |
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▲ そろそろ収穫できるくらいに大きくなったアボカド(ハース)。 |
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▲ 農園でアボカドの木の下に立つのは連れ合いのトーマス・ロイドン。 |
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2002年の11月から12月にかけて、私の住んでいるサンディエゴはメックスフライで大騒ぎになりました。フライといっても揚げ物のフライ(fry)ではなく、飛ぶ方のフライ(fly)、つまりハエのこと。メキシカン・フルーツ・フライ(Mexican Fruit Fly=「メキシコ果実ハエ」)の略称です。
このハエは果実にこっそり針を刺して卵を産みつけ、外見は見事な果実も中身は幼虫だらけにしてしまうのです。その犠牲になる果実は40種類以上に及ぶので、いったん増殖を始めると大被害が出る。そんじょそこらのハエなど比べものにならないほど恐ろしいものなのです。なんと、このメックスフライの成虫と幼虫が11月21日、サンディエゴ郡北部にあるバレーセンターという所にあるグレープフルーツ園で発見されたのでした。
発生区域が確認された12月5日、バレーセンターの果実は一切移動禁止になってしまいました。メックスフライが4世代交替分の月日の経過を待って、完全に消滅したことを確認しなければ、果実移動禁止措置は解除されません。とすると、どんな処置をしたとしても撲滅確認には8ヶ月はかかります。この間、バレーセンターの果実はいっさい出荷停止となり、被害予想額は750万ドルにもなりそうです。12月18日にはカリフォルニア州が非常事態宣言を発動しました。
同じサンディエゴ郡でアボカド園を経営している私の連れ合いはヒヤヒヤしています。その地域でメックスフライが1匹でも見つかったら、連れ合いのアボカドも全く出荷できなくなってしまいますからね。(そう、アボカドは果実なのです。)目下のところ、メックスフライの発生区域は広がっていませんが。
果実を襲うハエには、メックスフライの他に、メディタレイニアン(Mediterranean=地中海)フルーツ・フライやオリエンタル(Oriental=東洋)フルーツ・フライがいます。トマトやマンゴウなど、皮の柔らかい果実が格好の標的です。皮の硬い果実にも卵を産みつけるのは、原産地がメキシコのメックスフライだけ。皮の硬い果実、つまりアボカドも原産地はメキシコですから(グアテマラもそうですが)、ハエが原産地の食糧に順応進化したのです。
そもそもアボカドという名前はメキシコ中央部に帝国を築いたアステックのアワカトル(ahuacatl)に由来します。アステックを征服したスペイン人が、アワカトルの不思議な魅力に引かれてヨーロッパに持ち帰ったとき、アワカトルという音に近いアボガド(abogado)と呼んで紹介したそうです。が、現代スペイン語ではアウァカテ(aguacate)。ポルトガル語ではアバカテ(abacate)、フランス語ではアヴォカ(avocat)、イタリア語ではアヴォカド(avocado)といいます。
英語もアヴォカドですが、年輩のイギリス人がアリゲーターペア(alligator pear)と呼ぶのを聞いたことがあります。ジャマイカにいたイギリス人がそう呼んでいたことの名残りのようです。アボカドの皮がゴツゴツしたアリゲーター(ワニ)のようだからという説もあれば、アリゲーターがアワカトルの音の代わりなのだという説もあります。ペアとはもちろん西洋ナシのこと。たしかに、多くのアボカドの形は西洋ナシに似ていますね。
同じ現代スペイン語でも南米(特にペルー、ボリビア、アルゼンチン、チリ)では、パルタ(palta)と呼ばれます。アボカドは遥か昔(と言ってどのくらい昔でしょう)、原産地から南米北部にまで広がっていきました。1450年にインカ帝国がエクアドルのパルタス地方に侵攻していったとき、インカ王がそこに生えていたアボカドをいたく気に入り、ペルーに持ち帰ったとか。それでケチュア語でパルタと呼ばれるようになったことが始まりだといいます。
ところで、日本ではいつの間にかアボカドの「カ」の音が濁って、アボガドと呼ばれることも多いようですね。でも、現代スペイン語ではアボガドは(男性)弁護士の意味。「アボガドを食べるのが好き」などと(特に女性が)言ったら、スペイン人は目を白黒させるでしょうね。
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