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2020年から蘇る(2) |
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2021年1月27日 |
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 | 雨宮 和子 [あめみや かずこ]
1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。 |
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▲ メモリアルの最後は、参加者みんなで、空に向かって薔薇の花びらを撒き、トーマスを見送った。 |
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▲ 薔薇の花びらとともに、トーマスは大きな空に上っていったような気がする。 |
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▲ ビーチを一人で歩くのにも慣れて来た。 |
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1月26日はトーマスのメモリアル(彼を見送る会)を開いてからちょうど1年目だった。
その前の晩、私はトーマスの夢を見た。彼の夢を見るなんて、2019年10月に彼を失ってから初めてのことだ。居間の大きな椅子に座って本を読んでいたのだが、いつの間にか眠り込んでいたのだ。
夢の中で、トーマスはまだ帰宅していなくて、私は心配していた。 (彼は70代半ばまで、農園で何か夢中になっていたり、帰宅の途中で寄ったところで時間がかかったりして、よく帰りが遅くなった。そのたびに、彼に何かあったのではないかと私は心配になった。日没近くに、私は愛犬ニコニコを連れて散歩に出掛けたのだが、帰り道には「トーマスはもう家に帰っているかな?」といつも思ったものだ。トーマスとニコニコの両方を失った後も、私は日没ごろに一人でビーチを散歩した。その帰り道に「トーマスはもう帰っているかしら」と自然と思ってしまい、「そうだった、それはもうあり得ないのだ」と自分に言い聞かせたものだ。) 夢の中で、私は階下に降りてトーマスの部屋のドアを開けた。(その部屋の裏のドアからいつも彼は家に入って来たのだ。)トーマスはその部屋の机に向かって座っていた。ああ、よかった。帰っていたのね。私はホッとして、彼の肩を抱きしめた。彼の温かみが私の腕に伝わって来た。私は夢の中で、もうすぐ彼はいなくなってしまうのだから、この温かみをよく覚えておこうと思った。(もうすぐ彼を失ってしまうということが、夢の中でわかっていたのはおかしいけれど。)
そうして目が覚めた。そのとき、私の腕にはまだ温かみが残っていると感じた。それが夢だと気がつくにはちょっと時間がかかった。腕に残っていると感じたのも夢の残りだったのだ。私はとてもがっかりしたけれど、悲しみに押しつぶされるということはなかった。トーマスがこの世にはもういないということに慣れて来たことが感じられる。
私は椅子から立ち上がって、お風呂に入り、寝床に入った。そしてすぐ眠りに落ちた。いつもはなかなか寝付かれないのが普通なのに。
翌日の1月26日、私はいつもより少し早く目が覚めた。とてもすっきりした気分で、心は穏やかだった。そうして、和ダンスの上に置いてあるトーマスの写真に目をやった。写真の彼はちょっと恥ずかしそうな笑いを浮かべている。 「あなたの夢を見たわよ」 私もにっこりして、彼にそう言った。
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