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かくてありけり
64 続・原爆を撮った男
2016年8月21日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
▲ 広島駅構内の写真を手に「ここに写っているのは私です」と指さす光島章一さん=2015年9月、東京都青梅市の自宅
▲ 原爆で一面焼け野原となった広島市街の東側のパノラマ=1945年8月、中国新聞社屋上から
本エッセー第45回(2007年8月掲載)で「原爆を撮った男」と題して、同盟通信の中田左都男記者について紹介した。今回はその後日譚を報告したい。9年間にあった新たな展開と、それによる軌道修正について以下に述べる。

前回私は、共同通信に残る広島原爆被災を記録したオリジナルネガが6片11コマあると書いた。その内の一コマに広島駅構内の兵士風の一団の写真があり、配信したところ、掲載紙を見た読者から数日後に「ここに写っているのは私です」と名乗り出があった。しかしこちらの把握している撮影日と、読者のいう日付が違っていた。撮影者とされた中田記者は大阪の海軍調査団(団長・浅田常三郎大阪帝大理学部教授)に報道班員として同行し、大阪を8月9日夜出発、広島には10日、11日の両日しか滞在せず、12日午後には大阪に帰着している。

一方、名乗り出た都内青梅市在住の光島章一さん(現在87歳)は、当時広島県の旧制三次中学4年生の16歳で、呉市広町の広海軍工廠に学徒動員されていた。終戦で動員解除となり、同級生らと17日午前、広町の安永寮を出発、午後に広島駅にたどり着き、芸備線の復旧を待っているところだったという。
読者の声は、本来なら別記事を出してしかるべきだが、日付の不一致が解消できず、続報には至らなかった。だが光島さんは都内の小学校長を務めた人で、嘘をついているとは思えないし、一緒に写っている複数の同級生からも後日証言が寄せられ、不動の事実として受け止められた。

日付のギャップが埋められないまま日時は経過した。しかし光島さんの証言は私の頭の隅っこに引っかかっていて、毎年8・6の広島原爆忌が近づくと浮上してきた。昨年は戦後70年の節目だったが、私はなにもできなかった。嘱託で働ける期間も先が見えてきた。今やらなければもうできないかもしれない。
ネットで検索すると、光島さんは地元で原爆の語り部をしたことが自治体の広報誌に乗っていた。光島さんがご健在なうちに結論を出したいと思った。私は再度解明に取り組むことにした。

2015年9月、光島さんを自宅に訪ねあらためて当時の経緯を話してもらい、ボイスレコーダーに記録した。お話は具体的で細部もしっかりしていて間違いないと確信した。写真の方でその裏付けをとらねばと感じた。

まず資料を再点検した。2007年の時は画像作成を部員に任せていたが、今回は自分でオリジナルネガから画像を作成した。それで分かったのは、スキャナーの読み取りがやり易いものとやり難いものの2種類があることだ。仮にA群とB群とすると、A群のネガは真っ黒で、露出オーバーと現像オーバーなもの。B群は適切な露出と現像で、ほどほどの濃さである。

撮り方に注目すると、A群はいわゆる日の丸構図(人物を撮るとき顔を中心に持ってくるためその上に大きく余白ができること)の傾向があり、素人くさい。一方、B群にはそれが無い。

決定的なのはネガに残る現像むらの痕跡の位置である。A群はすべてネガの上部にスポット状のむらが連続して起きている。他方B群はいずれも下方に発生している。これは35ミリフィルムをベルト式タンク現像で処理した際、ベルトのぽっちがむらを引き起こしたものだろう。
プロの作業で現像むらとは信じられないことだが、事実起きていた。普段はパックフィルムを使っているので、35ミリフィルムの現像は不慣れだったのかもしれない。

以上3つの写真特性が指し示すのは、ネガは複数存在し、撮影者が異なることだ。一方を中田記者撮影として、もう一方は別の人間が撮影したとすれば日付問題は解消する。

実は2007年6月に、同盟通信写真部OBで戦後も共同通信大阪支社写真部に勤務した小路春美さん(2013年99歳で死去)に広島支局のT記者と一緒にインタビューしていた。中田記者についてお尋ねするためだった。
ボイスレコーダーから起こしたその記録を9年ぶりに読み直した。そこで氏は、中田記者とは別に大阪写真部から佐伯敬(たかし)という当時30歳のカメラマンが8月8日夜に大阪を出て広島へ出張したことを証言していた。共同に残る広島の写真のうち、白く枯れた稲の写真は佐伯カメラマンが撮ったものとも語っていた。
当時、同盟由来のネガはすべて中田記者撮影だという先入観にとらわれていた私もT記者も佐伯敬の存在に注意を払わなかった。また、途中で交代は出なかったという。したがって佐伯カメラマンが少なくとも17日まで広島にいたと考えれば、広島駅構内の写真は撮れたわけだ。

 今年の春、広島大学の原爆放射線医科学研究所(原医研)を訪ねた。ここには戦後まもない1945年暮れに米戦略爆撃調査団(USSBS)に提出させられ、1973年に米陸軍病理学研究所(AFIP)から返還された一群の広島原爆写真が所蔵されている。その中に同盟通信のオリジナルプリント28枚があることを探し当て、閲覧、複写した。

点検すると、現像むらの跡が多数のプリントで確認された。中国新聞社屋上から撮った5枚の全景写真はいずれも下部に連続黒点があり、佐伯カメラマン撮影の可能性が高いことも判明した。
以前に、この俯瞰全景写真はパノラマを形成すると睨んで連結を試みたことがあった。しかし2枚はつながったがそれ以上はうまく行かなかった。後で分かったことだが、共同通信に残るプリントは長年の使い回しの間に、左右がトリミングされ寸足らずとなっていた。
原医研所蔵の米軍返還資料のプリントデータを“お里帰り”させてもらい、やってみたら見事につながった。中国新聞屋上から市街東部160度の画角に納めたパノラマが完成した。鉄筋コンクリートの建物以外はすべて倒壊し、焼き尽くされ、一面の焼け野原となったことが読み取れる。
光島さんは、広島駅にたどり着き、ホームから南方の宇品方向を見ると、普段見えないはずの広島湾が遠望できたのを印象深く記憶しているという。

そのパノラマを畳大にした大型パネルが、8月27日から東京・有楽町の国際フォーラムで開催の企画写真展「報道写真に見る100年」(主催・新聞通信調査会、9月9日まで、入場無料)で展示される。ぜひご覧ください。

ともかくも光島校長先生に9年ぶりに“宿題”を提出できて、肩の荷が下りた思いだ。
それにしても、「ここに私が写っています」の名乗り出に端を発し、点がつながり一筋の糸となって同盟写真の掘り起しから、パノラマ作成にまで至った。遅ればせながら、新たな原爆カメラマンの公表もできた。
雲をつかむような話で、行きつ戻りつの試行錯誤を繰り返し、手間暇かかったが、終わってみれば知的好奇心を満たす楽しい作業であった。

ただひとつ残念なのは「佐伯敬」の追跡調査が道半ばであることだ。共同社内で佐伯敬の名を知る人が少ないのは、70年前の古い話であるだけでなく、佐伯カメラマンが昭和23年に大阪読売新聞写真部に移ったことが大きく作用している。でも同盟通信写真部OBの集まりには参加しており、その92年の名簿にあった大阪府池田市の住所を今年3月に訪ねたが、近所の人の話では本人も息子さんも死去し、家は売却され、お孫さんまではたどり着けなかった。新たな情報を待ちたい。
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