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ボーダーを越えて
179 選挙に映ったアメリカの顔
2012年11月10日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
前回に引き続き、思うままに文章を連ねるだけで、失礼します。

選挙が終わり、なんだか時間がゆったりと過ぎていく感じです。4年前のように新しい歴史のページがめくられたという感動はないものの、今回の選挙ではアメリカ社会の深いところが変化していることが反映されているのが確実に感じられ、4年前とは違った静かな感慨をじっくりと味わっています。

オバマが再選されたから、というだけではないのです。再選が予想していたより早く決まったから、ということだけでもありません。政治に(ということは、経済にもですが)発言力を発揮するには投票しかない一般庶民が、投票権はアメリカ人としての基本的な権利という意識を強く持って積極的に参加したこと、そしてそれが目の当たりに選挙に反映されたからです。

たとえば、開票がいちばん最後まで遅れたフロリダ州では、長い列ができて投票するまでに何時間も待たなければならなかったという人々が続出。投票所が閉まる前に列に並んだ人は投票できるので、全員が投票を終えたときには(東海岸時間は)夜中になり、ロムニーが敗北宣言を出し、オバマが勝利演説を済ませていたとか。そんな状況でも、投票することの意味を重視したアメリカ有権者に、私は敬意を表したい。そして、いまだに失業率が高いのにも関わらず、目先の生活だけにとらわれずに、もっと視野を広げて判断したアメリカ選挙民に、私はこれまでになかった敬意を感じています。

しかも、庶民(その中でも特にマイノリティー)を標的にした投票妨害策を保守の右派が接戦が予想された州で設けたり、政敵つぶしのためならどんな汚い手段をもどんどん使い、選挙に勝つという「業績」を上げてジョージ・ブッシュを大統領に仕立て上げたカール・ローブが、反オバマのために富豪層から巨額の献金を集めてオバマ中傷のキャンペーンを繰り広げたことに抵抗して、オバマ支持者や民主党支持者がボランティが地道に選挙民を訪れ、投票することの重大さを説いて歩いた、という草の根の力が、ものを言った。それはオバマの勝利というより、アメリカ庶民の勝利なのではないかと思います。

一口にアメリカの庶民と言っても多様です。いえ、多様なのがアメリカ庶民全体の姿だといえるでしょう。民主党大会でもそうでしたが、投票後の夜、シカゴのオバマ選挙事務所の近くの大会場に集まったオバマ支持者たちは、まさに人種のサラダボウル。これがアメリカの顔なのです。しかも若い層は圧倒的にオバマ支持であることに、もっと希望が持てます。それに対して、ボストンのロムニー選挙事務所近くのホテルに集まったロムニー支持者はほとんどが白人のビジネスマンとその配偶者。共和党大会も白人に占められていました。

選挙後、共和党がラティノと呼ばれるラテンアメリカ系人を無視してきたことが敗北につながったと指摘されています。無視どころか、犯罪人か劣等民族と見なすような発言が続いたのですから、ラティノの70%以上がオバマに投票したのも当然と言えましょう。ラティノは人口がどんどん増えているというのに。

女性投票者も半数以上がオバマに票を投じています。それだけではありません。上院でも下院でも女性候補者がこれまで以上に当選し、女性議員の数が増えました。さらに、レイプの場合でも妊娠中絶に反対する発言をしたミズーリ州とインディアナ州の共和党上院議員候補は落選しました。

サンディエゴの市長選挙も接戦だったのですが、でもこれまでのパターンが破れて、民主党候補が市長に選ばれました。共和党候補はゲイであることを最初からオープンにしていたのですが、そのことはまったく問題になりませんでした。現在の市長は共和党ですが、娘がレスビアンで、その娘のために、カリフォルニア州でゲイ(およびレスビアン)同士の結婚の合法化を涙ながらに訴えたことがあります。メイン州とワシントン州では、住民投票でゲイ同士の結婚の合法化が通過しました。オバマもゲイ同士の結婚の合法化を支持しています。ここにもアメリカ庶民の考え方が確実に変化していることが伺われます。

さらに、カリフォルニアでは経費削減によって教育費も大幅に減らされることに対応して、限られた年数だけですが、消費税と所得税を上げて教育費に充てるというブラウン州知事主導の住民投票が通過しました。税金大嫌いのはずのアメリカ人が、経費削減の大勢に逆らって、教育のために税金を上げることを承認したのですから、これはやはり特筆に値します。

今回の選挙では、アメリカ中がその行方に息を呑んだと言えます。私も、この夏までは、革新政策を大胆に推し進めようとしないオバマと、急進右派に牛耳られていくアメリカの政治にすっかり落胆していたのですが、民主党大会以後はアメリカを見直そうという気になり、一生懸命投票し、選挙結果を見守りました。

といっても、すべてバラ色というのではありません。下院は相変わらず共和党の、しかも急進右派に占められていますし、エネルギー産業は地球温暖化を否定するために財力を駆使して、環境問題の議論さえ押さえ込んでいます。(前回触れたコーク兄弟はその最たるものです。)庶民が力を発揮したとはいえ、さらにその下で喘ぐ貧困層は無視され続けていて、そこから抜け出す政策が議論されたことすら、近年はありませんでした。アメリカの住民みんなが前進できるような社会を生み出すためには、下からの突き上げが必要でしょう。私にはアメリカ人という認識はありませんが、アメリカ社会に住む者として、その責任をとらなくては、という気持はあります。


余計な付け足しですが、昨日オバマ選挙事務所から発表されたビデオが、きょうはテレビのどのニュースでも取り上げられています。投票日の翌日選挙事務所に立ち寄って、700人ものスタッフやボランティアたちに感謝の意を表していて涙を流したもので、すでに日本でも報道されているようですね。そのあと、オバマはその700人余の1人1人と握手し、抱きしめたそうです。

そして、さらに余計な付け足しに(そして少々意地悪に)なりますが、これもアメリカのネット上で広がっている報告で、投票日当夜、ロムニーが敗北宣言をした途端、ロムニーを支えた組織は解体が始まり、その夜遅く帰宅すべくタクシーに乗ったスタッフたちは、キャンペーン用のクレジットカードがもうすでに使えなくなっていることを思い知らされたそうです。ロムニーの人となりが、こんなところに表れていると思いませんか。こんな男が大統領にならなくて、ほんとうによかった。
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