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僕の偏見紀行
211 なぜかベトナム(9)市場食堂
2016年8月14日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ホイアンで見かけたカップルの撮影風景。結婚のメモリー。
画面左奥の赤っぽい壁は「日本橋」の入り口
▲ 佳境に入った撮影はついに川の上へ。この後、カップルは寝そべるポーズをとったが、あまり美的ではなかった。
▲ 骨董や雑貨をあつかう土産物屋の店頭。職人が古い装飾品を修理していた。
2年前にホイアンを訪れた時、ホテルの近くに新しい食堂が出来ていた。大きな食堂で、ショッピングモールのフードコートみたいな造りである。

ホール中央にテーブル席が並び、壁際にはホイアンの伝統料理のコーナーがいろいろ並んでいる。市場の屋台で食事する、そんな雰囲気の食堂だ。

前回はこの食堂に気付いたものの、何回も利用する機会がなかった。それより旧市街の人気レストランやホテルの食堂が気になったからだ。今回はこの食堂をじっくり味わってみたい、そう思っていた。

あらためて夕食時に訪れて驚いた。以前にも増して客が増えている。開店して間もない時間なのに、そこそこテーブルは客で埋まっている。コーナーによっては観光客向けの料理教室が開かれ、欧米人グループがなれない手つきで、しかし嬉しそうに粉をこねている。

席につくとすぐに若い女が注文を取りに来た。手にしたタブレットで手際よくメニューを説明する。僕はその中の「労働者の定食」というのが気に入った。

10数種類のお惣菜料理から、好みで3種選び、それにご飯とスープや副菜がつくという、ベトナム庶民の定食のようだ。ホイアンの家庭料理と白いご飯が魅力的だった。「労働者・・」というネーミングはベトナム庶民の味ということだろう。

家内の頼んだ麺料理はすぐに来たが、僕の定食は一向に音沙汰なかった。僕はコーナーに並ぶお惣菜の中から自分で選ぶつもりで待っていたが、ようやく女が持ってきたのは既にプレートに盛り付けられた定食だった。

話が違うと女に文句いうと、全種類揃うには時間がかるため、出来たものを適当に持って来たらしい。無いものはどうしようもない、と少しも悪びれることなく女はと平然としている。

自分で好きな惣菜をあれこれ選ぶのが楽しみで注文したのに、適当に持ってこられてはたまらない。自分で好きなものを選びたい、僕は女にそう言った。

それからはお互い下手くそな英語の言い争いとなった。相手の言い分なんか聞く耳持たず、互いに言いたいことをまくしたてた。もともとお粗末な言語での論争だから、決着がつくはずが無い。

不毛な論争に疲れた僕は、もうお前なんかと話したくない、と女を追い払った。テーブルには冷めかけた定食が虚しく残っている。いまさら新たに注文するのも業腹だし、腹も減ったし、仕方なく僕はそれを食った。まずくは無かったが旨いはずもなかった。

またしても年甲斐も無く大騒ぎをやった。冷静に考えればこの市場食堂、そんなに捨てたものでもない。いや手軽にホイアンの味を楽しめ、旅行者には便利な食堂だ。僕らはその後も何度かここで食事した。

勿論ここに限らず、旧市街にはこの他にも沢山の食堂やカフェがあり、散策の合間にちょっと一休みするのに事欠かない。歩き回って疲れたら目についたカフェでお茶を飲む、これもホイアンの楽しみのひとつだ。

お土産を探しに出かけた日、雑貨や小間物の店であれこれ探した後、昼時に入ったカフェは混んでいた。僕らは2階建ての屋上席に案内された。

席に着くと、僕らの横手と向かい側に二組の日本人の若夫婦がいた。しかもそれぞれ一人ずつ同じ様な年恰好の幼子を連れている。ホイアンで日本人の個人旅行者を見かけることは少なかった。まして幼子連れの若夫婦は初めてだ。

幼子連れの海外旅行は何かと大変だと思うが、二組ともごく当たり前のように子供をあやしつつ食事を楽しんでいる。僕らの若い頃、海外への個人旅行は珍しかった。まして子連れ旅など考えもしなかった。日本も豊かになった、いい時代になったものだ。

僕らは知らずに入ったが、そのカフェは「地球の・・方」にも載っている有名店だった。マンゴータルトというスイーツが人気らしい。僕らもデザートに注文した。それは熟したマンゴーの果肉をたっぷり使った、優雅な花のかたちをしていた。一口含むと独特の香りと濃厚だけど爽やかな甘みが、一杯に広がった。

と、ここまで書いてふと思った。旅先で旨いものを食った話など、他人が読んでも面白くもなんともないだろう。ベトナムに来るとこんな話が多くて申し訳ないことだ。

そういえば、旧市街でちょっと面白い光景に出会った。それは観光客で混雑する旧市街の中心あたりだった。着飾ったカップルが人ごみの中でポーズをとり、それを大型カメラで男が撮っている。

観光客の記念写真か、と思ったが、様々なポーズで何枚も撮り続ける。よくみるとカメラの男の傍らには数人のお供が控えている。その中の一人の男が時々カップルやカメラマンに何か指示している。

衆人環視の中、カップルは嬉々としてポーズを決め、周りの目などまったく気にしていない。僕もようやく分かった、これは結婚記念の写真なんだ。指示している男がディレクター、その他は助手のようだ。

日最近はこんな写真を撮るのがはやっている、と聞いてはいたが、こんな人ごみの中で、観光客の好奇の眼差しにさらされながら、あっけらかんと楽しげに振舞うカップルに、つくづく時代と文化の違いを感じた。

時間とともにカップルは大胆になった。あろうことか、白昼堂々と抱き合い、さらには小船に乗り込んで寝そべったり、大胆不敵、神をも恐れぬ振る舞いにおよんだ。寝そべるカップルを撮るにはカメラマンは腹ばいになるしかなく、ディレクターは艫で小さくなっていた。

その有様を曇り空の下、多くの観光客が喜んで眺めていた。なんと物好きな連中と思いつつ、僕らもその中にいた。

その人だかりのかたわらで、「日本橋」から少し離れた、支流とトゥボン川が交わるあたりに、一艘の小船が舫ってあった。小船には一人の老人が、釣竿を手に川面を眺めている。みごとな髭をたくわえた老人のシルエットはまさに絵になる、観光客はチャンスとばかりにシャッターを切っている。

ところがその後何時来ても、その老人と小船は同じ場所にあり、老人のシルエットは変わらなかった。毎日同じだなと見ていたら、老人は観光客にひとしきり写真を撮らせた後、チップを要求した。これもホイアンビジネスの一つだった。

世界遺産として人気の高いホイアンには何でもありだ。観光客が喜ぶものがいろいろ揃っている。こんな至れり尽くせりの観光地を嫌う旅人もいるだろう。しかし僕は、便利で面白いならいいではないか、と気に入っている。(続く)
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60 南会津の旅 弁愡浚村)
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