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僕の偏見紀行
229 またもやベトナム(9)ホイアンの日々
2017年10月2日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ハナウタまじりに楽しそうにベッドの花飾りを造る娘さん。
▲ 別の日にはこんな作品も
▲ 黄昏時の旧市街。ホイアン名物の提灯が輝き始める。週末には提灯祭りが行われ、街中が提灯で一杯になる。
トゥボン川のほとりにあるホテルの一日はポンポン船の響きで始まる。夜明け前の、未だ暗い空の下を小舟が通り過ぎていく。部屋の窓からのぞくと、薄墨色のぼんやりとした風景の中を小舟の小さな灯りが川を下るのが見える。

この時間の小舟は旧市街はずれの市場を目指している。船には漁師の夫婦が乗っているはずだ。朝一番に市場に魚を売りに行くのだ。

漁をするのは夫、市場で魚を売りさばくのは妻の役目。以前早朝の市場見物に出かけた時、荷揚げした魚を挟んで激しくやりあう女たちの取引を見た。

売り手も買い手も女、その気迫に満ちた取引に男の影はなかった。妻が仲買人と丁々発止の商いの最中、夫は岸壁につながれた小舟でおとなしく待っていた。

次第に空が明るくなってくると、行き交う船も多くなる。バイクや人を満載した船はディーゼルエンジンを響かせながらやってくる。付近の小島や中州の村からホイアンの街へ働きに行く人々の通勤船だ。

空と川の色は刻々と変化し、日が昇るつれ、岸辺のヤシの緑が鮮やかになる。こうしてホテルの一日が動き出す。

朝の楽しみは何といっても食堂での朝ごはん。ビュッフェスタイルで、そんなに豪華ではないが、ベトナム・中華・西洋の各種料理が並んでいる。もちろんパンやご飯などもあるが、フォーをはじめとする麺類と豊富な南国の果物が僕は嬉しい。

朝ごはんを済ますと暫く部屋でのんびりすることになる。その日の予定は特に決めていないので、毎日気が向いたところへ出かける。そうはいっても狭い街だから、ホテル周辺から旧市街を歩くことが多い。出かける時は洗濯物を忘れてはいけない。ホテル前のランドリーのママが待っている。

旧市街でお土産を探したり、いくつもある旅行社の店頭で両替レートをチェックしたりしてぶらつくのも面白い。店によって結構レートに差があるので要注意だ。

旧市街はコンパクトにまとまっているので、ブラブラしてるとすぐにはずれにある市場に行き着く。市場のまわりにもたくさんの小店が軒を並べているので何も買わなくても楽しい。

一番店頭が華やかなのが果物屋だ。僕らはたいていここでその日のデザート兼オヤツを買った。今回はちゃんとセラミック製のお皿とナイフを用意して来た。夕食後部屋で旬のマンゴーやスイカ等をよく食べた。

お昼時になると小さな食堂で、カオラウというホイアン名物の汁なしうどんやフォーをよく食べた。日によってはカフェでサンドイッチとジュースということもあった。道端にはベトナム風サンドイッチのバインミーの屋台も出ている。

ホイアンは観光客にとって実に便利で居心地のいいところだ。見どころにも事欠かないし、手ごろなお土産も多い。たくさんのレストランやカフェがあるのでバラエティーに富んだ食事を手軽に楽しめる。

勿論、観光客相手だから物価は他のローカルと異なり高めだ。だから、バックパッカーとして真面目に旅する若者には評判がよくない。

外出しない日にはホテルの中庭でのんびり過ごす。未だ3月で肌寒いのにプールで泳ぐ客がいる。欧米系が多いが、結構なお年のオジサンが平気で泳いでいる。彼らの皮膚はどうなっているのだろうと思う。

暇な客のために、ホテルはトゥボン川ボートクルースのサービスを行っている。予約しておけば誰でもOK、小一時間のクルーズだが、これが結構楽しい。いつも歩く旧市街の通りや市場を川から眺めるのも面白い。

ホテルで過ごす日の昼食はルームサービスがいい。カオラウは勿論、フォーやチャーハンなどが手軽に楽しめる。届いた料理をベランダのテーブルで食べていると、庭先の川面を次々に船が通り過ぎていく。こうしてゆっくりと時間が流れる。

ここではちょっとした事件が起きた。チェックインした翌日、時間があったので荷物の整理をした。面倒だけどこまめにやらないと後で困るのだ。

所持金をチェックしてみると、不思議なことに若干足りない。あわててもう一度調べたが、結局4万円ほどなくなっていた。僕らは現金をいくつかに分散して持参していた。財布や封筒、小型バック等へ分けて保管したはずの現金が、それぞれの保管場所から1万円ずつ消えている。

勘違いかとも考えたが、家内の封筒からも無くなっているのだ。いったいどうしたのだろうか。ホテルでは部屋の金庫に入れていた。移動中も荷物から目を離すことは無かったはずだ。

このホテルでの紛失は考えにくい。スタッフはみんな親切で礼儀正しいし、顔見知りもいる。そういえば前のホテルではいろいろあり、あまり親切では無かったが、そんなに悪いことをするとは思えない。

結局僕の勘違いか、とも思ったけど、今まで一度もそんなことは無かった。大した金額ではないがなんとも気持ち悪い話だった。大雑把な人なら気づかない程度の紛失、そこに余計不気味な思いがした。

しかし考えてみれば、旅行が続けられないほどのダメージでもないし、街角でひったくりや強盗に襲われるよりましだ。これも旅先では気を付けて無用なトラブルを避けるのだ、との天の戒めに違いない。僕はそう考えることにした。この程度で済んでよかった。

しかし悪いことばかりではなかった。ある日街からホテルに戻ったら、未だ部屋の清掃が終わっていなかった。最後の仕上げとして、係の娘さんがベッドの上にバスタオルで可愛いオブジェを制作中のようだ。

僕らが戻ったのを気づかなかったようで、楽しそうにハナウタ交じりに制作に夢中だ。このタオルのオブジェ、アジアのいろんなホテルで出会うことがあるが、この彼女は特にその仕事が好きのようだ。

いかにも楽し気に仕事に励む彼女を見て僕らも嬉しくなった。きれいな花模様をベッドに残すと、彼女は急いで部屋を出て行った。

ところが彼女はすぐに戻って来た。かなりあわてている。一体どうしたのだろう。そのわけはすぐに分かった。見ると彼女はバスタオルのセットを手にしている。花飾りに夢中になって肝心のバスルーム用のタオルのセットを忘れたようだ。

よっぽどオブジェ造りが楽しかったのだろう。仕事がそんなに楽しいとは幸せな人だ。そして彼女はまわりの人間まで楽しくしてくれた。このホテルがまた一段と好きになった。

夕暮れ時に食事のために外出すると、ホテル周辺にも灯りを灯した屋台が並ぶようになった。僕が初めてこのホテルに泊まった頃は、あたりにはがらんとした下町の風景が広がっていた。ある時はお葬式の列が川岸にむかっていたこともあった。

それが今ではレストランの数も増え、土産物や提灯を売る屋台も多くなった。ここ数年でホイアンは激しく変わった。旧市街へ入るには入域料が必要になったし、川の対岸にあたるホテル界隈も賑やかになった。

観光客が増え街が賑やかになるのは大いに結構だが、元の静かな雰囲気もいいなあ、と思ったりする。たまにしか来ないのに勝手なことを言うようだが。(続く)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
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24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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13 海があまりに碧いのです
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11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
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1 東北紅葉雪見風呂
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